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第95話 在野に埋もれた手練れ

「ひぃぃぃ!! 悪かった! 俺が悪かった! だから!!」


「駄目だ! お前は殺す! なんかムカつくし」


「あわわわわわ!!!」


「死ね」


 クロが放った剣はゴンズの身体をすり抜け壁に刺さる。死の恐怖に耐えることの出来なかったゴンズは下半身を汚物で濡らし、白目を剥いて気絶していた。


「何てな? うわっ! 汚ねえなぁ」


「こ、殺さないの……か?」


「おいおい、この貴族を殺すデメリットを考えろよ? 俺は忠告しに来ただけだ」


「じゃあ俺達のやったことは……」


「まぁ、最悪無駄死に?」


「嘘だろ……」


 リーダー格の男は緊張感から解き放たれその場に大の字に倒れた。


「なあ! お前、名前教えろよ」


「デルタだよデルタ。うだつの上がらない小さな組織のリーダーだ。それで、あんたは何者なんだ? その若さでどれだけの修羅場を経験したのかはわからんが、只者じゃないだろ?」


 クロは剣をディメンションルームに収納し、部屋に飾ってある調度品を物色しながら盗んでいる。


「あ? 何か言ったか?」


「だから! 何者だよあんた!!」


「お前、もしかしてスラム街を拠点にしている末端の組織の人間か?」


「そうだよ!」


「そうかそうか……末端にもお前みたいな手練れいるんだな。これは一度……よしっ!」


「だからっ!」


「お前、俺の組織に入れ」


「はぁ!?」


「今死ぬか、俺に忠誠を誓うか選ばせてやるよ」


「二択の差がえげつないのだが?」


「どうするだ?」


「俺の仲間はどうなる? 一緒に行っても良いのか? というかあんたの組織って何だよ!?」


「お前の仲間か……まあ別に構わないけど」


「わかった……あんたに従う! まだ死にたくはないし、ゴンズの旦那とこれ以上一緒にいてもメリットも無さそうだからな! それであんた……いや、ボスの名前を教えてくれよ」


「お前切り替えるの早いな? まあ嫌いじゃないけど」


 生きるための処世術はスラム街で生きる上では重要で、プライドが邪魔をして屈服する選択肢を取れない者は、己が力で成り上がるか死ぬかの二択しかない。その点で言えばデルタは実力者でありながらもプライドより実を取る人間のようだった。このような人間は簡単に裏切るように思えるが、それはそれで利用価値がある。


「俺はクロ、懺蛇のクロだ」


「……え? 懺…蛇? え?」


「なんだその鳩が豆鉄砲を食ったような顔は」


「いや……え? 懺蛇って……あれだよな? スラム街を支配している組織で……そこのクロって……」


 デルタは全身から汗が吹き出し顔面蒼白になった。自分と対峙しているのが、スラム街をあっという間に支配し頂点に立った男だと知り、噂で聞いた話が頭をよぎる。


「そうだよ、お前は懺蛇に喧嘩を売った男爵に手を貸して、俺に刃を向けた勇者だよ」


「あ〜いや〜その……なんというか、俺達みたいな小さな組織は大きな組織の人達と面識何てないし……関わる事すらないもんだから……その……」


「お前も裏の世界で生きてるなら情報は命に等しいと自覚しろ」


「了解だボス! 俺はあんたについて行く!」


「切り替えの早さは潔くて良いけど……今後身の振り方を間違えるなよ?」


 クロがデルタに対し裏切りは許さないと威嚇すると、デルタの顔は引き締まり覚悟を決めた表情になる。


「俺達にとってはまたとないチャンスだ、仲間にもしっかりと伝えておく」


「じゃあ細かい話はまた今度って事で、この男爵の事だが……」


 気絶したゴンズを一瞥し、デルタに視線を動かす。


「二度と逆らえないようにきっちりと教育しておくから、ボスはこのまま帰ってくれ」


「さっきまでの雇い主にそれができるのか?」


「俺はもうあんたの部下だ、切り替えの早さは俺の長所だ」


「そうか」


 クロは満足気に頷き、ゴンズ男爵邸を後にした。


「……あれがスラム街の頂点か。あれには勝てない……格の違いとかそういうレベルの話じゃない化け物だ。本気なら俺達は一瞬で殺されてた」


 手加減をされていた事にはすぐに気づいた。初めて対峙した時に誰も生きてこの屋敷を出ることは叶わないだろうと覚悟を決めた程の絶望感があった。にも関わらず仲間は全員無事に撤退出来、自分もこうして命を拾った。その上で、懺蛇へ迎え入れられるという幸運を手にした事はデルタにとって運命の分岐点となっていく。


「そろそろ起きてもらわないと困るんだがな……おーい誰かいるか?」


 残されたデルタは気絶したゴンズを抱えソファに投げ下ろし人を呼ぶ。恐る恐る部屋へ入ってきたのは執事の男だった。


「あー執事のおっさん」


「は、はい!」


「水を汲んできてゴンズの旦那にぶっかけてくれ」


「はっ!?」


「起きてもらわないと困るんだよ……二度と変な気を起こさないように釘を刺さないといけなくてな?」


「直ちに!」


「さて……少し痛い目にあってもらうよ旦那? 俺もまだ死にたくはないんでね」


 ゴンズはしばらくして目を覚ますが、起きた時にはすでに心は折れており脅迫するまでもなく今後は懺蛇に対しては絶対の服従を誓い、貴族の特権を利用して便宜を図っていく事になる。


 一方でワイノール商会はというと、ゴンズとの協議も出来ず引き返す事になった後、全てが後手にまわり帝国内に持つ利権の殆どを懺蛇に譲渡するはめになった。

 その後、ワイノールの死体が川岸で発見されたが、大した調査もされずに自殺として処理された。

 ワイノール商会の没落で経済への影響が心配されたが、大きな混乱もなく経済は回っていった。

 その裏で懺蛇の力が増していくのだが、帝国内に居るクロ以外の異世界人によるチート能力を使った無計画な行動が経済に悪影響を及ぼそうとしていた。


 そしてそれが後の大きな事件へと繋がっていくのだった。

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

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