第58話 悪霊退散
ギィィィィ!
重厚な玄関を開くと部屋の中は灯りもなく真っ暗だった。
「クロ様、魔法は使えますか?」
「いや、俺は魔力はあるけど魔法はからっきしでな」
「そうなんですか?」
クロは魔闘術の鍛錬を行う事で魔力量は幼少期に比べて増えている。しかし、魔法は一向に使える気配はない。詠唱を唱えてみたりはしたがそもそも魔術の素養がないのが原因なのか魔闘術による身体強化以外に魔力の使い所がない。
「使ってみたいんだけどな〜魔法」
「では、私が! 闇を照らす光よ! ライト!」
リナ(エリーナ)が魔法を唱えると指先から光の球が浮き上がり、周囲を明るく照らし始めた。
「おぉ! 明るいな。さて、どこから見て回ろうか」
「クロ様、悪霊って昼間から出るものなんですかね?」
「まあ霊といえば夜ってのが定説だよな」
広い館の中を歩き回り、一つひとつ部屋の中をくまなく探すが悪霊と呼ばれる存在に遭遇しない。昼間の探索を諦め夜に出直そうと思った時、それは現れた。
(出て行け!)
「ん? エリーナ何か言ったか?」
「もう! リナです! いいえ? 私は何も……」
(招かざる客は排除する!)
キンッ! ザッ! ザッ! ザッ!
どこからともなく飛んできたナイフが二人を襲い目の前の床に刺さる。
(これは警告だ! すぐに立ち去れ!)
「クロ様、どこにいるかわかりますか?」
「どうやら恥ずかしがり屋の悪霊らしいな。おい、お前隠れてないで出てこいよ? それとも俺達が怖くて姿を見せることが出来ないのか?」
(賊風情が……)
「賊? ここはスレイという奴が最近買った館だ。俺達はそいつから迷惑な悪霊を退治してくれって頼まれてんだよ」
(何ぃ!? この館の主人はバレッタ様だ!」
「え? 違うぞ? スレイだ」
(バレッタ様だ!)
「いや、だからスレイだって」
(えぇぇぇ……バレッタ……様)
「スレイだ」
(う、嘘……だってバレッタ様は必ず帰って来るって……)
「それいつの話しだよ」
(わからない……もうずっとバレッタ様の帰りを待ってて……)
「わからないってお前なんなの? 悪霊なんじゃないのか?」
(悪霊!? この館に悪霊なんていない!)
「いや、お前がその悪霊だろ」
(え? ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)
この悪霊(仮)は自分が悪霊と呼ばれているとは思っていなかったようだった。
「なあ? とりあえず話し合わないか?」
(………………)
悪霊(仮)は館の主人が変わっていた事にショックと自分が悪霊と呼ばれている事に受けたのか黙ってしまった。
「クロ様……」
「出てきたら神聖魔法で浄化だ」
「え? 話し合いをなさるのでは?」
「え? 何でだ? いらない奴だろ悪霊(仮)なんて」
「確かにそうなのですが……なんかその……可哀想というか」
リナ(エリーナ)にはこの悪霊(仮)と呼ばれる存在が可哀想に思えるらしく、騙し討ちは望むところではないようだった。クロしてはさっさと討伐し報酬を貰って帰りたいので慈悲は必要ないという考えである。
「そうか? まあそう言うならしょうがないな……おい! 黙ってちゃわかんないだろ?」
(ほ、本当にバレッタ様はもうここには帰って来ないの?)
姿を現したのは、悪霊(仮)とは名ばかりのメイド姿の幼い女の子が悲しい顔をのぞかせながら近づいて来る。
(ねえ? 本当にバレッタ様は……)
ゴンッ!
「クロ様!」
(痛たぁぁぁぁぁい! 何するのよ!)
クロは姿を現した悪霊(仮)の少女を思い切り殴り飛ばした。
「成敗だ! 死ね悪霊(仮)! あっもう死んでいるのか……地獄に堕ちろ悪霊(仮)!」
(ぎぁぁぁぁ! 待って! 待って! ちょっと何なのこの人!)
「クロ様! 話し合いは!?」
「話し合い? そんなものくそっくらえだ!」
(う、嘘でしょ! ねえ! 話し合おうよ! 私悪い霊じゃないよ!?)
「悪い人はみんなそう言うんだぞ! 油断も隙もないな! 大人しく成仏しろやぁぁ!!」
(ちょっ! ちょっと待ってよ! ね、ねぇ? そこのお姉さん! この人止めてぇぇぇぇ!!!)
逃げ回る悪霊(仮)を拳を振り回しながら追いかけるクロを見て、リナ(エリーナ)の口は開きっぱなしだった。
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