僕らの女神
王族や大臣、騎士団長。
そして僕、クリード王子を交えた会議の雰囲気は戦々恐々としていた。
以前から東の地方を治めるイグナフ領主から報告を受けていたおかげで、大惨事だけは免れている状況だ。
彼がいなかったら完全に後手に回っていた。
あの目のつけどころに関しては僕達、王族はかなり評価している。
だから彼の領地内は比較的、治安がよくて魔物による被害が少ない。
唯一、あの奇抜な髪型だけはやめてほしいが。
「各地におけるアンデッド出現報告が増えている。騎士団長、討伐状況は?」
「よろしいとは言えませんな。西の地方では警備隊も苦戦しており、被害もバカになりません。力が足りず、歯がゆい限りです……」
「アンデッドはその性質上、他の魔物より数段手強い。無理もない話だ」
「冒険者達にも協力を仰いでおりますが、アンデッドとの戦いだけは避ける者も少なくありません」
冒険者達を責めるつもりはない。
むしろ彼らはよくやっている。
国防は我々が担わなければいけない課題であり、国民を不安にさせるようなことがあってはならない。
冒険者達の中には国外から来たものだけでなく、国民も多くいる。
僕は彼らを尊敬しているし、冒険者ギルドを通じて待遇面の改善を考えていた。
「アンデッドは死体ゆえ、討伐しても素材にならないのが避けられている要因でもあります」
「仕方ないさ。だからアンデッドは僕達がなんとかしなくちゃいけない」
「しかしこうも頻発するとは……。野生の……という表現が適切かはわかりませんが、アンデッドというものはそこまで発生率が高くないはずです」
「そうだな。曰くつきの場所であるほどアンデッドとして蘇る確率は高いが、そうでなければわずかなものだ」
死体となった人間や魔物が放置されていれば、様々な理由でアンデッド化することがある。
我が国において、ここまでアンデッドがのさばった理由がどうしてもわからなかった。
いや、薄々だが思い当たる節がある。
しかしそれをここで言ってしまっていいのか?
「やはり魔道士協会だな」
「ち、父上! あまり滅多なことは言わないほうが……」
「魔道士協会の支部が壊滅してから、ほどなくして起こった事態だ。それにクリード、お前にも思い当たる魔道士がいるのではないか?」
「……言ってしまっていいのでしょうか?」
「髑髏魔道士ズガイア、六神徒によるものであれば不思議ではない」
会議室内が一気にざわついた。
その名を聞かせて平静を保てる者などいるわけがない。
魔道士協会、評議会直属の六神徒。
唯一無二の固有魔法を行使する魔道士協会の魔導士の中でも最高峰の六人だ。
空想上の存在とされていた神の生まれ変わりとも呼ばれていて、それぞれが神に準じた固有魔法を行使する。
例えばズガイアの魔法は死後の世界における神、冥王ハーデスの力を体現していると聞く。
「お、お待ちください! 仮にズガイアの仕業だとしても、これほど大規模なアンデッドをどのようにして!?」
「いや、それ以前になぜ六神徒が我が国を陥れる!」
「魔道士協会本部に抗議すべきだ!」
大臣達が騒いで、いよいよ会議は迷走した。
原因があるとすれば一つしかない。
考えたくはないがマイプリンセス、黒髪の女神マテリ。
彼女が魔法生体研究所を潰してしまったせいで、報復に出たと考えるのが自然か。
しかし、だからといって――。
「やはり報復だろう?」
「そ、そ、そうだ! あの少女達が魔道士協会に歯向かったせいだ!」
「だとすれば許しておけん! 今すぐにでも捕まえて、なんとかズガイアに許しを乞うのだ!」
やはりこうなったか。
そういう意見が出るのも仕方がない。
しかし魔法生体研究所の存在を放置しておけば、アンデッドの前に魔法生物が我が国内を闊歩していた。
つまりマテリは言うまでもなくこの国の救世主だ。
そのマテリの評判を貶めることはあってはならない。
「陛下! 一刻も早く、あのマテリを捕えましょう!」
「その必要はない。そなたらは彼女が危機を取り去ったことをもう忘れたのか?」
「あ、あの研究所ですか。しかしこの惨状を招いたのも事実では……」
「黙らんかッ!」
父上の一喝で大臣達が沈黙した。
仕方がない。父上が怒らなければ僕が怒っていたのだからね。
「都合がいい時は賞賛して、そうでなければ手の平を返す! 弱者の特権だな!」
「そ、それは、確かに……」
「マテリ達は我々王族が認めたのだ! これ以上、彼女達を貶める発言は許さん!」
「も、申し訳ありません!」
父上がここまで感情を見せる事態だ。
大臣達が一斉に立ち上がって頭を下げた。
僕としてはまだ腹の虫が収まらない。
できることならば全員、一発ずつ殴ってやりたいほどだ。
「……こんなことで争っている場合ではない。早急に対策を」
「会議中、失礼します! 報告しなければいけないことがあります!」
会議室の扉が激しく叩かれた。
よほど焦っているのだろうか。
「入れ」
「ハッ! ご報告します! 現在、王都にてマテリ達が対アンデッド用の武器や防具を販売しております!」
「なんだと!?」
思わず身を乗り出すほどの衝撃だ。
マテリがそんなものを?
「そ、それで飛ぶように冒険者達に売れているようで……」
「行くぞ。女神が導いてくれている」
「は……?」
僕が颯爽と立ち上がり、会議室を出る。
こんなところでグダグダと話し合っている場合じゃない。
マテリがそこにいるのだ。
マイプリンセスがまたしても僕達を救いにきた。
やはり彼女は僕が見込んだだけはある。
平和を愛し、命を脅かす悪を許さない。
その存在はやはり女神といっても差し支えないだろう。
この胸の高鳴り、やはり僕はマテリを愛している。
マテリと同じ時代に生まれ落ちたことに運命を感じずにはいられなかった。
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