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第108話 やらせねえよ?

【わあぁぁぁ! 痛い! 何? あっ人間だあ!】


「そうだよぉ~人間だよ~悪い人だよ~」


【貴様! 我が子に何をする!!】


「動くな、少しでも動けばこいつを切り裂く」


【くっ! 外道が!】


「ははっ、誉め言葉だな? ありがとう」


 形勢逆転、棚から牡丹餅。クロはフェンリルの子供に短剣を翳し脅しをかける。


「クロ様、お怪我を……不浄を払い天の光をわが手に、聖なる奇跡を与えたまえ。エクストラヒール!」


 物陰で様子を見ていたエリーナはクロに歩み寄り回復魔法をかける。


【なっ! その光は聖女の! まさか女、お前は!?】


「助かったよリナ、それと今は()を付けるなよ」


「うふふっ、ごめんなさい」


 フェンリルとの戦闘で負った傷はエリーナの魔法で完全に回復し、人質ならぬ犬質を手に入れたこのアドバンテージは大きい。クロはこみ上げる喜びを抑える事が出来ず口元が緩む。


「分かっていると思うがいかに神獣様と雖も、その距離からでは攻撃が届く前に子供の命が散るよ?」


【くっ! なんという屈辱……】


 フェンリルは戦闘態勢を解き仁王立ちのまま対峙した。その瞬間をクロは見逃さず亜空間をフェンリルの周囲に展開し、無数の刃をもって四肢の腱を切り裂いた。


【ガァァ! 貴様!!】


【おかあちゃん!】


「無様だな神獣様よ! 知ってるよ? 魔力ももう底を尽きてるだろ? たかが人間に足元を掬われるなんてね」


【貴様の目的は何なのだ!? 我の命であるならくれてやろう、だが我が子の命だけは】


 フェンリルからの悲痛な叫びがこだまする。神獣といえど我が子を愛する気持ちは人間と変わらない。気位の高い神獣が一人間に対して頭を垂れ懇願する姿は美しい。と普通なら感動するところだろう。


「なんだ、つまらん。俺は神獣という生き物はもっと崇高な存在だと思っていたんだが? あ~醜い醜い! たかが人間如きに諂うくらいなら一族が滅せようとも! 首だけになろうとも喰らってやるくらいの気概はないものかね」


【人の子よ……頼む……】


「な、何をしているんですか!?」


 目を覚ましたメルトが起き上がりクロとフェンリルの間に割って入ると、フェンリルを守るように両手を広げクロに対峙する。


「何って見りゃわかるだろ?」


「し、神獣様ですよ!? 殺してはだめです!」


「あんたは馬鹿なのか? ついさっきまで俺たちは殺されかけてたんだぞ?」


「それでもです! 神獣様の領域に入ってしまったのは我々なのです!」


 人にとって神獣とは畏怖の対象であると共に守り神でもある。身近な神であり神獣の怒りによって街が滅ぼされたとしてもそれは神罰。扱いとしては自然災害にあったようだものと同じで人では贖えないものいう認識である。


【人間よ、我はもう戦う力を失っている。だが、そなたはあの男と渡り合える膂力があるとは思えぬ】


「ええ、彼はDランク冒険者とは思えない力を隠していたみたいですね……しかし、同じ人間である私となら分かり合えると信じてます」


【どこまでも清い人間よ、我と契約しろ】


「は、はい?」


【獣魔契約を結べば我の加護を受ける事ができる。さすればあの男と肩を並べる事ができるやもしれぬ】


「神獣様の加護……私に彼を止める力が……」


 ひゅんっ! シューーーー!!!


「やらせねえよ?」


 メルトの首が飛び血が噴き出す。神獣フェンリルと獣魔契約などというテンプレをクロが見逃すわけがなく、一刀のもと切り伏せた。

 首は後ろに転がり、その首をみてフェンリルは悔しそうにクロを睨む。メルトは何が起きたのか分からないまま死んだでのであろう。苦痛なく命を散らした顔は神獣の加護をもらえるかもという高揚感であふれていた。


【仲間を簡単に殺すか、とんだ外道だな! いや邪神の化身とでも言った方がよいのか】


「邪神の化身ねえ……どうなの?デニス」


【心外だなあ〜僕は創造神だよ?】


 クロの呼びかけに顕現したデニスはフェンリルに歩み寄り顔を覗き込む。


【なっ! 邪神デニスだと!】


【あらら? 女神の飼い犬フェンリル君じゃないか! 元気だった? てか、死にかけてるね〜うける〜】


【そうか! そういうカラクリか!】


【カラクリって……なにそれ? えっとね彼は僕の使徒! そして、エリーナちゃんは想い人? みたいな?】


「おいデニス、これでいいか?」


【そうだね〜まあいいんじゃないかな?】


【わ、我が子をどうするつもりだ?】


「こうするつもりだよ!」


 キャインッ!


 短剣で心臓を一突きすると子フェンリルは動きを止めた。


【坊!!! 貴様ァァァァァァァァ!!】


 四肢の腱を切られ身動きが出来ないフェンリルは吠える事しか出来ず涙を流すしかなかった。

 デニスは光の球になり息絶えた子フェンリルの子供の躯に入り込む。程なくして子フェンリルの心臓が脈を打ちむくりと立ち上がり、しっかりした足取りで親フェンリルへと歩み寄る。


【ぼ、坊? ま、まさか!】


「おかあちゃ〜ん! 僕だよ〜! デニスだよ〜! あははははははっ!」


 シュッ!


【ガハッ! ガァァァ!!】


 子フェンリルを依代に地上に降り立ったデニスは親フェンリルの喉を切り裂いた。


「調子はどうだ? デニス」


「ん〜さすがフェンリルの子供、僕の魂の受け皿として合格といったところかな? 魂が馴染みきってないから全力はだせないけどね」


【邪神、を、ヒューヒュー、復活させ、ただと? ヒューヒュー、なん、という事、を】


「デニス様、これをお付けになって下さい」


 エリーナが差し出したのは首輪だった。


「エリーナちゃん! え〜首輪? なんかやだなぁ。あっ! でも暫くは獣魔として過ごさないといけないからしょうがないか〜。地上って色々と面倒だねえ」


 ガチャっ!


「どう似合う?」


「うふふっ、とってもお似合いですよ?」


「エリーナご苦労様。さて早速だけどデニス、死ねよ」


「は? ギッ! これ、は?」


 デニスに付けた首輪は隷属の首輪だった。


「なんか神殺しって面白そうじゃん?」

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

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