暗躍する者達
「これより、計画に向けて会議を行う」
私、アドイク大臣は国の未来を常に憂いている。
ここファフニル国ではスキルが重要視されていた。
過去の歴史を紐解いても、国を興して発展させた影ではスキルが大きく関係している。
例えば古代帝国バンダルシアの皇帝のスキル、軍編成は大陸最強の軍隊を作り上げた。
そのおかげで大陸制覇を成し遂げたのだ。
その部下も例外ではなく、優秀なスキルを持つ者が揃っていたという記録も残っている。
そう、スキルの有用性は太古の昔より認められていた。
それを前王はよく理解されていたのだ。
「魔族との会談などというふざけた催しは徹底して妨害させてもらう。皆もそう思うだろう?」
「まったくです。そのために我ら反体制派が集まったのですからね」
ここに集まっているのは国の重鎮の一部だ。
前王を支持していた軍務関係者や貴族など、いわば真の国造りに必要な人材でもある。
ただしそんな我らでも、二度目の異世界召喚は反対していた。
その結果、アズゼルによって一度は国が傾いてしまったのが唯一の失策と言えるだろう。
あれは計算外だったが、だからといって前王が失脚する必要はどこにもないのだ。
前王による魔王討伐制度やクソスキル税、これらは巡り巡って国に還元される。
下々の者はそこを理解して、馬車馬のように働かなければいけない。
しっかりと動かして結果を出してもらう。
それを実行させるのが我々であり、上に立つ者の監督責任であり責務だ。
そういった真理を見通していたのが前王、あのお方は賢王と呼ぶにふさわしいだろう。
今は地下牢に幽閉されて嘆かわしい限りだ。
「アドイク大臣、目の上のたんこぶであるあの聖女の小娘はどうされるおつもりでしょう?」
「厄介だな。陛下お抱えのデス・アプローチやドリューハンドも返り討ちにあっている。加えてあのビリー・エッジすらも撃退されてしまった」
「足はついていないでしょうな?」
「問題ない。口は封じた」
「ほう……?」
念のため、先回りして地下牢に囚われていたビリー・エッジの食事に毒を盛っていた。
殺し屋などしょせんは使い捨て、何の問題もない。
「信じがたい話だが、聖女に関してはあのアズゼルを討伐している。クリア報酬、調べたところによるとあれは何かの条件を満たせば凄まじいアイテムが手に入るもののようだ」
「あの火宿りの杖を所有しているそうですな。身も蓋もないスキルです……そうだ! ならば、あの魔道士協会を利用しては?」
「確かに奴らならば、火宿りの杖のような存在は許しておかんだろう。だが奴らとて一枚岩ではない。秘密裏に行う計画に関わらせるにはリスクが大きすぎる」
「しかし、ならばどうやってあの聖女を……」
「ううむ……」
あの聖女の戦闘能力は正攻法では手がつけられない。
それにあのバカ女王のお気に入りというのも厄介だ。
あの聖女マテリは今や国民達のシンボルとなりつつある。
つまり現体制を倒壊させるならば女王だけでなく、聖女をどうにかしなければいけない。
「……ひとつ、提案があります」
「ゲハテール伯爵、言ってみろ」
「あちら側にはないメリットを提示すればいいのです。いくら力が強くても、しょせんはまだ子ども……どうとでも口車に乗せられますよ」
「さすがは巧みな話術で財を成した貴族なだけはある。一体、どれだけの人間が泣かされてきたのだろうな」
「ハハハッ! アドイク大臣には敵いませぬ」
その後、ゲハテールが提示した作戦はこうだ。
聖女などと祭り上げられても人はいずれ飽きる。
そうでなくても反感を持つ者に命を狙われる危険性があるだろう。
ここで、すでに身に覚えがあるのではないかと脅す。
仮にそんなものがなくとも、人は危機感を覚えれば些細なことでも「もしかしたら」と強引に思い起こす。
不安を植えつけた後からスタートだ。
その上で新体制の素晴らしさを説く。
あの女王がいかにアンポンタンであるかなど、誰の目から見ても明らかなのだから。
「年頃の少女だ。私の伝手があれば育ちも顔もいい男などいくらでも当てがえます」
「フフフ、素晴らしいぞ。ゲハテール、作戦の主導はお前に任せる」
「お任せを!」
「では次、魔族との会談だな。これについては短期決戦で妨害する。アンシーン!」
何を言い出すのかと皆が訝しむ中、私の背後にそいつは現れた。
「ここに……」
「な、何もないところから人が!」
「フフ……アンシーンのスキルは透明化、こいつを雇うのにどれだけ苦労したか……」
こいつの存在で、この場が活気づいた。
それはそうだ。
暗殺においてこれ以上の適任はない。
この見えざる追跡者には人脈を辿りにたどってようやく接触できたのだ。
「アンシーン……聞いたことがあるぞ! かつてそいつを恐れて強固な警備をつけて館に引きこもった貴族がいたという……」
「アドイク大臣、女王を暗殺するのですな!」
「確かにそれが手っ取り早い! 聖女とかいう小娘はその後でいい!」
いいぞ、この盛り上がりよう。確信した、この作戦は必ず成功する。
私もより自信がついた。
「機は熟した! では」
「ファオアボァァァァァァルァ!」
「ぎゃぁぁあーーーーーーーーー!」
突然の爆風が我々を襲った。
全員、ひっくり返って起き上がれずにいる。
「な、なにが起こった!」
「つぇつぇりゃぁぁぁーーーー!」
「ぎあぁッ!」
「なっ! ま、まさか聖女か! なぜここが……」
この秘密の会議に参加していた者達が次々と倒れていく。
同時に室内も燃え上がり、騒然となった。
いや、落ちつけ。多少のアクシデントはつきもの、ここは計画を前倒しして――
「ゲハテール! 交渉だ!」
「そ、そうですな! 少女よ! 取引」
「うりゃあぁあッ」
「ぐっふぁぁぁッ!」
「ゲハテーーーール!」
杖の一突きで仕留められたゲハテールが倒れた後、少女の目の前にいるのは私だ。
おかしい。いくらなんでも話を聞かなすぎる。
これが聖女だと? 国を救ったただと?
「ラストォーーーー……一人ぃ……」
「あ、あの女王に従うのが正しいと思うか! よく考えろ! 聖女などと言われてるがお前は利用されているだけだ! そうだ、アンシーンはどうした……おっとぉ!」
何かを踏んづけたと思えば、姿が見えなくともこの感触は人間の身体。つまりアンシーンだった。
ウソだろう?
すでに倒されていただと?
ウソ、だろう?
「ハ、ハハハ……見逃してくれぇ……」
「せいやさぁッ!」
「うぎゅッ……」
意味が、わからない。本当になにが、起こった。
意識が、闇に、落ちていく――。
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