第15話 閑話 勇者の住む村
人族な小さな村に勇者が誕生したという情報は魔族にとって由々しき事態だった。
勇者は魔王に対する特効スキルを持って生まれてくる。絶望的な力の差をたった一つのスキルで覆すそのスキルに加えて、何か良い感じ事が進むという謎のスキルを保有する。ある意味このスキルの方が厄介だ。
スフィア・エル・ガルガランドは発見された勇者が同年代と知り一目見てみたいという衝動に駆られていた。
「勇者のう……なぜ今殺さないのですか?」
「そんなもの決まっているだろう! 魔族としての矜持だ!」
魔族としての矜持と言われても、つまらないという感情しか湧いてこなかった。
矜持より合理性を重視するからで、いずれ大きな力を持つ事がわかっていて身の危険があるのならば、成長する前に殺して後顧の憂いを断つべきだ。しかし、そんな考え方を魔族達は理解しない。
スフィア・エル・ガルガランドは魔族の中でも異端だ。同年代の魔族にも理解を示してくれる者は存在しない。
「その魔族としての矜持は死より尊いモノなのですか?」
「当たり前だ!」
死より尊いとは、死を軽視しているわけではない。それはわかっている。しかし、現実問題として危険を事前に排除する事は、魔族の繁栄を意味する。
歴史的にみても勇者に勝てた事実はない。魔族にも心はある。人族側から見れば危険な種族なのだろうが、魔族側から見ると同胞が次々と蹂躙され続ける悪夢であり。身内や知った顔の者が殺されれば普通に悲しい。
「勇者との戦いには事前準備が必要になる。ならばどうするか……よしっ! 見に行くとするかの」
伝え聞く勇者は正義感の塊なくせにハーレムを作り、国からの手厚い補助を受け、時には魔族であっても友好的な関係が結べると本気で思っている痛い存在だという認識だ。
「敵を知ることで見えてくるものもあるじゃろう! 我は人族の事を何も知らんしな! 危険なやつだと判断したら殺してしまおう」
そう決心して一人勇者の住むという村まで出発した。
出奔してから数日たったある日、件の勇者が住む村に到着すると人に見つからないように気配を消し潜入した。
「あれが勇者……」
スフィア・エル・ガルガランドが持つ魔眼は魔力の奔流を見る事でその人物の本質を見抜く。
「まるで無垢な赤ん坊のような存在じゃのう」
勇者と思われる人物は魔力の奔流や存在感は勇者と言われるだけあって目を見張るものがあったが、戦闘能力はまだあるようには見えない。見た目は優しげな女の子だった。
「……殺すか」
潜在的な脅威を考えると殺すという選択肢しかない。そう決意し行動に移すために近づこうとした時、背中に僅かな悪寒が走った。
「なっ! 見つかった!?」
振り向くとそこには誰も居なかった。どうやら遠くの森の中にその答えがありそうだと直感が働き、勇者より興味が湧いた。
「勇者よ感謝するがよい。お主の命は今しばらく刈らずにおいてやる!」
森の中を足速に進むと、魔力の量も技量も微妙な同年代の少年がワクワク顔で森の中を探索していた。
「危なっかしいのう……その先にはブラックウルフやジャイアントアントがいるというのに……しょうがない我が道を作るかのう」
少年が遭遇する可能性のある魔獣達を討伐し、再び様子をみる。
「雑魚な癖にあの魔力の奔流はなんじゃ? 不思議な色の魔力をしているようじゃが……我の悪寒はこの少年から放たれたようじゃが……なんともまあお粗末様としか言いようがない」
知りたい。あの魔力の質はなんなのであろうか?見当もつかない。本当に人族なのか疑ってしまう。
話しかけようとした時、ビッグボアが少年の前に立ちはだかる。
ビッグボアを避けるようにこちらへやってきた。
「おいっ! お前! 人族か?」
これが後にクー、スーと呼び合う仲なる二人の出逢いだった。
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