拷問なんてしたことありません
私は発掘作業を進めたかったんだけど、フィムちゃんが謎の石板がどうしても気になるというから中断した。
フィムちゃんによれば、こういった遺物にはいい意味でも悪い意味でも重要なことが書かれていることがあるみたい。
どちらにしても、スルーしていいことはないということでバトルキングの下へ報告しに戻った。
その際に討伐した魔道士協会のグレイとかいうのを拘束して連れてきている。
「それで、その神の泉ってのはなんだ?」
「教えると思うかい?」
「それならそれで構わないが、こっちも好きにやらせてもらう」
「拷問でもするってか? やっぱりドワーフってのは聞きしに勝る野蛮人なんだな」
レーザーで瀕死だったところを私がわざわざヒールで治してあげたってのに、こいつのこの態度だよ。
むさ苦しいドワーフ達に囲まれているってのに飄々とした態度だ。
そんな態度だからバトルキングが力こぶをつくって縛られているグレイを殴り飛ばす。
「ぐはっ! う、げほっ……」
「いてぇだろ? 俺はな、国を守るためなら、何でもやってやる。その神の泉ってのがやべぇものじゃない保証がねぇからな」
「う、う、いてぇ……」
「もう七発くらい必要か?」
「わ、わかった。喋る」
バトルキングがたった一発でグレイの心を折った。見た目の迫力もあるだろうけど、本当に痛かったんだろうな。
何よりこのままじゃ殺されるという恐怖があったのかもしれない。
拷問か。私にはできないな。まず見た目で舐められるし、人には向き不向きがある。
バトルキングはこれまで多くの敵を打ち破ってきただろうし、それに比べたら私なんて。
「ん? ミリータちゃん、どうかした?」
「いーや、なんでもねぇ」
今、すごい痛々しい視線を感じたんだけど? 今回は別に変なこと言ってないよね?
だって拷問なんてやったことないし? 私がやったのはあくまで健全な交渉だし? それよりグレイの話を聞かないと。
「神の泉については俺もよく知らないんだよ。すべてを癒し、全能の力が沸く。一説には魔力の泉とも呼ばれていて、それで魔道士協会も探してるんじゃないか?」
「そんなおばちゃんの井戸端会議みてぇな話をお前らは信じてるってのか」
「お、俺に言わないでくれよ。俺だって命令で探していただけなんだからな」
「他にも仲間がいるのか?」
「い、いや。俺だけだ」
なんか怪しいな? バトルキングもそう思ったみたいでもう一発、グレイに拳が入った。二度目のぶん殴りでグレイの歯が飛ぶ。
「目を泳がせて何をほざいてやがる」
「ほん、とう、だ……」
「じゃあ、もう一発……ん!?」
グレイが縄からひゅっと抜ける。灰色の軟体生物みたいになって、しゅるしゅると高速で入口に向かった。
意表を突かれたドワーフ達が追うけど、あっちのほうが速い。
「逃がすんじゃねぇぞ!」
「追え!」
ドワーフ達がドタドタと走って追いかける。逃げられたか。でもこのまま放っておけば仲間のところに行くんじゃない?
だから捕まえる必要は――
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミッション発生!
グレイを捕えて情報を得る。報酬:ドワーフの秘薬
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ファボアァーーーーーーー!」
「ぐへぁーー!」
火の球をグレイに直撃させてぇ!
動きを止めてから駆けていってぇ! 牢獄の出口に滑り込む寸前だったグレイを上から踏みつけたてぇ!
ぐにゃりとなったグレイは細いから片手で掴めた。そのまま数回ほど床に叩きつけてから、壁にまた叩きつける。
「おれ、の、固有魔法、が……」
「固有魔法が何?」
「人では、ない、軟体に、なれるのが、俺の、固有魔法……。だせぇから、使いたく、なか、た……」
「それで他の仲間は?」
こいつの魔法とかどうでもいい。現にミッションクリアにならないから、もっと他の情報が必要なんだ。
拷問は苦手だから私は私のやり方で交渉していくしかないか。
「いな、い……」
「どりゃぁぁッ!」
「ひぃっ!」
片手を振って杖で近くの石畳を破壊した。破片が散って、辺りが異様に静かになる。
ちょっと会話が進まないからひとまず刺激を与えてみた。交渉といってもお互いのコミュニケーションが大切だからね。
自分のことばかりじゃなくて、相手の緊張をほぐしてあげるのもうまい交渉の秘訣だ。
そのおかげでグレイが元の姿に戻って血だらけになりながら震えている。
「ごめんね。これで少しはリラックスできた?」
「な、仲間、は……あ、い、いま、す……」
「ホントに? どんなのがいるの?」
「ろ、六、神徒の、一人と、他は……四人……」
「六神徒!?」
六神徒って確かあのズガイアと同じくらいの奴だっけ? もしそれが本当なら、またとんでもない報酬が貰えるかもしれない。
だけどまだミッションクリアにならないね? そんなもんはどうでもいい。もっと重要な情報があるはず。
「その六神徒と他の魔道士はどんな魔法を使うの?」
「知らない……。ほ、本当だ、特にカイソウジさんの魔法は……よくわからない」
「じゃあ、質問を変える。地下には何があるの?」
「機神と……邪悪なる、神……」
「きしんとじゃあくなるかみ?」
つまり報酬が二つ? いや、名前はすごそうだけどこれで報酬が出なかったらと思うとげんなりする。
すごい情報だけど、これでもミッションクリアにならない。
「魔道士、協会は、神へと至る、資格がある……。特に邪神は……魔界五大魔王をも凌ぐと言われている……力が……。フ、フフ……。掘り当てないと、いいな?」
「機神と邪神を掘り起こしてどうするの?」
「神と、接触することに、よって……我々は」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミッション達成! ドワーフの秘薬を手に入れた!
効果:ドワーフに伝わる幻の秘薬。飲むと攻撃と防御が1000上がる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ほりゃぁぁぁッ!」
「ぐぇッ!」
報酬ゲットォ! ドワーフならミリータちゃんだよね。
「ミリータちゃん、これ上げる」
「これはドワーフの秘薬でねえか! オラが貰っていいのか?」
「ミリータちゃんはずっと頑張っているからね」
「マ、マテリ、いいところあるんだな……」
ミリータちゃんが背中を見せて震えている。
まるで欠点だらけみたいな言い方だ。これでも私にだって人間らしい思いやりがある。
ずっと鍛冶と精錬で忙しいミリータちゃんを労うのは人として当然だ。
そしてドワーフの秘薬を見たバトルキングが思った以上に口を開けたまま驚いている。
「た、たまげたな……。今じゃ作り手のドワーフがいねぇし素材もねぇんだが……」
「それを見ただけで理解したあなた達もすごいよ」
「それとよ。さっき何気に重要な情報を聞けそうじゃなかったか?」
「そう?」
バトルキングったら、顔に似合わず心配性なんだから。重要なものならもう手に入ったよ。ミリータちゃんの喜びという報酬がね。





