第92話 見誤り
「さて……上手くやってくれるか……」
黒い箱を持たされた男は拙い足取りでワイノール商会の事務所がある建物の前に辿り着いていた。男には特に指示は出しておらず、とにかくワイノール商会へ行けとしか伝えていない。
男が中へ入り三十分程経った頃、手ぶらで出てきた。
「あれがどれほどの効力を持つかはわからんが……仕上げだ」
カチッ! ピピピピピイーーーーー!!!!
ドォンッ!!
クロが手持ったスイッチを押すと、男に付けられた首輪から警戒音が鳴り響き爆発した。
爆破の衝撃で男は絶命し、その場に倒れ込んだ。
建物の中から従業員らしき女性が何事かと出てきて、その惨劇をみて悲鳴をあげると、次々に人が集まり大騒ぎになっていた。
クロが渡したのは男が付けていた隷属の首輪と同じモデルの物で、警告の意味を込めて男の首輪を建物の前で爆破させたのだった。
「おい」
「はっ!」
「残りの奴らをワイノール商会が運営している店へ行かせ爆破させろ」
クロは爆破の威力を確認し、部下に指示を出す。
「あ〜できる限り関係のない一般の人間は巻き込まないように注意しろ。まぁ、あの爆発で二次被害が出る事はないだろうがな」
爆破の威力は首輪を付けた人間を絶命させるが、内側に向け爆発する為直接的な被害は付けた本人にしか及ばない。だが、その非人道的な光景は精神的な部分でかなりの影響を及ぼすだろう。
「転生前の世界だったら炎上どころの騒ぎじゃないだろうな」
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今回の騒ぎは転生後でも大問題である。クロの指示通りに帝都にあるワイノール商会が関わっている店先で次々と人体爆破が起き、衛兵が事件解明の為に捜査を開始する騒ぎとなっていた。皇室御用達の商会であるワイノール商会が狙われた事は皇帝の耳にも入っており、他国による工作の可能性も捨てきれないとの見解を示し、厳戒態勢がひかれていた。
「会長! これは絶対に懺蛇の連中の仕業ですよ! スラム街のクズ共が調子に乗りやがって!」
「わかっている! だが奴らがやったという証拠はないのだ!」
「証拠も何も爆破して死んでいたのは懺蛇の下部組織の連中ですよ!」
「私もそれを衛兵に伝えたが、あの組織は下部組織も含めてファミリーと呼び、仲間の死を一番嫌うのは有名な話だ。表舞台には出てこない故に一般庶民や情報に疎い貴族共は知らないだろうが、国の中枢にいる連中は不干渉、不可侵を徹底する程の有名人だぞ? 証拠もなしに踏み込めないと一蹴されたわ!」
「しかし! あの死んだ奴らはうちの商会が武器を融通した組織の連中で、ゼクトと会長の企みに加担した者たちですよ!? 裏切り者を奴隷にし、非道なやり方でうちの商会に喧嘩をふっかけてきたんです! これが証拠でしょう!」
「馬鹿者! ゼクトが起こしたクーデターに我々が加担したという事実はなかった事にしなければならんのだ! それだけは認めてはならん! ならんのだ……!!」
ゼクトとワイノールの間で交わされた密約は、カジノの関連の独占であり、運営権も譲渡される予定だった。その他にもスラム街に流通している珍しい商品の売買、改修などの工事といった懺蛇が持つ事業の殆どをワイノール商会を通して行う。その引き換えに懺蛇は武器の融通や活動に必要な資金の提供など主に戦闘面での全面バックアップを受けるようになっていた。
ワイノールにとって大局を見れていないゼクトとリュウシンは御し易く、クーデターの話が出た時は笑いが止まらなかった。特にカジノに関しては莫大な利益が見込めるため、運営権の一部でも手に入れたいがためクロとの交渉を慎重に進めていた。しかし思いの外、クロには隙がなく手詰まり状態であった。そんな時に舞い込んだ好機に浮かれてしまいクロという男の非情さと実力を見誤ってしまった。その結果がこの惨劇だ。
「血判状ですか……」
「相手はバカなスラムの人間だ、そんな事知らんと言って反故にする可能性もあったからな……この血判状は保険のつもりだったが、よもやこれが足枷になるとは」
「ゼクトが持っていた血判状は既に奴らの手にあると?」
「その答えがあの自爆だろう……この件についてはゴンズ男爵と話し合う必要がある。血判状には男爵の名前も書いてあるからな」
「男爵は何と?」
「懺蛇を裏から支配し、スラムの連中を意のままに操り、スラム街を支配するつもりだったのに、蓋を開けれてみれば命を狙われる側になってしまったとお怒りだ」
「懺蛇のクロからは何も言ってこないんですか?」
「ボールはお前らにある。そのボールをどこに投げどう返すかを考えろというメッセージがあの自爆だろうな」
「まだ交渉の余地があるという事ですか?」
「そうだ、だがそれは我々が大きな痛手を負うのが確定している交渉だ」
「なんとかならないですかね……」
「それを今から男爵と話し合うのだ! とはいえ難しい交渉になるだろう」
ワイノールは頭を抱えたまま男爵邸へ急いだ。
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