第39話 かけひき
華やかな表通りとは違い、いかにも悪い事をしてそうな裏路地にある館へ案内され、高そうな調度品が並ぶ部屋へ通された。
「すごい部屋ですね? あれを売ったらいくらに……」
エリーナは俗世的だ。聖女として選ばれたが、それはデニスのお気に入り(タイプ)で外敵から守れる力を与えただけで、聖女としての役割を求めていない。だからこそクロ達のような考え方に対して嫌悪感を抱かない。
「持って帰るなよ?」
「まあ! 私は聖職者ですよ? 盗みなんて……」
ちゃんと監視をしておこうと誓ったクロであった。
「なかなかいらっしゃらないですね?」
「そうだな」
クロはゼクトのスキルのように広範囲ではないが索敵ができる。魔闘術で魔力の流れを視認する事である程度の情報は手に入る。その範囲は建物一軒分だ。
(壁の向こうに五人……あの鏡がマジックミラーにでもなっているんだろうな。こんなにも警戒されるとはねえ……いや当然か)
「どうかなさいました?」
「いやそろそろ来るだろうと思ってな」
ガチャ
「待たせちゃったかしら?」
やってきたのは妖艶な雰囲気を放つ化粧の濃い女だった。
「あんたがマザーウルティマか?」
「そうよ懺蛇の……名前を伺っても?」
「クロだ」
「良い名前ね? このスラム街にはぴったりの名前……そしていい男」
事前に男だと聞いていなかったらドキドキしていたかもしれないが、クロは違う意味でドキドキしていた。
「ウルティマさん、お久しぶりですね! お元気でしたか?」
「あら〜エリーナ! ここはあなたのような聖女様が来るような場所ではなくってよ? でも久しぶりに会えて嬉しいわ」
同じ孤児院で育った関係もあり再会を懐かしんでいる。厳密には懐かしんでいるのはエリーナだけだが。
「それで……リュウシンちゃんだったかしら? あの子のボスが私に会いたいと言ってくれてると聞いたから、私すぐに会いたくなっちゃってねぇ。迷惑だったかしら?」
「とんでもない、四天王の一人である女帝マザーウルティマからのデートの誘いを断る理由がない」
(ふ〜ん肝の据わった子ね、さて……目的は何なのかしら?)
「私に会いたかった理由……聞いても良いかしら? 護衛も連れずに会いに来るくらいだから喧嘩をしに来たわけじゃないんでしょ? エリーナが居たのはびっくりしたけどねぇ」
部屋の外から大人数の魔力の流れが見える。返答次第では女帝を守るためになだれ込んでくるつもりだろう。それほどにクロを警戒している。
「会いたかったのは、ビジネスなら話しが一番出来そうなのがあんたと思ったからだ」
「ビジネスねぇ……私はこの歓楽街でかなりの利益、いや利益以上のものも手にしているの。そんな私にどんな儲け話を?」
「ここの区画にカジノを作りたいんだよ」
「カジノ? 聞いたことない言葉だねぇ」
「あ〜悪い、そうだな簡単に言えば大規模な賭博場を作りたいと思っててな、その場所の提供と資金の援助を頼みたい」
「大規模な賭博場ねぇ、なぜこの場所に?」
「ここは裏も表も関係なく人がくるだろう? 特にその中でも貴族共は金を持っている。そんな奴らのギャンブル精神を刺激して金を落とさせる。勝てばその金を持って色町遊びをする。良いシステムだと思うが?」
「お金を循環させて市場を活発化させるってことね……その貯まったお金でまた新しい事をする。スラム街にお金がまわり生活環境が変わる悪い話しじゃないわね」
「もちろん月ほ売り上げの10%はあんたに還元する」
「70%よ、それなら考えてあげる」
「俺はあんたの部下でも傘下の組織でもないからな70%は法外だな、あんたの所にも利益が行く、10%は妥当だと思うが?」
「私が管理している店のあがりは90%よ? これでもかなりの譲歩だと思わない?」
「はぁ……エリーナ帰るぞ?」
「は、はい、じゃあウルティマさんまたお会いしましょう」
「ちょっと待ちな!」
ウルティマが怒気を含めた言葉を放つ。
「あんたはもっとビジネスの話が出来ると思っていた」
「聞き捨てならないねぇ……小僧が生意気な」
「正直言うと30%まで出す用意はあった。だが、あんたはそれ以前の問題があったからこの話しは無しだ。90%のあがり? こんなバカが四天王だと知れたそれが大きな収穫だな」
「言いたい事はそれだけかい?」
「おっ! まだ言っていいのか? この話しはとある商会に相談した時に言われたんだが……住民区間でなぜやらないのか?と」
「資金がないからだろ!」
「そんなの商会からいくらでも出すと言われてる。それだけ利益が見込まれるビジネスだ」
「じゃあてめぇの敷地でやりな!」
「まだわからないのか? 俺は共存しようと提案しにきたんだ。後ろ盾を求めて来たわけじゃない! しかし、90%か……くっくっく!」
「何がおかしい!」
「いや〜ここで戦闘する意思はなくて、信頼してもらおうと思って護衛も置いて来て、暴れそうになる衝動を抑える為にエリーナを連れて来たんだけどさ……俺もまだまだ考えが浅いなあって思ったら笑いが! くっくっく!」
「エリーナ悪いがねぇ、あんたの神罰は教会あっての事。そこに居ないあんたは普通のシスターだよ! 残念だがここでこのバカと死にな!」
ウルティマの合図と共に部下達が一斉になだれ込んでくる。
「なあエリーナ」
「はいクロ様!」
「自分自身に教会にかけているスキルは使えるか?」
「はい、それは可能ですが……」
「ちょっと暴れるから部屋の隅で固まっててもらえるか?」
「わ、わかりました!」
エリーナは自分に神聖魔法をかけると部屋の隅に座った。そこにバリケードを作りクロは前に立つ。
「あ〜お前、今日の夜って四天王の会合だってな?」
「安心しな! そこであんたの組織を潰す提案をしてやるからすぐに地獄で会えるさ!」
「違う、違うって! お前もう出なくていいぞ?」
「何言ってんだい? 恐怖で狂うにはまだ早いよ!」
「ばーか……お前今から死ぬから出なくて良いんだよ。安心しろ、この区画は俺がちゃんと管理して繁栄させてやるから安心して地獄で遊んでな」
クロは魔闘術を全開にし、一瞬で目の前で武器を構えてた男を絶命させた。
「狂乱の始まりだよ! ひゃぁはぁぁぁ!」
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