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第105話 冒険者ギルドはつらいよ

 クロは五日後に控えた皇女との会談を控え、ケンタ・イイヅカが居なくなった街の空気感を自分で確認するために一人で街を歩いていた。

 一通り歩き回ったついでに冒険者ギルドに顔を出すとギルド内はいつも以上の喧騒に包まれていた。


「だから! 絶対にあいつらが怪しいのニャ!」


「そう言われましても……」


「冒険者ギルドが先頭に立って奴らを追及してくれれば良いだけの話しだろっ!」


 バキッ!


「ちょ、ちょっとバニラさんカウンターを壊さないでください!」


「バニラさん落ち着いて下さい! あ、あの……ご、ごめんなさい……あとで弁償します」


「サクラコさん……いえ、皆さんのお気持ちはわかります。しかし、証拠もなく相手を追及する事はできません!」


「あん? 冒険者ギルドはたかがスラムの一組織に対してブルってんのか!?」


「だから何度も申し上げています通り……」


 受付の女性に絡んでいたのはケンタ・イイヅカのパーティーメンバーだった。詰め寄られた受付の女性は困り顔で何度も説明をしているがその騒ぎは一向に収まる気配はない。


「あっ! クロさんこんにちは!」


 別の窓口の受付の女性が声をかけてきた。


「あの? あれは何ですか? すごくもめてますけど」


「あ~あれは……ケントさんのパーティーメンバーの方々で……」


 受付の女性はクロの問いに苦笑いを浮かべながら言いにくそうに答える。


「ケントってあの最近行方が分からないという?」


「ええ……冒険者ギルドとしても優秀な冒険者が行方不明になったという事で情報を集めているのですが……有力な情報を得る事が出来なかったんです」


「物騒な話ですね」


「消息がわからなくなった場所の方角がスラム街方面だったもので、きっとスラム街の組織が関わっていると言い出しましてね……それでずっとあんな感じなんです」


「まあ証拠もなくスラム街の組織をやり玉に挙げて攻撃してしまうのも危険ですからね」


「はあ……そうなんですよね~ギルド長もそこに関しては慎重にならざるを得ないと言っていたので困ったものです。 それでクロさん今日は依頼を受けに?」


 受付の女性はひとしきり愚痴を吐いてすっきりしたのか、顔を掌で叩き気持ちを切り替えた。


「ええ、メランコリ国に向かう護衛依頼って来てますか?」


「メランコリ国ですか? あることはあるのですが……」


 受付の女性は言いにくそうに一枚の依頼書を差し出し、内容を確認すると護衛の条件の箇所を指さした。


「パーティーメンバーの数……」


「叡智のカケラは今現在、クロさんとリナさんのお二人しか居ないので……あ、あのごめんなさい!」


 冒険者が依頼を受けて死ぬ事は別に珍しくはない。ただ、前回受けた依頼はランクの低い冒険者でも大丈夫だと判断された依頼だった事もあり、冒険者ギルドとしてはバツが悪い。


「低ランクとはいえ僕らは冒険者です。仲間の死は辛いですけど覚悟の上でやってますのでそんな顔しないで下さい」


「そう、ですか……お二人になられてからも定期的に魔獣の討伐依頼を達成しているので実力的にはすぐにでもBランクに昇格させたいとギルド長も言ってるんですよ」


 クロとエリーナは暇を見つけてはギルドの依頼を受けており、ランクはDとなっていた。実力的にはと言われた理由としては、依頼外で偶然遭遇した盗賊の討伐や稀少素材の採取、ランク以上の魔獣の討伐をたった二人、もしくはクロ一人で行った事が影響しているらしい。


「運が良かっただけですよ」


「そんな事ないです! あの盗賊団はBランク以上且つ複数パーティーであたらないといけない相手なんですよ!? 運だけで討伐できる相手ではありません! それに、クロさんとリナさんは報酬の少ない割に面倒な依頼を率先してこなして下さるのでギルドとしては助かってるんです!」


 受付の女性は鼻息を荒くしてクロを褒め称える。クロとエリーナの活躍はギルド内では有名になっているがランクが低いため依頼したい案件があっても受注ができないというジレンマがあった。ランクの昇格には試験が必要となるが二人は昇格に消極的なためDランクに上がってからは試験を受けていない。Cランクに昇格すると依頼内容の幅も広く指名依頼も受けれる様になり、Cランクに上がると冒険者として一人前と認められた事になる。


「高い評価を貰えてるのは嬉しい限りですが、まだまだ未熟者なので地道にやりますよ」


 クロは意図的にランクを上げていない。そもそも冒険者として生計を立てているわけはないので報酬も気にしていない。表の世界で動きやすくするために必要だったそれだけだ。盗賊の討伐に関しては依頼をこなしている最中に襲われたので返り討ちにしたら偶然に別の冒険者に遭遇してしまいギルドに報告するしかなかったという不幸な出来事だった。


「それでは今回も昇格は……?」


「なしの方向で」


「はあ〜そうですか。でも、近いうちにギルド長から直々にお話がくると思いますので覚悟して下さいね!」


「それは怖いですねー」


 冒険者ギルドとしては実力のあるパーティーをどんどん昇格させてギルドを盛り立てたいのだろうが、期待の新星ケンタは行方不明になり、実力派の叡智のカケラはギルドの判断ミスで二人の未来ある若者が命を落としてしまった。残った二人は功績を残しているのにも関わらずランクアップをしてくれない。冒険者は常に危険と隣り合わせの商売ため、ランクアップは任意で行われるため無理強いもできないという苦しい状況だった。


「他のパーティーと組むという選択肢もありますが?」


「ん〜他のパーティーですか、戦闘の連携が難しいので極力避けたいんですよね」


 実力を隠さなければならない他のパーティーとの共同依頼は避けたいところではある。ただ、安全かつ合法的にメランコリ国に潜入するには護衛任務でやってきた冒険者として入国したい。しかし、現状を考えると共同依頼を受けるしか護衛任務を受注できる手立てがない事は明白だった。


「それではこの依頼を共同でやってみませんか?」


 受付の女性が出してきたのは調査依頼の案件で、近くの山の森林深くにワイルドウルフの目撃情報が寄せられており、その確認をして欲しいという依頼だった。


「ワイルドウルフですか?」


「そうなんです、個体そのものは脅威ではないですがこの地域で目撃されるのは珍しくて」


「危険な匂いがぷんぷんするですけど?」


「大丈夫です! クロさんとリナさんなら問題ないと思いますし、この手の依頼を得意とするパーティーを紹介しますので!」


 クロとしては初見で連携が取れないわけではない。実力をDランク程度に抑える必要があるから面倒だと思っているだけだ。ただ、護衛依頼を共同で行うなら共同依頼をこなした事があるという前例はないよりあった方がいいだろうし、今回の共同依頼を受けるパーティーが今後利用できるような連中ならもうけものくらいに考えようと思った。


「わかりました、その依頼受けます」


「本当ですか!? では明日の昼頃にギルドへお越しください! その時に一緒に依頼を受けてもらうパーティーを紹介します! そのパーティーはCランクなのですが、Bランクへの昇格条件として低ランクの冒険者の指導が含まれているので、ギルドとしては受けてもらえるとありがたいんです〜」


「冒険者ギルドも色々と大変なんですね」


「そうなんです! わかってくれますか!? どうでしょう? これを気にCランクへの昇格を……?」


「では、また明日」


「あっ! クロさん! 待ってくださーい!」


 冒険者ギルドも色々と大変なようだ。

作品を読んでいただきありがとうございます。

この作品はカクヨムでも掲載しております。

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