勇勝隊
勇勝隊が結成されて、どれだけの月日が流れただろうか?
私、ニトルは魔王討伐制度により数年前に送り出された者だ。
元々冒険者として名をあげる予定だったのだが、これはまたとない機会だと考えた。
なぜなら魔王討伐のほうが、より名声を得られると思ったからだ。
渡されたブロンズソードと100Gはクソであったが。
「へっへっへっ……高ぶるぜ」
「お前の出番はないな。魔王はこの俺、勇者バドバン様が討伐する」
私に負けず劣らずの曲者達が、我こそはと意気込んでいる。
魔王討伐制度によって送り出された者達で結成されたこの部隊、当初はまとまりがなかった。
何せ当時の国王はスキルに関する精査は本当に厳しかったのだ。
そんな国王に認められて送り出されたスキルの持ち主なのだから、癖の強さでは誰もが負けていない。
ただしそんな彼らでも一人で魔王を討伐することがいかに困難か、わかっている。
一度は挑んで吹雪に阻まれて逃げ出した者、あと少しと意気込む者、報酬や名声のみ求める者。
私を含めたそんな曲者達をまとめ上げたのがアルドフィン、真の勇者として認められている勇勝隊の隊長を務めるお方だ。
「あの厄介な吹雪は止んでいるようだな! おかげで魔王城がよく見える!」
「アルドフィン隊長、いよいよですね」
「あぁ、この日をどれほど待ちわびたことか……。我々の使命を果たす時がついにやってきた。愛と勇気と正義、そして平和を胸に抱く我々を天も祝福しているようだ」
「アルドフィン隊長の仰る通りです。困難にも負けず、正義を貫いた私達が最後に笑うのです」
曲者をまとめあげたアルドフィン隊長はその人柄と志に多くの者の心を掴んだのだ。
心を折られた者に抱かせるのはいつでも愛と勇気と正義、平和。
人として当然、望むものを思い出させてくれた。
そう、自分は勇者なのだという自覚を持てたのもアルドフィン隊長のおかげだ。
魔王討伐に出た頃の私は今では考えられないほど、プライドが高かった。
負け知らずで血気盛んだった私はふとしたことで当時のアルドフィン隊長と口論になる。
決闘の結果、私の惨敗だった。あまりに悔しかった。
しかし当時の言葉は今でも忘れない。
「ニトル、お前は確かに強い。しかし考えてもみろ。すべてを一人で成し遂げる必要がどこにある?」
「なんだと……!」
「勇者とは個ではない。立ち向かい、成し遂げた者達に対する勲章だ。つまり私もお前も勇者には変わりない」
「お前……」
負けた私にアルドフィン隊長は敬意を表したのだ。
冒険者の中には己の名声と報酬しか考えない奴らがいくらでもいる。
その一人だった私にアルドフィン隊長は手を差し伸べた。
そして私のような奴らが集まり、勇勝隊と名乗るようになったのだ。
「そもそも一人で魔王に挑もうとする奴がバカなのだ。仲間は多いほうがいい。なぜか、より大きな集団でまとろうとしない奴が多いがな」
「ハハハ……アルドフィン隊長の仰る通りですよ。冒険者パーティも多くてせいぜい四人がいいところですからね」
「相手が魔王となれば、たかが四人でどうにかなるわけがない。あの王様も本当に人が悪いよ」
ある時は国王の悪口で花を咲かせた。
この時にはすでにブロンズソードは売って金にしていた。
質が悪くて10ゴールドにしかならなかったのも今では笑い話である。
「魔王討伐に行く我々相手にも、武器屋のオヤジは高値で武器を売りつける。本当に嘆かわしいよ」
「魔王を討伐してほしいなら少しくらいサービスしてほしいものですね」
「まったくだよ! かの有名な火宿りの杖を見かけたんだけどよ! なんと200万ゴールドもしたんだぜ!?」
「ゲェッ! 三級冒険者だった俺の稼ぎじゃ何十年かかる金額だよ!」
「しかもどうせ偽物だろ?」
こんな話で盛り上がる時は本当に楽しかった。
本物なんて存在しないんじゃないかと言われている火宿りの杖は魔道士協会も躍起になって探し回っている珍品だ。
その店、魔導士協会に目をつけられたんじゃないか?
まぁそんなことはどうでもいい。
私も一時期は無償で魔法が使えるアイテムに憧れていた。
しかし今は違う。
私の、いや。私達の勇気こそが何よりの武器であり、強さだ。
そんな私達は今、魔王城を視界に入れている。
「言うまでもなく敵は強大だ! 魔王打倒が叶わず、己の無力さを思い知った者も多いだろう! だが魔王討伐は我々にしかできないのだ! 我々が弱者の矢面に立ち、魔王の脅威から守る! もちろん恐怖はあるだろう! しかし思い出せ! 我々が何を胸に抱いているのかを!」
「愛ッ!」
「勇気ッ!」
「正義ィ!」
「そして平和ァ!」
「勝ち取れ!」
「この手に! 勇者達よォーーーーーー!」
名立たる勇者の中でも最強のアルドフィン隊長の激励により、我々はより奮起した。
アルドフィン隊長が剣を掲げてから降ろして剣先を向けたのは当然、魔王城。
それが開戦の合図だ。
「行くぞ、勇者達よ! さっそくお出ましだ!」
「手下か!?」
「手下とて油断するなよ! まずはあれを討伐だ!」
「オォーーーーー!」
そいつが猛烈な勢いで走ってきた。
近くで見れば、なんと少女だ。
あれが魔王の手下か?
いや、どう見ても人間だ。
「人間だと……?」
「アルドフィン隊長! どうしますか!」
「人間であれば争う必要はない!」
「ぎゃああぁーーーー!」
悲鳴が聞こえた。
先頭にいた勇者の一人が火に包まれて吹っ飛んでいる。
なんだ? 何が起きた?
「許さない……」
「な、なんだ! あの少女は味方ではないのか!」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
「うぅ!? 様子がおかしいぞ!」
近くで少女を見た時、背筋が凍り付いた。
あれをどうして味方だと勘違いしたのか?
先頭にいた勇者の一人、アダンは最強の防御スキルである大盾完全ガードを持っていたはずだ。
それを一撃で吹っ飛ばす人間などいるものか。
「止むを得ん! 迎え撃て!」
ここまでアルドフィン隊長の切羽詰まった声は初めて聞く。
ここで怯むな。私は、私達は勇者なのだ。
魔王の手下など、ここで成敗してくれる!
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