スタンピード
「じゅ、住民を避難させろ! もうすぐスタンピードが来る!」
騎士の一人が大声を張り上げてやってきた。
報酬でホクホクしていたけど、たくさんの報酬がやってきたなら張り切るよ。
で、報酬達はどこに?
「なぜ直前まで気づかなかったのだ!」
「南東に派遣された討伐隊が全滅したそうだ! 生き残った者がやってきて命からがら、伝えてくれた!」
「くっ……! それで陛下には!?」
「早馬のおかげで、すでにこのことは陛下の耳にも入っているはずだ! すぐに王都周辺の警備を固める!」
騎士達が慌ただしく動いて、住民達を強引に家の中へ入るよう促した。
そうこうしているうちに警報が鳴って、いよいよ騒然とし始める。
「魔物の群れが来たってどういうことだよ!」
「どこから来たんだ!」
「どんな魔物が!? 数は?」
大騒ぎして騎士達にすがる人達。
そんな中で私達だけが取り残されている。
騎士の一人が私達に声をかけてきた。
「君達はひとまずここから近い冒険者ギルドに避難するんだ。私が案内する」
「オラ達に頼まねえのか?」
「王都の防衛は我々の仕事だ。冒険者として協力してくれるならありがたいが……」
「冒険者じゃないんだな、これが」
ミリータちゃん。安請け合いする流れを作らないで。
まずは報酬の有無でしょう。そうでしょう。
話によると有事の際は冒険者も防衛に参加できることになっているらしい。
本来はそれなりの手続きをしてから正式に防衛に参加するらしいけど、今みたいに急な場合はそうも言ってられない。
いよいよ大勢の騎士達や冒険者が王都の門に走っていった。
「ちなみに報酬っていくら?」
「貢献度と規模によって変動するから一概には言えない」
「ハッキリしないなぁ」
安請け合いしてクソ報酬だった時のことを想像すると発狂しそうになる。
フィムちゃんはすでに剣を抜いていつでもこいみたいな態勢だ。
師匠として戦いの参加は認めてあげてもいいかもしれない。
「フィムちゃん。あの人達に協力してあげて」
「はいっ!」
フィムちゃんが張り切ってダッシュしていなくなった。
さて、私の気が乗らないのは未だにミッションが出ないからだ。
前から思っていたけど、こういうのがクリア報酬の欠点だと思う。
「マテリ、フィムちゃんだけにやらせていいのか?」
「んーーー……。そりゃ私だってこれほどの危機を見過ごしたくはない。でもモチベーションがなぁ」
「じゃあ、オラも戦ってくる。マテリ、オラはお前についてきた身だから何も言わねぇからな」
「微妙な禍根が残りそうなセリフを……」
フィムちゃんに続いてミリータちゃんまでいなくなった。
あの二人だけで全滅できそうと考えるのは甘いかな?
さすがの私も何もしないというわけにはいかない。
はー、しょうがない。やりますよ、やればいいんでしょ。
「どこかに手っ取り早い戦力でもいないかな……あ」
閃いた私は転移の宝珠を取り出した。
* * *
「クリード王子、来ました!」
「迎え撃つぞ!」
どこから現れたのかわからないが、この王都には近づけさせない。
騎士団およそ3000人、冒険者400人。
敵の数は不明だが、あの迫る際の土埃を見る限りではかなりの数だ。
そして見えてきた敵の全貌に僕は驚愕する。
「あ、あのゴーレムは……!」
僕が、いや。いつかマイプリンセスが討伐したものと似ている。
炎や氷、雷をまとった様々なタイプがいるがおそらく同種だろう。
それがざっと見て千体は超えるか。一体どこからあんなものが?
「数ではこっちが上だ! 落ち着いて戦えば勝てる! 冒険者の皆も無理はしないで、怪我をしたら後退しろ! 絶対だぞ!」
ゴーレム達がいよいよ迫ってきて、そして激突した。
僕も剣を振るって応戦――
「はい、こんにちは」
「マ、マイプリンセス! それにその人達は……」
戦場に突如として現れたのは麗しのマイプリンセス、マテリだ。
彼女と共にいるのはあのファフニル国のブライアス率いる兵隊、それに見慣れない若者達。
何がどうなっているのだ?
まるで瞬間移動してきたかのようだ。
それもこれほど大勢の人達がどうやって――。
「ファフニル国の女王様に頼んだら二つ返事で戦力を貸してくれましたよ。あ、こっちの人達は勇勝隊という自称勇者達です」
「あちらの女王に!? 何がなんだか……」
「この人達、かなり強いと思うからだいぶ戦力になると思いますよ」
「マイプリンセス、君は一体……」
そこからはマイプリンセスの言う通りだった。
あの閃光のブライアスは元より、兵隊の強さがなんとも頼もしい。
ゴーレムが次々と倒されていき、特にブライアスは一振りで数体のゴーレムを葬っていた。
閃光スキルからは逃れられない。
その言葉の意味を改めて思い知る。
「敵は未知の存在だが、我らに敗北する理由などない! 思い出せ! 我々が何を胸に抱いているのかを!」
「愛ッ!」
「勇気ッ!」
「正義ィ!」
「そして平和ァ!」
「勝ち取れ!」
「この手に! 勇者達よォーーーーーー!」
勇勝隊と名乗る彼らの戦闘力も並みじゃなかった。
誰もが英雄のごとき活躍を見せて、ゴーレムをものともしない。
特にアルドフィンと名乗った男はブライアスに引けを取らず、我が国の騎士団長とも張り合う実力者だと再認識した。
一体どこにこれほどの人達が?
僕は何を見せられている?
「おぉ、ブライアス殿! 久しぶりですな! 一体、どのようにしてここに!」
「騎士団長! 我らが聖女のおかげだ! それよりすぐに片付けるぞ!」
ブライアス、騎士団長。アルドフィン。
この三人は僕の網膜に強烈に焼き付いた。
剣の腕だけなら完全に僕より上だ。
僕はグッと拳を握る。
やっぱり真の強さはこうでなくちゃな。
「……すごいな」
「クリード王子、もうすぐ終わりそうですよ」
「マイプリンセス、どうやって彼らを連れてきた? 彼らは何者だ?」
「次その呼び方したらぶっ叩きますよ」
今の僕にもはっきりとわかる。
マイプリンセス、マテリは紛れもない聖女だ。
見えざる力でこの戦場に力をもたらし、平和へ導く。
ブライアス率いる兵隊、そして勇勝隊。彼らはマイプリンセスの圧倒的なカリスマの下、集ったに違いない。
あの戦いぶりを見ているだけでわかる。
「あの王女、二つ返事で我らをこき使いおって!」
「聖女様の言いなりだよ、まったく!」
なるほど。
シルキア王女を動かすほどの少女か。
マテリ、君は僕を驚かせてばかりだ。
だからこそ惚れた甲斐がある。
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