第17話 狂乱
綺麗な満月が神秘的な光を放つ以外は、いつもと変わらない静かな夜だった。
魔闘術の修練のため、屋根の上に登り坐禅を組み魔力を練る。
村の住民は部屋の灯りを消し寝静まっている。
酒場も今日は閉まっているため、灯りのない村の中を出歩く者はいない。
最高のシチュエーションに感覚も研ぎ澄まされる。
聞こえるのは風の音と揺れる木々の擦れる音だけのはずだった。
その瞬間は静かに訪れた。
多数の足音と金属の音が入り混じり、残響が静かな村に広がる。
足音は次々に家に侵入して行く。
異変に気付き始めた住人がぽつりぽつりと家を出て来て辺りを確認する。
「ぐあっ!!」
その中の一人が絶叫と共に血を噴き出し、倒れ痙攣する。
「賊だぁぁぁ! 賊がでたぞぉぉ!! うわっ!!」
斬り伏せられる隣人の姿を見た者が叫ぶが、その瞬間にその者も斬り伏せられる。
一斉に松明と武器を持った男達が外に出てきたが、それと同時に火の矢が次々と家の屋根に放たれ辺りがはっきりと見えるようになった。
女も子供も関係なく鏖殺されていく。
クロウはその狂気を屋根の上で眺め、懐かしい感情に浸っていた。
「リアルPKか……意外に何も感じないな」
クロウにとって、この村の住民に何の思い入れも無い。謂わばノンプレイヤーキャラクターのような者という認識だ。
「この高揚感は久しぶりだな! 逃げ惑う者と屠る者が入り混じった狂気の空気!」
狂気は徐々に村全体に広がり、混沌としてきた。
「さて、この状況どうするべきか……魔闘術を駆使すればある程度やれるとは思うが、リアルな殺し合いは初めてだ」
人を殺すという禁忌はゲーム内だからこそ許されるのであり、リアルでとなるとそれは違う。しかしここは異世界であり、弱肉強食が常だ。
「殺るしかないよね」
屋根を飛び降り近くに落ちている剣を拾い立ち上がろうとした時、聞き覚えのある声がした。
「坊、そのまま大人しくしておくんだ」
「マリエラ?」
振り向くとそこには血に塗れたマリエラが立っていた。
「悪いことは言わない、その剣を置いてこっちにきな!」
「なぜ?」
冷たく感情のない目でマリエラに問う。
「坊の事は生かすように話は通してる」
「あ〜こいつら仲間なんだ? じゃあ一緒に死んどく?」
別に村のために戦うつもりはない。むしろ、この狂気に参加する権利を勝手に奪われている事に腹が立った。
「怖い事言うねぇ……坊、あんたが普通の子供じゃない事はわかってるよ? だからこそ今は手を引いて欲しいとお願いしてるのさ」
「だから? そんな理由で俺が引くと思う? こんな祭りに参加できないって不公平だと思わない?」
「その口調、それが坊の素なのかい? それとも……」
「さあ? どうだろうね」
「ちなみに私を殺した後はどうすんのさ」
痺れるシチュエーション。どうするって? 決まっている、ここでの選択肢は一つしかない。
みんなを助けますか?
みんなを殺しますか?←
善人になるという選択肢を選びたいなら勇者のパーティーにでも入ればいい。けれどそんなの退屈じゃないか?
クロウこと三島三太はゲーム内では有名なPKプレイヤーだった。ここは異世界なのか? それとも夢なのか? 一つだけわかっている事は三島三太が生きている世界ではないならば精神は懺蛇に近い。
「静寂が訪れるまで斬り伏せるだけだよ」
「そうかい! しょうがないねぇ、かかってきな! 現実がまだ見えていない子供にお姉さんがお仕置きしてあげるよ!」
実践で魔闘術を使う機会を得た喜びとよくわからない高揚感。本能のままマリエラに襲い掛かる。
「ふっ!」
キンッ!
互いの剣が交差し金属音が響き渡る
「いきなり首筋に! 殺す気まんまんだねぇ坊! だがね!」
上手く捌かれ体勢を崩したところに蹴りを喰らう。
「ぐっ!」
吹き飛ばされた身体で家の壁を破壊した。
「その程度でこのマリエラ様を倒せると思ったのかい? どこで手に入れた力なのかは聞かないよ。けど、しばらくそこで寝てな!」
初めてリアルPvPは簡単ではなかった。
作品を読んでいただきありがとうございます。
この作品はカクヨムでも掲載しております。




