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魔道士協会本部の魔道士

「ひどい有様だ」


 瓦礫の山を歩きながら、私は現実を粛々と受け入れた。

 今回、魔道士協会本部より抜き打ちの視察で来てみればこの惨状だ。

 魔法生体研究所は見るも無残に破壊されて、生存者はほぼ絶望的。

 研究データや成果もすべて埋もれているだろう。

 一体何が起こった? 誰が?

 そんな疑問はあるが私は冷静だ。

 魔道士とは常に頭がクリアでなければいけない。

 与えられた魔力にかまけて力に溺れる。

 そんな精神性では魔道士など務まらんのだ。


「かすかに反応があるな……この辺りか」


 片手を瓦礫に向けると、一つずつ宙に浮く。

 丁寧にどかしていくと、埋もれていた魔道士を発見した。

 このローブの紋章からして支部長か。

 

「エンジェルヒール」

「う……」


 あと数分でも遅ければ息絶えていたはずだ。

 魔法障壁、立ち位置、瓦礫の量。偶然に偶然がいくつも重なって奇跡的に助かったようだ。

 エクセイシア支部の支部長を務めているのはバストゥール。

 監獄の異名で知られており、本部からも目をかけられていたはずだ。


「話せるか?」

「あ、なたは……」

「本部より視察にきた評議会直属『六神徒』のズガイアだ」

「本部!? 髑髏魔道士と呼ばれた……」

「何があった。話せ」


 各国における支部のトップに選ばれることは並みではない。

 魔道士協会の中でも実績を積み、評議会の目や耳にそれを知覚させる必要がある。

 世界各地にいる魔道士協会員はおおよそ5000人以上。

 多くが認知されている属性魔法しか使えない中、固有魔法を使える魔道士はそれだけで目立つ。

 それが前提であり、更に例を挙げるなら単独でレベル50以上の魔物を討伐した者や神器を集めるなどした者が支部長候補となる。

 つまりバストゥールはそれだけの実績を積んでいるのだ。

 そのバストゥールが弱々しい声で経緯を語った。


「多数の神器を所有する少女とその仲間、か」

「あれは……あれは、人ではないかもしれません……。私の結界もまったく通用せず……」

「……超魔法生物すら歯が立たなかったのは由々しき問題だな。なぜ少女はここを特定できた?」

「わ、わかりません……。自分としては完璧に隠蔽したつもりなのですが……」

「ふむ……」


 私が再び瓦礫を浮かして除去すると、数多の魔法生物の死体が出てきた。

 見た限りではどれも発展途上といった仕上がりだが、そこまで悪くはない。

 結界によって隠蔽されていたこの場所を特定して、これだけの数を相手にした少女か。

 考えることは山ほどあるが、明らかにしておきたいことがあった。


「少女のステータスは調べたのか?」

「そ、それが、し、信じていただけないかと……」

「なんだ? お前が最後に本部に提出したステータスによれば、魔攻こそ150半ばだが魔防は400を超えている。これを貫くとなれば、かなり手段は限られてくるが?」

「四桁……」

「なに?」

「すべてが、四桁……」


 これは一度、立ち止まる必要がある。

 バストゥールが真実を口にしているとすれば、それは確実に人間ではない。

 人間に似た種族ならばエルフやドワーフがいるが、奴らの突然変異か?

 仮にエルフだとすれば、あの不可侵国の女王が見過ごすはずがない。

 不可侵国と呼ばれているだけあって、入出国は厳しく管理しているはずだ。

 となれば国外のエルフ、つまり野良エルフの仕業と考えられなくはないか。


「そいつはエルフか?」

「いえ……見た目は人間でした」

 

 我々は神の民としてエルフに一定の敬意を払っているが、何かしらの逆鱗に触れた可能性も考えられるか。

 現状、ステータスが四桁とされている者は非常に限られている。

 例えば女王のステータスは開示されていないが、魔攻や魔防は四桁という噂があるほどだ。

 私はバストゥールに少女達の特徴をすべて話させた。

 結果、どのような人物とも該当しない。となればやはりスキルか。


「本当に稀にだが、スキル一つで化け物と呼ばれる存在になることがある。しかしそれはこの世界の人間ではありえないことだ」

「と、言いますと?」

「わかるだろう?」

「ま、まさか! い、異世界召喚とでも?」


 私自身、認めたくはない。

 あれは魔道士協会でも禁忌とされており、仮に魔界の怪物が呼び出されてしまえばこの世は終わる。

 しかし、あんなものに手を出す愚か者がいるとは考えたくなかった。


「わかった。バストゥール、よく報告してくれた」

「あ、ありがとうございます! このご恩は身をもって」

「あぁ、そうさせてもらうよ」

「え……」


 バストゥールの身体を宙に浮かせた。

 全身の関節があらぬ方向へ折れ曲がり、バストゥールは苦悶の表情を浮かべる。


「ぐあぁぁッ! あぁぁぎぎぁぁががぎゃがあがががが!」

「これから大仕事が始まるのだ。お前にも役立ってもらうのだよ」

「やめ……」


 首の骨を折ったところで、バストゥールの死体を地面に下ろした。


「遍く迷いし冥府の汝、常闇の下僕となりて顕現せよ……」


 バストゥールの身体がぴくりと動き出して、立ち上がる。

 その虚ろな瞳が死者であることを物語っていた。

 更に瓦礫の下から次々と死者達が這いあがってくる。

 魔法生物、魔道士達が出てくる様はこの世の終わりの光景として相応しいかもしれんな。


「フフ……これだけの下僕を従えるのはいつ以来か。まったく手間をかけさせる」


 視察のつもりがとんだ大仕事だ。

 バストゥールの話が本当ならば、そんな少女は野放しにしておけん。

 何よりこの失態はなんとしてでも表に出してはいけない。

 これよりエクセイシアは髑髏魔道士ズガイアによって恐怖の底に落ちる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死んでからもミッションを提供するなんて、バスなんとかさんはいい人だなぁ ところで、髑髏…ええと、ドクロベーさん? 名前にドクロとか付く人は大体負けるんですよ
[一言] ズガイア「すべてが四桁……1000ちょっとくらいか……」 となると来たら終わりと思われているアズゼル様は(第二形態なら)もっと強かったんですね
[気になる点] 魔道士協会本部の魔導士 ……魔道士?魔導士? 本文でも魔導士って出たのは一箇所だし、それはゾンビまどうし?の出るところだから称号でもないっぽいし……。
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