第64話 神の奇跡
スレイを引き摺りながら歩いているとエリーナの後ろ姿が見えた。クロとしてもカインとマリベルが死んだという事実を受け入れ難い部分もあり足取りが重かった。
「クロ様……」
涙を浮かべエリーナが振り向く先に血だらけで息のしていない二人が横たわっていた。着ていた防具や武器は剥ぎ取られ肌着姿にされていた。
「エリーナすまない、馬車の手配を頼めるか?」
「……はい」
魔法袋から布を取り出し二人の遺体を包む。とうに枯れたと思っていた涙が頬を伝い地面を濡らす。二人の頬を触るとまだ体温が残っており、すぐにでも起きてきそうな気がして話しかける。
「お前ら……何してんだ? 敵は殲滅したぞ? いつまで寝てんだよ! 起きろよ!(そうか、俺は悲しいのか……並列意思とは便利だがこういう場合に使うのは微妙だな)」
まだ生きているような気がして受け入れる事が出来ない自分と、それを冷静に見ている自分が存在する不思議な感覚がクロの持つ並列意思スキルの効果で襲ってくる。このスキル効果を切ってしまうと、簀巻きにしているスレイを八つ裂きにしてしまうだろうという判断でそのままにしていた。
「さあ、帰るぞカイン! マリベル! これから俺達を襲ったやつらに報復に行くから寝ている暇なんてないんだぞ? それにカジノ建設も順調に進んでるし、やっと豪華な部屋に住めるんだぞ? 待望の個室だぞ? 応接室も作るし、美味しい物も食い放題なんだからな! なあ? 起きろよ! (カジノ建設は放っておいても進むだろうから優先するのははミルドに対する報復だな。あ〜なんかこいつどうでも良くなってきたな……もう殺しちゃうか? いや駄目だ、リュウシンとゼクトの為にもこいつは生かしておかないとだな)」
どんなに呼びかけても返事はない。そんな二人を抱きしめ復讐を誓う。
(蘇生魔法! 蘇生魔法は存在しないのか?)
【残念ながら蘇生魔法はないよ?】
(デニス! それは神の力を持ってしても出来ないのか?)
【僕は神だよ? 不可能はない。だって今並列意思の君にだけ話しかける事が出来るような存在だよ?】
(確かにこっちは冷静だからな。じゃあ蘇生は可能ってことだよな?)
【蘇生魔法が存在しない。そんな世界に於いてそれを行使するという意味を君は理解しているかい?】
(正直に言ってしまうとそんな事はどうでもいい)
【君が体験している今は、この世界にとっては奇跡と呼ばれるモノなんだよね。まあ神がお気軽に顕現しておいてあれだけど、その奇跡を目の前にしてさらに奇跡と呼ばれる蘇生をしろと?】
(神がケチケチすんなよ)
【君は神を舐めすぎだよ】
神は簡単に顕現するものではない。世界が崩壊の危機に瀕しており、神に祈るしか方法がなくなり世界中の人々が神の奇跡を望んだ時に救済の道を示す為に顕現する。それ程の奇跡を気まぐれで軽いデニスの個人的な趣味でエリーナとクロの前に姿を現してしまうので神の奇跡を勘違いしてしまう。
【それに、この失態は君の驕りであり判断ミスで起きたという事を理解しないとね】
(厳しいんだな神は)
【何言ってるのさ、超絶優しい神だよ? それに甘やかすだけが優しさではないし、僕の使徒には強くなってもらいたいから試練を与えてあげているんだよ】
(試練ねえ……)
【正直なところ、僕にとって大事なのはエリーナちゃんと世界の維持だからさ? 君の仲間が死んだとしてと僕にとっては数多ある生命の一つに過ぎないのさ】
(その為だけに俺を利用しているだけって事だよな?)
【ぶっちゃけそうなるけど、君の場合は転生した経緯もあるし結構便宜を図ってるつもりだよ?】
(そりゃどうも!)
【じゃあ僕は行くけど、早く依代を見つけてね? その状態になってさえいれば今回のような悲劇も起きなかったしね】
(……わかった)
あまりにも急ぎ過ぎたと痛感した。一つひとつ着実に事を進めていれば回避できた事も沢山あったはずであり、自分ならやれるという驕りや過信がこの世界を舐めプしてしまい最悪の結果を招いてしまった事を後悔する。
「……クロ様、お待たせしました」
「ありがとうエリーナ。じゃあ俺達のホームへ帰ろうか」
死体となった二人と簀巻きのスレイを馬車に乗せ馬車はゆっくりと走り出した。
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