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第68話 無責任な正義の後始末

「クロの兄貴! 大変です! 拠点が何者かに襲われて……」


 顔面蒼白で息を切らしながら食堂へ飛び込んできた男は所々怪我をしており、激しい戦闘があったのだと想像できる。


「イリアがお前の拠点の壊滅に成功したみたいだな!」


「自分達が正義、困っている人がいたら助けて当たり前……お前達は満足なんだろうが、その後、それがどうなったか確認した事はあるか?」


「幸せになったに決まっているでしょ! 悪い奴を退治したんだから!」


「勇者イリアの事は知っている。お前達が何をしてきたかも全てな」


 懺蛇の情報網はこの国だけに留まらずメランコリ国はもちろん、周辺国の情報も収集している。特に勇者イリアの情報は嫌でも入ってくる。どこどこの村で魔物のスタンビートを阻止した。とある漁村でダイオウイカの討伐。霊峰に住むドラゴンを討伐。賊の討伐など多岐に渡る。


「悪者が考えそうな事だ!」


「年貢の納め時ね! 私達がここに来たのは聖女が誕生したと聞いたから仲間にするためにやってきたの。そんなところにあなたみたいな悪者がいたのは私達に討伐しろという神の導きよ!」


 おめでたいお花畑脳の解釈は恐ろしいものだとクロは思った。エリーナをこいつらから守るために神であるデニスから使命を授けられ、まさに今その元凶達が目の前にいる。どちらが正しいのかが神の意志に左右されるのなら正義はこちらにある。


「神の導きか……お前達が倒したドラゴンだが、山の生態系が変化してスタンビートが起こった。その魔物の大群はとある村へ進み、運良く阻止できたが、放置された大量の魔物が放つ瘴気で村の作物は全て毒に侵された」


「え?」


「何のことよ!」


 驚きの顔を見せる二人を無視して話を続ける。


「漁村を困らせていたダイオウイカは昔からその地域を凶悪な魔物から護ってきた守護神の様な存在で、長年祀られていた風習が忘れられ力を失い近海に出て自ら脅威を排除していた。その守護神が討伐され村はその後、魔物の襲撃を受けて壊滅した」


「は!? 嘘だろ……」


「だから村長さんは感謝の言葉もなく私達を村から追い出したの!?」


「とある賊だが……不正を働いている貴族や教会の癌、周辺の山賊を襲撃していた義賊だったが、全滅した。その後その周辺は山賊が跋扈して治安が悪化。善良な商人達が次々に襲われて流通が滞り、その周辺の道は犯罪に使われる品を運びやすくなったそうだ」


「だ、誰のことを言っているんだ!」


「さあな? まあ考えなしに正義感を振りかざした馬鹿が暴れまくった結果を教えてやってるだけだが?」


「そんな事……」


「どうした、顔が青いぞ? 因みに、お前達の旗印である勇者が今壊したとされている建物だが、あそこは後に改装して孤児達が住み店を開く予定だったものなんだが……さて、どうしたものか」


「え? え??」


「なんで悪党が孤児を……? いや! 孤児達を利用して私腹肥やすつもりだったんだろ!」


「都合の悪い事は全て悪人のせいか……まわりを見てみろよ?」


 二人は入口へ振り返り、集まった野次馬を見る。その顔は皆怒りに満ちており、今にも暴動が起きそうな雰囲気を醸し出していた。


「な、何でそんな目で……ホ、ホルンさんこれはどういう事ですか!?」


「聞いてた話が違うわ!」


 ホルンの顔も野次馬と同じく強い怒りの形相になっていた。


「私はクロさんに助けられ、ここまで店を繁盛させる事ができるようになったんです! お借りしたお金も無理のない金額で返済して構わないと言われました。この周辺のお店はそういう人達ばかりなんです! つい最近までこの街は死んでいてそれをあっという間に活気のある街にしたのは全てクロさん達、懺蛇の皆さんのおかげだとここにいる全員が感謝しているというのに、あなた達は人の話をちゃんと聞かずに勝手に暴れて……自分達が何を……!」


「ホルンもういいよ、ありがとう」


 ホルンは涙を流しながら訴え、集まった野次馬からも賛同の声が響く。


「俺も全てが善意でやったとは言えないし、一般的に言えば悪党である事には変わらない。だがな……責任感のない正義感がどれだけ迷惑なのか理解した方がいいぞお前ら」


「ほらな! 自分で悪党だと自白したな!」


「所詮はスラム街ということね? 悪党の味方をして甘い汁を吸うことでしか生きることの出来ない! だからこんなところで苦労するのよ! そんな人達を救うためにやった事を否定されるなんてありえないわ!」


 言い返す言葉もないかと思いきや、持論は変わらずスラム街だからと差別的な発言を繰り返す。


「はぁ……拠点の事は不問にしてやる、更地にして新しく建て直せば問題ないしな。それより……さっさとこの場から去った方がいいぞ?」


「な、何っ!」


「あんたみたいな悪党を野放しになんてっ!」


 立ち上がり戦闘体勢をとった瞬間に周囲から罵詈雑言が飛び交う。


「お前らの正義感なんて自己満だろ!」


「だまれ偽善者!」


「クロさんに謝れ! 脳筋パーティー!」


「「「「帰れ! 帰れ! 帰れ!」」」」


「アイリ! 行くぞ! こんな馬鹿みたいな連中は助けてやるだけ無駄だ!」


「そ、そうね! 私たちの目的は聖女! こんな汚いところはさっさと出てイリアと合流しましょう!」


 二人は周囲の想定外の反応に驚き足速に店を後にした。

 そんな後ろ姿を見ながらクロは警告する。


「あ〜このスラム街は俺の支配している場所だ。これ以上問題を起こすなら次はないぞ?」


 キッ!


「アイリ! 行くぞ!」


 アイリは振り向き睨みつけるが、ゲイルが止め野次馬をかき分けるように去って行った。


「問題起こすんだろうなあ……勇者か……先にエリーナと合流しないといけないな」


 この後に起こるであろう勇者との邂逅を想像すると胃が痛くなるクロだった。

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

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