第52話 お化けなんて信じない
歓楽区画の顔役達を籠絡し、後顧の憂いはなくなった。建設は始まっており、その中心で腕をふるっているのはガロウ達工業区画の連中だ。
指示系統については報連相を徹底する事でとりあえずは様子見であろう。続いてはカジノ経営に関する話しを詰める段階ではあったが、肝心のワイノール商会の会長の都合がつかない。
「どうなってんだゼクト?」
「そんな目でみないでよぉ〜? 会長はすぐにでも会いたいって言ってたんだけどさぁ〜あっちも商売だしうちだけが顧客じゃないんだよぉ」
「なあクロ、時間があるならマリベルからの依頼片付けたらどうだ?」
現在、マリベルは帝都にある冒険者達が集まる宿屋で働いている。冒険者の情報収集をメインにしており、定期的に報告はあがっていたが大きな変化はないようで後回しにしていた。そんな折、マリベルは宿屋に併設している食事処の常連からある悩み相談を受けていたらしく、自分では解決できそうにないので助力をお願いされていた。不動産を扱っている主人で、帝都以外にも手広く取り扱っているやり手らしく今後役に立ちそうな人物なので恩を売るメリットが大きいとの事だった。
「なんだっけ? 幽霊が出て困るだっけか」
「うわ〜僕は遠慮するよぉ〜幽霊とか無理ぃ」
「俺は平気だが、これから裏ギルドのギルドマスターに会いに行く用があるからパスだな」
「ゼクトは正直だが……リュウシンお前本当は怖いんだろ?」
「まさか、首領ボンとの面会はうちとしても重要な案件だ! 怖くなんかない!」
「じゃあカインお前と……」
「俺は留守番だ!」
「は?」
「誰が来るかわからないし、もし緊急な報告があった時にここに誰も居ないと困るだろ!」
「ゼクトが居るだろ?」
「!!!」
「行くぞ俺の護衛」
「俺……最近思うんだよ……護衛要らなくね? クロってもはやスラム最強じゃん? 誰が勝てんの? 誰が襲うの? クロより弱い護衛なんて意味ないよね? なあ? そうだろ?」
「却下、護衛も鍛錬だ諦めろ」
「く、くそぉ! 幽霊相手だと剣も効かないだろ! すり抜けるし怖いだけじゃん!?」
「頑張ればなんとかなるだろ?」
「気合の問題じゃねえ! あっ! そうだ! エリーナを連れていこうぜ! 聖女とか幽霊の天敵だろ!?」
「あ〜エリーナか……そうだな」
「よ、よし! 俺連れてくるわ!」
カインは足速に教会へと走っていった。
「俺もそろそろ出かけるが、怖いわけじゃないからな!」
「リュウシン〜バレバレだからぁ〜」
「もうわかったから早く行け」
リュウシンは顔をひくひくさせながら首領ボンの元へ去っていった。
「はぁ……幽霊ってあれだろ? アンデッドだろどうせ」
「レイスって事ぉ〜? でもレイスならマリベルでも対処出来るはずなんだけどなぁ〜」
「こんなメモだけじゃ情報がなあ」
「マリベルは僕らとの繋がりを最低限にさせているからねぇ〜しかたないよぉ〜」
「そういやゼクトはワイノール商会の会長に引き抜きの打診が来てるんだろ?」
「クロ知ってたんだね〜そうだよぉ?」
ゼクトは諜報員としてかなり優秀である。戦闘能力は五人の中では一番低いけれど、情報の重要さに重きを置いている慚蛇には欠かせない一人だった。その能力を買われる事は想定している。ただし、慚蛇は裏切りを許さない。
「なぜ黙っていた?」
キンっと空気が張り詰める。身内から裏切り者を出す事は大きな痛手になる。組織としての体裁を保つ為に粛清を必ずしなければならない。裏の人間として生きるより表で生きる方が幸せになるとわかっている。個人の心情としては喜んで送り出したいというのが本音だった。しかし、組織を束ねる者としては許すことのできないというジレンマに陥ってしまう。
「ははっ! カインみたいな単細胞に聞かれたら大騒ぎになっちゃうでしょ〜? クロは分かってくれてると思ったんだけどなぁ〜」
「お前らは俺を完璧人間か何かと思ってるのか?」
「他の皆んなはどう思ってるか知らないけどぉ〜僕はそう思ってるよぉ〜? マリベルは神に近い信仰心持ってると思うけどねぇ〜」
「なあゼクト……エリーナとマリベルを対面させるってどう思う?」
ゼクトは無言のままクロの肩を叩き、首を横に振った。
「はぁ……」
クロは頭を抱えこの先で起こるであろう修羅場を想像し憂鬱になっていった。
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