第20話 父として
ロベルは二日酔いの様な顔で頭を押さえながら起きている状況を把握する。
「お前ら戝か! くそっ! おい! クロウ!!」
燃え盛る村と聞こえる悲鳴と血の匂いが充満する中で我が子を名前を叫び周囲を見渡すと、無傷で賊と対峙するクロウを見つけ安堵すると同時に庇う様に前に立つ。
「クロウ! 俺から離れるな!」
「父さん……」
ロベルは落ちていた剣を拾い構える。
いつもは飲んだくれているが、狩人としての技量は村の中でも頼りにされていた過去がある。
「父親らしい事は全くしてこなかったが、お前は俺の息子だ! だから死なせはしない」
「素晴らしい親の愛だけどなぁ、残念ながらこの村の住民は皆殺しと決まっているんだよ」
クロウは固まっていた。クズな父親でいつか殺してやりたいとすら思っていたはずなのに、今そんな父親から守られている。一層のこと子供を差し出す代わりに命を懇願してくれた方がすっきりするのだが、予想外な父の愛を受けてしまい思考が停止した。
「あ〜でも、そのガキは保護する予定だったんだけど拒否されちゃってさ」
我が子を守ろうと覇気を放つロベルに対してマクベストは苦笑いをする。
「保護? ……クロウは助かるのか?」
「それが幸せかどうかはわからんが、命の保証はする! まあこんな村に居るよりは全然マシだとは思うがな」
一瞬ロベルの緊張が緩むが疑いの目は辞めない。村人を皆殺しすると宣言した人物を簡単に信用できるわけがない。しかし、この村と自分と暮らすよりはマシと言われ納得できる部分もあった。
「ロベルさん、いつも飲んだくれてばっかりだったけど息子は大切だろ? 坊の事は私に任せてくれないかい?」
「お前っ! マリエラか!」
「すまないねぇ、色々と情が移っちまったから坊だけは助けたいんだよ」
ロベルは右手でクロウを抱き寄せ、剣先を二人に向ける。
「マリエラ! お前にクロウが世話になっている事は知っていた。それに関しては感謝している! だが、こいつは最愛の妻リリアの忘れ形見! 本当に任せても大丈夫なのか!?」
「あんたさぁ? そこまで大事な子供なら何で堕落した? 飲んだくれた? 虐待した? 言っている事めちゃくちゃだぞ?」
「……俺にとってリリアが全てだったそれだけだ、言い訳はない」
母親似のクロウを見る度にリリアを思い出し、死の際をフラッシュバックする。その苦しみから逃げるために酒に溺れた。クロウを遠ざけるように悪態をつけば誰かが保護してくれるかもしれないと期待したが、この村は他人には冷たく、そんなに甘い世界ではなかった。一度失った信用は親子であっても簡単には修復できない。そんな息子との向き合い方もわからずこれまでやってきた。
「ロベルさん、坊は頭の良い子でさ、これから強くもなる。あんたが出来なかった事を代わりに私らが請け負うさね。だから坊を説得してくれないかい?」
ロベル向けた剣先を下に向け地面に突き刺し、クロウの両肩を持ちまっすぐ目を向ける。
「父さん?」
「クロウ……今まですまなかった」
それは本気の謝罪だった。ロベルの目からは涙が溢れ、見たことも与えられた事もない優しい笑みを浮かべる。
「生きろ! そしてこれを持っていけ」
ロベルが取り出したのは袋だった。
「これは魔法袋だ! 俺が狩人時代に使ってた物だがかなりの量の物が入るようになっている。売れば一年は遊んで暮らせるくらいの値段はするはずだ」
「い、嫌だ!」
クロウは自分でもわからない感情で思わずでた言葉が拒否だった事にも驚く。
「クロウ聞け! その中にはリリアの形見のネックレスが入っている! 身につけるようにしろ! だからそのネックレスは売るなよ? きっとお前を助けてくれる」
クロウの目にも涙が自然に出てくる。どんなにクズな親であっても、最後にこんな愛情を向けるのは卑怯だ。
「クロウ! 愛してる」
ロベルはクロウを抱き締めると背中越しに首に手刀を放ち気絶させた。
「頼めるか?」
気絶したクロウをマリエラが受け取る。
「あぁ助かったよ。だが、あんたには死んでもらうが恨まないでくれよ?」
「ただでは死なんよ? これでも元狩人なんでね!」
「何だぁ? すっきりした表情してんなぁ! あんたとは違う形で出会いたかったなっ!」
マリエラは二人の戦いをクロウを抱きながら目に焼き付けた。いつの日か父親の最後の勇姿を伝えるためもあるが、失ってしまっていた父の威厳を取り戻させたいという思いもあった。
この日、一つの村が地図上から消滅した。
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