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第93話 ゴンズ男爵

 ゴンズ男爵は荒れていた。あと少しでスラム街を手中に収める事が出来たはずが一転して自身の命が危うい状況になってしまった。ワイノール商会の関係している店舗で発生した事件を聞いてからは外に出る事さえ出来なくなってしまい、打開策もないまま数日を過ごしている。


「くそっ! ワイノールの奴め! なんで俺がこんな目に!!」


 ガシャーン!!


 ゴンズは手に持ったワイングラスを壁に投げつけると、音を聞いた使用人が慌てて部屋に入ってきては素早く片付けを始める。この数日間はそんな作業が日に数回発生する為、使用人たちも気が抜けず男爵邸の雰囲気は最悪だった。


「フッ! 荒れてるなあゴンズ男爵」


「誰だ!!!」


「お前程度の人間が裏社会を牛耳れるとでも思ったか?」


「何者だ! どこから入ってきた!!」


 ゴンズ男爵は成り上がりの貴族で、後ろ暗い輩との繋がりを利用していると噂されており、貴族界では敬遠されている。そんなゴンズが貴族で居られるのは、裏社会に対するコネを利用したい貴族も少なからずおり、その中には貴族の中でも重鎮と呼ばれる者もいる。ゴンズを通す事で自身の企みが表に出にくい状況が作れるため、表の評価は低いが裏の評価は高くなっている。しかし、今回の件でその評価も他に落ち、ゴンズを通して悪さをしていた貴族達は手のひらを返して関係がなかったかのように振る舞った。


「なんだ、俺に会いたかったんじゃないのか? なあボン爺?」


「なっ!?」


「フォッフォッ! ゴンズよ久しいな? お主が今一番会いたかろう人物だと思って連れてきてやったぞ?」


「お、お前は裏ギルドの……お、俺の暗殺依頼でも出たのか!!」


「お前、話聞いてたのか? 暗殺するならとっくにやってるよ」


 月明かりが窓に差し込み、声の主が姿を現した。


「しょ、少年!?」


「初めましてゴンズ男爵。俺が懺蛇のクロだ」


 髪は赤黒く端正な顔立ちでどこか品もある少年だが、放たれる覇気は少年のそれではない。それがゴンズのクロと対面した時の印象だった。


「どうしたゴンズ? 帝都の裏社会を纏めている重要人物でお主の子飼いのチンピラなどのコネでは会う事も叶わぬお方だぞ?」


「この少年が懺蛇のボスだ……と!?」


 自分とワイノールが地位を失墜させようとした男が居る。見たところ手ぶらで、武器を携帯していない裏社会のボスが今、目の前にいる。そんな好機が訪れた事で手詰まりだった駒が蘇る。


(こいつを殺せば全て解決するではないか! 問題はこの爺いだが……長く裏社会の四天王として君臨していた男が護衛として付き添っているのが邪魔だな)


「若をただの少年だと思うたら痛い目をみるぞ? いや、もう痛い目におうてたか! フォッフォッフォッ!」


「ぐぬう! (確かに雰囲気を持った少年だが……俺も力で成り上がった男だ。いくら強くても素手の子供になど負けんだろうが……この爺いが邪魔だ)」


「ボン爺、こいつと二人で話したいから先に帰ってていいぞ」


「よろしいので?」


「ああ、元々一人で行く予定だったしな」


「では儂はこれで……」


 ゴンズは喜びを必死に抑え、二人の会話を静かに聞く。自分が望んでいた状況を相手が作ってくれた。


(神は俺をまだ見捨ててはいなかった! 必ず仕留めてやる!)


「ゴンズよ、若を下手に刺激せんことをお勧めする。まだ死にたくはなかろう?」


「お、俺は何も……」


 ボン爺の忠告に一瞬冷やっとしたがこの好機を逃す選択肢はゴンズになかった。

 ボン爺の姿が消え、二人きりになった。


「そ、そこに座りたまえ」


 あくまでも自然に警戒させずに油断を誘うべく行動を取る。それが重要だったが不自然さ満載のゴンズを見てクロは笑いそうになった。


「そう緊張するなよ男爵。言ったろ? 殺しに来たわけじゃないと」


「緊張など!? ゴホンッ!」


 パンパンッ!


「誰かおらぬか?」


 ドアがゆっくりと開き執事らしき初老の男性が部屋へ入ってくると、ゴンズが耳打ちをする。


「よいか? 急ぎあいつらをこの部屋へ突入させろ……そしてこいつを殺せ」


 執事らしき男はその耳打ちに驚き、目の前に座るクロを見るとさらに驚く。

 この少年が誰にも気づかれずこの部屋へ侵入した事も驚きだったが、この状況でもリラックスした状態で対面に座る胆力に冷や汗が出た。


「かしこましました」


 執事らしき男は足早に部屋を出て行った。


「今、飲み物を持って来させる」


「侵入者にそんな気遣いは不要だろ?」


「これでも貴族なのだ、招かざる客であろうがもてなす。それが貴族の礼儀だ」


 貴族にそんな礼儀はない。子飼いのチンピラ達が踏み込んで来るまでの時間稼ぎの苦しい出まかせだ。


「貴族って面倒くさいな」


「庶民にはわからんだろうが、大切な事なのだ!」


 緊張で冷や汗が出る。いつでも剣を抜ける状態で身体に力もはいり、手も汗ばんでいた。


「それで? いつ襲撃者がくるんだ? あ?」


「な、何の事だ!」


「あのなあ……全部バレバレなんだよ。挙動はおかしいし、汗の量も尋常じゃない。それに……ボン爺が帰ると分かった時嬉しさが爆発しそうな顔をしていたぞ?」


「くっ! だまれ小僧! どんな卑怯な手を使ってスラム街を掌握したのかは知らんが、あいつを帰したのは間違いだったな! 武器も持たずにここへ来たことを後悔するといい!」


 ゴンズは立ち上がり剣を抜きクロへ突きつけると鼻息を荒くしながら罵倒し始める。


「もう少しで俺がこの国を裏から動かせる程の力が手に入るところだったのだ! その計画を台無しにしたお前には死んでもらう! まさか裏社会のボスがここへ来るとは思わなかったが、運はまだ俺にあるようだな!」


「それで?」


 剣を突き付けても狼狽する事もなく足を組みソファに座るクロを見てさらに激昂する。


「ぐぬぬぬっ! 大物ぶりやがってガキが!」


 バァン!


 ドアが激しく開き、武器を持った男達がなだれ込んできてクロを取り囲む。


「俺は話し合いにきたつもりだったんだが?」


「ゴンズの旦那! この子供をればいいのか?」


「へへへっ! まだ子供だってのにお前何やったんだ?」


「余計な詮索はするな。お前らは黙ってこの小僧を殺せばいい」


「へいへい……ということで小僧、残念だが死んでもらうぞ」


 リーダー格の男がクロを後ろから斬りかかった。

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

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