第103話 誅殺
魔法袋の容量を考えた場合、予備のポーションが最低でも十本はあるだろうとクロは予想していた。もし自分なら百本は不測の事態に備えて確保するだろう。
確実に殺す事を考えると予備の分も引き出したいと考えるが目玉はこれではない。
「クロウさん! この金貨の量は相場よりかなり多いですよ!?」
「それはこの量のポーションを高品質で提供できるケンタさんへの敬意と思ってください」
「そんな! さっきの事もあるし……これでは何もお返しできていないです」
(さてさて、どうやってあの規格外の最上級ポーションを引き出そうか。正面から突破するか? いや、それは流石にあからさま過ぎて怪しまれる。確実に殺すにはあのポーションを使わせないようにしなければならない。だがどうする? 魔法袋を強奪してもスキルで精製出来るなら意味がない。)
二人の間に沈黙が流れる。ケンタは罪悪感によるものでクロは殺す算段によるものだ。
その沈黙を先に破ったのは意外にもケンタだった。
「あの……これは僕自身の秘密というか、スキルなんですけど」
ケンタはふぅっと息を吐くと両手に魔力を集中させ一本のポーションをクロの前で精製した。
そのポーションは黄金色に輝き、あきらかに先ほどのポーションとは純度が違うのが見てわかる。
「こ、これは!?」
クロはわざとらしく驚き精製されたポーションを手に取った。
「これは今僕が作る事が出来る最高級ポーションです」
どうやら最高級ポーションを作るには大量の魔力を消費するらしく息も絶え絶えになっていた。
(そりゃこんなやばいポーションを作るのにデメリットくらいなけりゃ嘘だよな)
「もしかしてこのポーションは全てケンタさんのスキルによるものなんですか!?」
「はい、流石に最高級ポーションを精製するには殆どの魔力を使い切ってしまうので一日に一本が限度ですけど。はぁ……はぁ……」
(こいつ馬鹿なのか? 色んなポーションを作れるなら魔力回復ポーションを作れば無限に作れるじゃないか! いやもしかしたら一日一本という縛りがあるのかもしれない。問題はこのポーションをどれだけ備蓄しているかだ)
「もしかしてこれを私に?」
「このポーションは失った四肢ですら回復出来る物です。だから、もしもの時の保険と言いますか……きっとクロウさんを守ってくれると思うので是非受け取ってください!」
「この、ポーションの予備はなかったのですか? こんな規格外のスキルを人目に晒すなんて……」
「実は、備蓄していた最高級ポーションは全部使い切ってしまいまして……ここ数日に渡ってかなりの人数をこの最高級ポーションを使って治療しまくっちゃって。あはははっ……魔法袋に入ってた普通のポーションも全て出しちゃったので魔力が回復し次第また精製しないといけなくなっちゃいましたよ」
好機が訪れた。
「そうか……じゃあ、ありがたく頂くとするよ」
「え?」
クロの雰囲気が一瞬で変わり、亜空間に手を伸ばし剣を取り出したのを目で確認出来た時にはテーブルの上にあったケンタの両腕は血吹雪と共に両断された。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 腕がぁぁ!!」
「おめでたい奴だなお前」
ドンッ!!
テーブルでうずくまっていたケンタは顔面を蹴飛ばされ床に転がる。
「ぐううぅぅ!!! くっ! ポ、ポーションを……」
今にも気を失いようになりながらもスキルによるポーション精製を試みるが魔力が足りず発動出来ない。
「くそっ!!」
「あははははははっ! お前さ? 今さっき魔力を使い切ったじゃん? ねえ? 馬鹿なの?」
クロはテーブルに腰掛け苦しむケンタを見て嘲笑う。
「はっ! お前ぇぇぇぇ!! そうだ……まだ袋の中に」
ケンタは魔法袋に手を入れ隠し持っていたポーションを出そうとした。
「あっ! ちくしょう……」
「あらあら? もしかしてさっきのうそだったの? 悲しいなあ? 全部売ってくれたんじゃなかったのかよぉ。でも取れないでしょ? だってお前の両手ここにあるし!」
魔法袋に入れた腕を足で押さえつけると魔法袋を奪い取った。
「か、返せ!! ぐぁぁぁぁ!!」
肩口に刺した剣先は身体を貫き床に到達し、ケンタは身動きが取れなくなった。
「さてさて、何が入ってるかなあ?」
中からは最高級ポーションが四本、普通のポーションが二十本、状態異常回復ポーションが五本そして、毒々しい色をしたポーションが十本とドロドロとした真っ黒な液体のポーションが三本入っていた。
「色々持ってんな? 嘘付きは泥棒の始まりってならわなかったか?」
「あ、あんたが言うな!」
「おいおい? 俺がいつ嘘ついた? ちゃんとお金払って買ったろ? 俺は何一つ嘘をついちゃいないぞ」
「ぼ、僕にはやらなくちゃいけない使命があるんだ!! だからお願い! 殺さないで……」
「使命ねぇ……女ばかり仲間にしてハーレム作る事が使命なのか? 安い使命だな」
「違う! 僕は邪神の復活を阻止する為に異世界からこの世界に召喚されたんだ! 女神様と約束したんだ……だから!」
「だから何? 邪神? へーそうなんだ」
「お前の欲のために殺そうとしている相手はこの世界の救世主なんだよ! お前如きが殺していい相手じゃないって理解しろよ!」
「うはっ! 人は死ぬ間際に本性が出るよなあ。そういうの嫌いじゃないよ? 生への執着ってやつ? いいねえ!!」
「お、お願い……殺さないで……僕には守らないといけない女の子も居るんだ……」
「この毒々しいポーションなんだけどさ?」
「そ、それは!」
「あっごめん!」
毒々しいポーションがケンタの身体にかかると、みるみるうちに毒がまわり、かけたところを中心に紫色に変色していった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっ! おまっ!? とんでもない物作ってんじゃん! じゃあこの黒いのはなんだ?」
「や、やめ……」
黒い液体はガソリンの様な匂いを放っていた。
「ガソリンかよ……」
「な、何でその名前を……!?」
ケンタはこの世界にはまだ利用価値のなく、発見されてすらないであろうガソリンの名前がクロから出た事に驚いた。
「え? あ〜そうだな言い忘れてたけど」
「……え?」
「俺も日本人だよ?」
「え? どういう事?」
「そういう事♪」
「……お前も召喚者!?」
「ん〜不正解! 俺は転生者だ。そして、悪い人だよ?」
「な、なんでこんな事……同じ日本人なのに……」
「使命があるって言ってたよね? 俺もさ使命というか指令?うけちゃってね」
「……指令?」
「そう、女神が召喚した異世界からやって来た飯塚健太くんと緑川桜子ちゃんを」
「!?」
ザンッ!
ケンタの首が胴体から切り離され店の中に転がる。
「殺せってね? ってもう聞こえないか」
〜〜〜〜〜〜
「けんちゃん遅いなぁ〜」
「サクラコさん、きっと商談が長引いてるんですよ?」
「もうっ! 後で説教しないと!」
「そうだニャ! サクラコ! 大事な人の誕生日会に遅れる男はお仕置きニャ!」
「もう、なにやってるだかあのバカは! 早く帰ってきなさいよ……」
その日の夕方、とある店が火事により全焼する事故があったが運良く客はおらず、従業員は無事脱出した。普通の火事とは違い、勢いが強く燃え続けた建物は全て灰となり何も残らなかった。
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