第73話 カルトの苦悩
「あぁぁぁぁ! もうっ!! 何なの!!!」
「だから何度も説明しただろっ!?」
アイリとゲイルが洗脳されてると思い食堂へ駆け出したイリアだったが、食堂前にはスラムの住民が集まっており何を言っても中には入れなかった。それどころか罵声を浴び石まで飛んでくる始末で、さすがに一般庶民に手を出すという過ちを犯す事がなかったのは、寸前でアイリとゲイルが止めたからである。
「ねえイリア? こんな汚いスラム街なんて早く出て魔王討伐の旅を続けようよ」
「俺もアイリの意見に賛成だ! ここの住民は救いようがない! 俺達が命をかけて戦って悪い組織の拠点を壊滅させたのに礼どころが石を投げてきたんだぞ!」
「そうね、でもこれは全て魔王が存在する事が原因よ! ここの人達を悪く言ってはいけないわ」
「イリア……やっぱりイリアは勇者ね! 私はあなたに命を預けて世界を救う!」
「俺もだイリア! 剣聖と呼ばれ剣の道を極めた俺の力、お前のために振るおう!」
カルトは辟易していた。彼は世界を救うというこの三人とは温度差があり、可能なら今すぐにでも村へ帰りたいとさえ思っている。嫌々ながらも強制的に同伴させられ冒険していくうちに世界を救うっていうのも悪くないと思った時もあった。しかし、エルフを救った辺りから何となく違和感を感じ始め、それまで行き当たりばったりで旅をしていたのを改めて情報を集めながらこの国までやってきた。自分が見てこなかった世界は思っていたより複雑で、世間知らず過ぎた。
「盛り上がっているところ悪いんだけど、俺達の目的は聖女様だよ? イリアの悪い癖で道草を食ったから後回しになっているけどね」
「なんだよカルト! お前は最近小言が多すぎなんだよ!」
「本当どうしちゃったのカルト? 前はもっと"やれやれ"って感じで賛同してくれてたじゃない!?」
「良いかい? 俺達は勇者パーティーではあるけど、自分達の正義が全て正しいとは限らないんだよ? それをちゃんとわかってる?」
「うるさいなぁ! カルトは考えすぎなんだよ! 困っている人が居れば私は助ける! それは勇者とかじゃなくて私が心から思ってる事なの!」
イリアの行動原理は正義感から来るもので、悪気なんてものは皆無だった。自分の目の前で困っている人が居れば優先順位をすっ飛ばしてでも助けようとする。それは普通には出来ない事で尊敬出来る部分ではあったが、問題なのは困っている人の善悪は関係なく、言葉通り困っている人を助けてしまう事だった。
「やってしまった事は帳消しには出来ないから今回の事はもう言わないけど、今後は衝動的に動くのは控えてくれ」
「ふぅ……まっカルトにはいつも助けられてるからね、気をつけるよ」
イリアの気をつけるは当てにならない。もう帰りたいと胃が痛くなるカルトであった。
「じゃあ、聖女ちゃんをお迎えに行きますかね!」
「ついに俺達のパーティーにヒーラーが加入するのか! 魔王討伐が捗るな」
「どんな子なんだろう? 聖女って言われるんだから優しい人だと良いなあ」
カルトは聖女についてはこの三人に何度も説明している。"神罰の聖女" という異名を持ち、スラムで生まれ育ち絶対神デニスから神託を受け聖女になるが争い事が嫌いで教会の周囲で戦闘行為を行えば神罰が下る。帝国も当初は聖女が生まれた事を喜んだそうだが利用しようとして神罰が下った。そんな人物が魔王討伐のためにパーティーに加わるとは思えないと言ったが、イリアは「何言ってるの? 聖女だよ? 魔王の敵だよ? 一緒に冒険するに決まってる」と言って話を聞かない。
「お願いだから拒否されたらその時点で引き上げるからね? 無理矢理連れ出すとか駄目だからね?」
三人はカルトの方へ振り向き笑う。
「聖女様が拒否するなんてありえないでしょ〜だって聖女様だよ?」
「そうよカルト! そもそも拒否するような人が聖女になんてどんな笑い話?」
「聖女様はきっとこのスラムの住民が可哀想で離れられないだ、そんな不安を俺達が払拭してやれば安心して着いてくるさ」
カルトは半ば諦めた。この後起こるであろう事が容易に想像でき、被害を最低限に収める為の方法に頭をフル回転させていた。教会へ続く道の角を曲がるとそんな未来予測が間違っていなかった事を証明する状況が目の前にあった。
「え? 何? 大勢の人が……」
「な、なんだこいつら……」
「イリア!? 何か怖い顔の人達がずらりと並んでこっちを見てるんだけど……」
誰一人として言葉を発さず四人を睨み両端に整列している。その先には教会が見えており、門の前に雰囲気のある男が立っていた。
「な、何もしてこない? どういう事?」
「でも殺気はビンビンに感じるし、敵意剥き出しって感じだな……」
「ねえイリア! もしかして報復なんじゃ……懺蛇って組織の拠点壊したのを怒ってるんじゃないかな……?」
「そうなら倒すまでよ!」
「待てイリア!」
剣を抜こうとするイリアをカルトが必死に止める。
「カルトどいて! 敵が攻めてきてるのよ!」
ゴンッ!
「いた〜い! 何するのよ!?」
「さっき言ったよね? 衝動的に行動するなって。彼らはまだ何もしてない! 立ってるだけだ」
イリアは不貞腐れながらも足を進め教会の目の前までやってきた。
「あんた誰? 私達はそこの教会にいる聖女ちゃんに用事があるんだけど?」
門の前に立ち行く手を塞ぐ男が一歩前に出る。
「今代の勇者というのは教養もなければ、礼儀というのも知らないんだな?」
「どういう意味かなぁ?」
二人の間に緊張が走る
「イリア! あいつ! あいつよ!」
「何?」
「あいつが懺蛇のボスだイリア……」
「そう、あなたが懺蛇っていう悪の組織の親玉ね!」
「クロだ、懺蛇のクロ。悪の組織と言われるのは心外だが、まあそれはいい」
クロはイリアの目の前までやってきて無言で睨みつける。
「な、何よ!」
「お引き取り願おうか?」
「はぁぁぁぁ???」
勇者イリアの絶叫が響いた。
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