第71話 おばばばーばばーばば
「エリーナ居るか!?」
クロは教会へ到着すると勢いよくドアと開けた。
「これはクロ殿、そんなに慌てて如何なされた?」
「おばば! 説明は後だ、エリーナはどこに?」
現れたのはこの教会を運営しているシスタークリエであった。クリエは齢八十三を超える老婆で、この教会から巣立って行った孤児達は彼女の事をおかあさんだったり、おばばと呼ぶ。孤児院を始めたきっかけはクリエ自身が子供を産めないため、不幸な子供を見ると溢れた母性愛が限界突破してしまい保護してしまうからだ。孤児院を始めれば諦めていた子育てが出来き、親に捨てられたり天涯孤独になった子供達を我が子のように愛し育てている。
最初クロはクリエをばばあと呼んでいたが、そのたびに頭を叩かれておばばと呼ぶようになった経緯がある。
「エリーナはデニス様の像の前で祈りを捧げておるが……どうしたのじゃ?」
「奥だな? 邪魔するぞ」
「これ! エリーナは祈りの最中だと言うておるに!」
「デニスだろ? なら大丈夫だ」
ペシっ!
「いくらこのスラム街を牛耳る懺蛇の者であっても神を冒涜するのは許さんわい!」
「良いんだよ! デニスは」
ペシっ! ペシっ! ペシっ!
「痛いっておばば!」
デニスはクリエの前に顕現する事はない。エリーナが祈りを捧げている時は誰であっても礼拝堂に入る事を許されず、その間は入ろうとする者が出ないように門番の役割をクリエが担っていた。
ただ、エリーナが礼拝堂に入ると不思議な力でドアが固く閉ざされ何をしても開かないので門番の必要はない。しかし、無理矢理こじ開けようとする輩が過去に一度だけ現れ、その者は神罰を受け絶命した。そういった者が出ないように門番をしているのはクリエの優しさなのだ。
「神罰を受けたいのかい!? 自殺志願者を救済するのはシスターの役目! 特にクロ殿に何かあればエリーナが悲しむ。可愛い娘のそんな姿を誰が見たいと思う?」
「おばば心配するな俺は大丈夫なんだよ」
「世迷言を……」
「いいからどいてくれ!」
クロはクリエの静止を振り切りドアに手をかける。
「エリーナ! 入るぞ!?」
ガチャ
「なっ! まさかそんな……」
簡単に開いたドア見て目を見開いた。
無理矢理こじ開けようとすれば神罰が下り、普通にドアに手をかけてもピクリともしないドアがクロを受け入れるかのように目の前で開いた事にクリエは驚きを隠せない。
「おばば! 後でリュウシンが来ると思うからここで待つように言っといてくれ」
クロが礼拝堂に入ると再びドアが固く閉ざされ、前室は驚きのあまり固まったクリエの姿を残すのみとなった。
礼拝堂の中を進むと、優雅にティータイムをしているデニスとエリーナが居た。
「エリーナ!」
「クロ様! 如何なされたのですか?」
【やあ、クロ氏。その顔はどうやら災厄が来たようだね】
「コロコロと呼び方変えやがって……。そんな事より、エリーナ勇者がこの街にやってきた」
「勇者様……どのような方でした?」
「勇者とは会えなかったが、そのパーティーとは一悶着あった。拠点は潰されたし、話は聞かないという残念な仲間だったな」
「拠点が!?」
「あ〜心配するな。すぐにでも新しく建て直すし、予定に変更にない。むしろ前より立派にしてやるよ」
「いえ……そうではなく」
エリーナが心を痛めたのは、クロ達にとってそこは死んでしまったカインとの思い出が詰まっていた。彼が使っていた部屋は物がそのまま残っており、他の者の立ち入りを禁止する位大切に保管されていた。そんな思い出の場所を壊された心中はいかほど傷ついたのだろうという思いからくる苦しさだ。
「形ある物はいつか壊れる。それが今なんだろう」
「クロ様……」
「それよりだ! すぐにでも勇者がここにやってくるはずだ。リュウシンを呼んでるから、あいつが来たらすぐにでもここから離れるんだ」
「クロ様はどうなされるのですか?」
クロは静かに目を閉じ一呼吸置くとゆっくりと目を開け宣言する。
「そりゃ決まってる……平和的に話し合いだ」
明らかに嘘とわかる言葉にエリーナはさらに心配になる。しかし、勇者の目的はエリーナであり、簡単に引き下がるような相手ではない予感がするが、神であるデニスから神託を受けたクロの覚悟を否定する事は出来ない。
「わかりました……」
「そんなに心配をするな。やばくなったら逃げるし、それに……お前を守るって決めた男を格好つけさせろ」
強く握られた拳からは血が滴り落ち、覚悟をきめた男の心そのものだった。
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