表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/161

第107話 神獣フェンリルって登場しがち

 ドンッ!


「な、何を!!」


「うるせぇぇぇ! てめえは役立たずなんだからよぉ! 最後くらい俺たちの役に立って死ねっ!」


「おいっ! 早く逃げねえとやばいって!」


「おう、行くぞ!」


「ま、待って!」


 メルトを囮にして突き飛ばし、フレイムファングのメンバー三人は足早に逃げて行く。


「あの……クロ様?」


「なんだ?」


「あれは以前にクロ様がお話して下さったあの……」


「あ~不遇職追放系ってやつだな」


「あの時はそんな馬鹿なと思っていたのですが」


「いや、俺もびっくりしているよ?」


 所謂、追放系と呼ばれる小説のテンプレのような出来事が目の前で繰り広げられ、エリーナはもちろんクロも衝撃を受けていた。


「あの方は不遇職なのですか?」


「いやいや、彼はパーティに必要な支援職だよ」


「ですよねえ……」


 クロとエリーナは魔獣が跋扈する森の中で貴重な体験をしていた。しかし、クロ達も彼らと同じようにフェンリルの脅威に晒されている。


 ワォォォォォォォォ!!!!


 その時フェンリルの身体が眩ゆく光り、三人が逃げた方向へ閃光が飛んでいった。


 ドォォォォォォォンッ!!


【我は逃さぬと言った】


 逃げた三人は死体すら残らないであろう。フェンリルからは冷たく冷淡な声が放たれ、次はお前らの番だと言わんばかりの威圧感でクロとエリーナ、メルトにゆっくりと歩み寄ってくる。


「あわわわわっ! ク、クロさん! リナさん! 逃げて下さい! 彼らが言ったように僕に出来るのは少しでも時間を稼ぐこ……ひいっ!」


 男らしく啖呵を切ったまではよかったものの、フェンリルの脅威を目の前にすると足がすくみ腰を抜かしてしまった。フェンリルはそんなメルトを容赦なく踏み潰さんと前足を上げた。


 ドンッ!!!


「はぁ〜腰を抜かすくらいならさっさと逃げろよ」


「ああぁぁぁ!! 死ぬかと!!」


「いやいや、現在進行形で死にそうなんだが?」


 メルトは間一髪のところでクロに助けられたが状況が好転しているわけでは無い。


「おい、俺にお前が可能な限り掛けれる支援魔法をよこせ」


「えぇぇ! でも君はまだDランクの冒険者で! ゲスカフ達でも一瞬で!」


「良いからやれ」


「わ、わかった! 身体強化、呪文耐性、物理耐性、毒耐性、麻痺耐性、幻惑耐性、魔力覚醒、隷属耐性、呪術耐性! ハァハァハァ! これで全部で、す……」


「効果時間は?」


「ハァハァハァ! 一時間は待つかとっ!」


「チートだな!」


「ははっ……」


 全力の支援魔法は桁違いの効果と時間を齎し、メルトは魔力切れを起こし倒れ込んだ。


「リナ、そいつと邪魔にならないところで見学してろ」


「はい、わかりました。死なないでくださいね」


 エリーナはメルトを引きずり物陰に隠れる。


「待っててくれるとは神獣様は慈悲深いんだな?」


【貴様からは嫌な匂いがする】


「へえ〜どんな?」


【あの忌々しい邪神の匂いだ! なぜあいつの匂いがお前から漂う!】


(邪神には心当たりがあり過ぎる! 確実にあいつの事だろ。一応使徒だしな)


 この世界でデニスは創造神として崇められているが、クロはデニスと出会った頃から信用していない。神ではあるのだろう。しかし、良いモノでは無いとわかっている。


「なあ? 見逃してくれるという選択肢は?」


【あると思うか? 小僧よ、貴様からはあの邪神デニスの匂いがする。そんな不浄な存在を見逃す選択肢は存在せん!】


「でもさ、こうして冷静に話し合えてんだから分かり合えると思うだよね」


【戯言を! 貴様を生かす理由など無いわ!!】


「そう? じゃあ、お前が死ね」


 亜空間をフェンリルの周囲に複数展開し、中から一斉に剣が飛び出しフェンリルに襲いかかるが硬い体毛に全て弾かれてしまう。


「硬いなおい!」


 身体強化された上に魔闘術を発動し間合いを詰めると、勇者から奪い取った聖剣を取り出し斬りかかる。


 ガキンッ!


 聖剣はフェンリルの爪で防がれ火花が散る。


【なっ! それは聖剣!? なぜ貴様がそれを扱う】


「あーこれ? 性能の恩恵は受けないけど丈夫だから便利なんだよこれ」


【そうではない! なぜ勇者が持つ聖剣をお前が手にしているのかと聞いているのだ!】


 聖剣による恩恵は勇者にのみ付与される。それ以外の者にとっては重い鉄の塊でしかない。それでも鋳造された普通の剣より使い勝手の良い逸品だった。


【それに貴様のその体術は魔人族の秘技。人の身でありながら魔人族の術を使い、邪神の匂いを漂わせる。一体何者だ!?】


「これから死んでいく犬如きに説明する必要があるか?」


【舐めるなよ小僧!】


 フェンリルから無数の閃光が放たれ襲いかかる。身体強化と魔闘術を重ねがけしたクロでも全てを躱す事は出来ず被弾するが、お構いなしに斬り込みフェンリルの顔を傷付ける。


【多少はやるようだが、これならどうだ!】


 後ろ足が大きく膨張し蹴り上げられ、人の目では追えない程の神速で攻撃を仕掛けてくる。初撃こそ躱す事が出来たが、次第に防御一辺倒になってしまう。


(さすがに神獣と呼ばれる魔獣だかのことはある。このままじゃジリ貧だし、出し惜しみしてる場合じゃないか)


「懺蛇」


(この身体がどこまで耐えられるかわからんが、神獣フェンリルとガチンコとか燃えるなあ!)


 懺蛇は多対一でその能力を最大限に引き出せる状態ではあるが、一対一に於いても限界突破した身体能力は同じであり、人として躊躇する一線を完全に無視するため有効だ。


【くっ! 狂人化か! 本当に人族なのか貴様は! これではまるで邪神ではないか!】


(この状態が邪神? ん〜やっぱりあいつの目的って……)


 一進一退の攻防で互いに決め手を欠く状態が三十分間続いた。


「がはっ!」


(さすがに長時間に亘るこの状態は負担が大きいな。あいつの身体強化の魔法があってもここまでが限界か)


【ぐぅ……人族の分際で我と互角に渡り合うとは! だが、どうやらそれも終わりのようだな!】


 クロが限界を迎えつつある事を見抜いたフェンリルはニヤリと笑い距離を取る。これ以上戦闘を継続せずに自滅させるという選択肢をとらざるを得なかったとも言えよう。そしてその選択肢が神獣とまで称えられたフェンリルの命を散らす結果となる。


「どうして距離をとった?」


【フッ! もはや勝手に死に向かう貴様とやり合う意味などない】


「それは悪手だろ犬っころ」


【なに!?】


「勝利の女神っていうのはな? 最後まで試合を諦めなかった者に微笑むんだよ」


 ガサガサガサ!!


【おかあちゃん! お腹すいたぁ!!】


「ほらな?」


【坊! 出てきてはいけない!】


「ははっ! こんにちは小さなフェンリルさん」


 クロは草むらから顔を出した小さなフェンリルの首根っこを掴み、短剣を突き立て微笑む。

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ