第102話 東方の島国
「まだ日は浅いですがお酒でよろしかったですか?」
「あ~僕はまだ未成年なのでお酒はちょっと……」
「失礼ですがケンタさんはおいくつなんですか?」
「まだ十七歳ですよ」
「え? なんだ成人しているじゃないですか」
この世界では十五歳で成人としてみなされる。因みに冒険者には年齢制限はない。
「いやっ! あのっ! 僕の出身の国では二十歳が成人でして」
「それはまた遅いですね。出身はどこで?」
東京生まれヒップホップ育ち、悪そうな奴は大体友達というタイプには見えないがデニスによる事前情報とこの見た目から推測すると日本生まれの高校生といったところだろう。
(さてさて、何と答えるのか楽しみだな。まあテンプレだと東方にある海に囲まれた島国って答えそうだが)
「この大陸と比べるとかなり小さな領土なんですけど、海に囲まれた島国の出身なんです」
「ほう……」
想定内のテンプレ出身でつまらなさを感じる。一体、東方の島国とはどこを基準に東方と示しているのか甚だ疑問だ。
「ま、まあ地図にも載らないような小国なので……」
「黒髪に黒目という容姿は大変珍しいのですが、言葉が達者なので大陸出身の方だと思っていましたよ」
(どうせ言語能力翻訳とかそんな便利な加護もらってんだろチートが! 少しは努力しろよなっ! どんだけイージーモードだよ)
赤子に転生したクロは一から言語を習得し、村から保護された後も教育と称して様々な言語を習得させられた。そんな努力をも一足飛びに超えていくチート能力には反吐が出る。
「そ、そうですね、かなり勉強しましたから! あはははは……」
「失礼しました! 冒険者に過去の詮索は無粋でしたね。お詫びにここは驕りますから好きなものを頼んでください」
「いえ、そんな全然大丈夫です! じゃあ……こ、これを!」
結局ケンタが選んだのはアルコールの入っていない果汁水だった。二人分の飲み物を店員に注文すると程なくして運ばれてきた。
「あのクロウさん? このお店ってお客が……」
ここは懺蛇の息がかかった店、二人が入った時点でcloseの札がかけれており、中に客はいない。
「商談が商談なので人が少ない店の方が良いと思いましてね、ここは夜以外こんな感じなんですよ」
「そう、なんですね」
ケンタも僅かな違和感を感じている。いくら夜に賑わる店だといしても客一人居ないのは不自然だった。
(クロウさんを疑いたくはないけど、さすがに無警戒とはいかないよね。よしっ鑑定!)
パリンッ!!
「えっ!」
ケンタが鑑定スキルを発動すると、弾かれた音が響きそれと同時にクロウ(クロ)が険しいものに変わった。
「ケンタさんは鑑定スキル持ちなんですね?」
「えっ! いや……あの……」
ケンタにとって鑑定スキルが弾かれるのは初めての経験だった。パーティーメンバーには鑑定スキルを持っている事を告白しているが、それ以外の人間には言っていない。それはルシルに鑑定スキルの事を告白した時にこの世界における鑑定スキルの扱いが特異な事はもちろん、勝手に覗かれるのは気分が良くないと言われたからだ。しかし、旅や戦闘に鑑定スキルは有用でありこのスキルのおかげで難を逃れた事は一度や二度ではない。ケンタは口外していないだけで癖のように鑑定スキルを日常的に使用しており、それがバレた事は一度もなかっただけに動揺してしまう。
「商売上と言いますか、大陸を旅する行商人は常に危険と隣り合わせでしてね。ごく稀に希少な鑑定スキル持ちの盗賊が居たりもするので」
クロは説明しながら腕に嵌められた鑑定スキル阻害の魔道具をケンタに見せる。
「まあ鑑定スキル持ちなんて滅多に出会う事もないので用心程度にしかなりませんが、多少でも危険度が下がるならと大枚を叩いてこの魔道具を買ったんですよ」
「あ、あの! ごめんなさい……」
「確かに勝手に覗かれるのは気分の良い物ではありませんが、まだ私で良かったですよ。これが王族や貴族相手だと最悪死罪」
「っ!?」
「希少性から考えると鎖を繋がれて飼い慣らされるといったところが落とし所でしょうね?」
「こ、この事は……」
警戒を持たれることは想定内だった。余程の馬鹿でない限り人目のないこんな場所に連れられた時点で怪しいと感じる。
「だから言ったでしょ? まだ私で良かったと。私は王族でも貴族でもないただの行商人です」
「クロウさん……」
「とは言え……多少色を付けて頂けると助かりますかね?」
やり手の商人っぽく含みのある笑い方でケンタを牽制すると、ケンタもその意味を理解して苦笑いをすると同時に安心感からか心に隙間を作ってしまう。
(警戒心をさらに強める危険はあったが結果オーライだな。生かして帰す必要はないが、こいつの作るポーションは有用だ。特に四肢をも治すポーションこれは可能な限り手に入れたい)
「そ、それはお詫びも兼ねて出来る限り要望に応えさせていただきますよ!」
「それはありがたいです」
「それで、どれくらいの量のポーションが必要なんですか?」
「そうですね〜逆にすぐに用意出来る量はいかほどですか?」
「そうですねぇ……回復ポーションなら500個、状態異常回復ポーションは200個くらいですね」
「それはまた……」
(流石はチート能力者、その量を精製する事の意味をわかってない。ゲーム感覚かよ)
ケンタは得意気になるわけでもなく当たり前のように規格外の数量を保持していた。異世界召喚者に世界の常識はない。その脅威が畏怖の対象になるという想像力に欠けるが、身を滅ぼさないのはそれと同時にご都合主義の運の良さと身体能力の大幅な上昇という恩恵があるからこそだ。だが、その命運もここで尽きる。
「では、その全部を」
「へっ?」
「全部をお願いします」
クロは亜空間から大量の金貨を取り出しケンタの前に並べる。魔法袋を持ってきても良かったが、想定外の大量のポーションだった場合収納できるスペースが足りないと困るという理由で亜空間を使った。
「!!! ク、クロウさんはアイテムボックス持ちだったんですか!?」
驚くのはそこじゃなくね?とは思ったものの、その気持ちわからなくもない。アイテムボックスはチート召喚者のお決まりの三種の神器だ。しかし、クロの使った亜空間はアイテムボックスではない。時間は緩やかだが流れるしスキルではなく無属性魔法だ。便利だからアイテムボックスのように使っているにすぎない。
「アイテムボックスというのが何かはわかりませんが、まあ商売をする上では便利ですね」
アイテムボックスは向こうの世界の概念でこの世界にはない。クロは敢えて知らないふりをする。ケンタは一瞬しまったという顔をしたが慌てて腰につけた魔法袋を目の前に置くと中から大量のポーションを取り出した。
「大容量の魔法袋ですか? よく手に入りましたね」
「ええ、ちょっとした縁で手に入ったという感じです」
「良い縁をお持ちだ。……確かに回復ポーション500個、状態異常回復ポーション200個ですね」
クロは再び亜空間を開き一瞬で収納する。その光景をケンタはキラキラした目で眺めていた。
作品を読んでいただきありがとうございます。
この作品はカクヨムでも掲載しております。




