うちじゃペットは飼えません
「ア、アレリア遺跡が……」
「く、く、くく、崩れ……」
転移の宝珠で外に出ると、ちょうどアレリア遺跡が崩れ落ちるところだった。
地響きと跳んでくる瓦礫がえげつなくて、さすがに周辺でたむろしていた騎士達や冒険者達が逃げる。
改めて見るとかなり大きな遺跡だったんだね。
呆然として見守る騎士達や冒険者達にさりげなく混じって、私達は手に入れた報酬を確認することにした。
「まず入手したのは二つ。アレリアの禁書と……これが神器?」
「ランプみてぇだな」
「ランプねぇ。なんか赤い宝石と青い宝石が埋め込まれてるね。赤いのがスイッチだったりして……」
冗談で赤い宝石を押すとランプの口から煙が出てきて、それが魔物を形作った。
紛れもない守護神獣アレリアがそこにお座りしてらっしゃる。
「私を呼び出したのは貴様」
「青い宝石オン」
アレリアがランプの中に戻っていく。
澄んだ青空を見上げながら、私はダンジョン攻略の余韻を味わった。
「疲れたねぇ、二人とも」
「だなぁ。そういえば、近くに領主が住む町があるみてぇだぞ」
「そ、そうだ! 神器と引き換えに報酬が貰えるんだっけ!」
「師匠! 今の魔物は!?」
フィムちゃんは何を言ってるのかな?
そんなものはどこにもいないし、誰も見てない。
周辺にいる人達だって、瓦礫の山と化したアレリア遺跡を眺めている。
きっと疲れてるんだろうね。
「いつまでもこんなところにいてもしょうがないからさ。さっさと魔道車に……」
「私を呼び出したのは貴様か」
またなんか勝手に出てきた。
騎士の一人が振り返ったと同時に私はそいつを魔法のランプに戻す。
「お前達、今なにかいなかったか!?」
「いえ、何もいませんよ。疲れてるんじゃないですか?」
「見たこともない魔物がいた気がするぞ!」
「気のせいですって。当番制でこんなところに務めてるせいで、疲れで変なものでも見ちゃったんですよ。私からクリード王子にお休みをたくさんもらえるように言っておきますね」
「その辺は騎士団長の采配なのだが……」
じゃあ、ダメですね。
報酬で育毛剤を入手しない限り、私とあの人の溝は埋まらない。
さてと、また怪奇現象が起こらないうちにここを離れよう。
あれ? そういえば、さっきから何か踏んでるような?
「マテリ、おめぇそれ……」
「ゲッ! この人達!」
「うーん……ここは?」
紅の刃だ。
遺跡荒らしとして私達の前に立ちはだかったくせになんでここに?
ひょっとして転移の宝珠を使った際に巻き込んじゃった?
「お、お前ら! よくも」
「つぁあぁーーーー!」
「ぐっ……!」
疲れてるようだからもうひと眠りさせてあげた。
よし、今度こそ――。
「私を呼び出したのは貴様か」
またアレリアがお座りしたまま現れた。
この子もめげないね。
こんなもの連れて帰った覚えなんかないし、うちじゃペットは飼えませんよ。
やだわぁ、オホホ。
「そ、その魔物はなんだッ!」
「構えろ!」
「お前ら、その魔物から離れろ!」
あらやだ、ホント。
どうしていつもこうなるのかしら。
はぁ、めんどくさい。ミッションクリアの余韻に浸らせて?
「なんだか大人しいぞ?」
「あの娘達、魔物と距離が近いのにまったく襲われない……」
「ま、まさか奴らが魔物の仲」
「ファファファファファイファファーーーイ!」
「ギャアァァーーーー!」
わかった。一度リセットしよう。
やり直しましょう。
どいつもこいつもあまり私を怒らせないほうがいい。
ミッションの余韻をかき乱しやがって。
* * *
「つ、つまりそのランプからそいつが出てきたと?」
「それ以外に答えようがないですね」
根気よく話せばわかってくれた。
極めて平和的かつ冷静に話し合った結果、騎士達と冒険者達からの誤解が解けてよかったよ。
全員、正座して物分かりがいい。争いなんて無意味。
「信じられん……」
「また平和的な手段を使わざるを得ない」
「い、いや。信じる」
しっかりと杖を握れば私達の主張を理解してくれる。
そして私の横でお座りしてるこのワンコ、じゃなくてアレリア。
色々聞きたいのは私のほうだ。
「我が主、こやつらを根絶やしにすればいいのか?」
「こじれるから黙ってて」
ワンコのせいで全員が身を震わせている。
その間、ミリータちゃんがアレリアの禁書を読み解いてくれていた。
「マテリ、アレリアの禁書によると守護神獣はアレリア王に代々仕えていた偉い怪物らしい」
「偉い怪物って」
「初代国王がタイマンで死闘して打ち勝って以来、アレリアは代々王家を守ることを誓ったそうな」
「それでアレリアとか名乗っちゃうんだ」
自分に勝った相手に忠誠を誓う。まさにわんこ。
それにしてもこれとタイマンして勝った人間が過去にいるんだ。
私達のステータスをもってしても一撃じゃ討伐できなかったからなぁ。
かなり強いんじゃ?
「そのランプは私を呼び出して使役できる禁忌の神器だ。心して使え」
「自分で禁忌とか言っちゃうんだ。ていうかあんた、討伐されたよね?」
「私が戦闘不能に陥れば、ランプに収納される。そして再生して顕現できるのだ」
「強すぎない? レベルは?」
「レベル? なんだそれは?」
あぁ、時代的にそういうの知らないのかな?
つまりこのランプはわかりやすく言うと、何度でも使える召喚アイテムだ。
このワンコを呼び出して戦わせれば、更に快適なミッションライフを過ごせる。
となると、だよ。
これを領主に渡していいものか、迷う。
あれ? そもそもなんか引っかかる。
――ここら一帯を治める領主のイグナフは家宝と引き換えに、この奥にある神器を持ってこいとお触れを出したんだ
「そこの冒険者パーティのアイスファング」
「な、なんでしょうか!?」
「なんで敬語。イグナフ領主ってさ、神器という言葉を使っていた?」
「はいっ! アレリア遺跡の奥にある神器と確かに言ってました!」
つまりイグナフって人はアレリア遺跡に神器があるとわかっていた。
そしてこの神器という言葉、もう一人誰かが使っていた覚えがある。
誰だったかなー?
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