勇者と出会いました
流されるままに聖女扱いされて数日、私は王宮内で特別扱いされていた。
専属の召使い、綺麗な部屋、専用のバスルーム。
食事だって望めばなんでも用意してくれるらしい。
私はシルキア女王様に相当気に入られたみたいで、誰もが望む至れり尽くせり。
ちなみにミリータちゃんは聖女である私の従者設定になってた。
この生活に何の不満があろうか? ある。
そう、私はこんな生活でも満たされなかった。
「シルキア女王、魔王討伐を私にお任せいただけないでしょうか?」
「聖女様……あぁ、聖女様……」
「あの、祈るのはいいんですが話を進めてください」
「聖女様、やはりあなたは悪を討たねばいられないお方……。わかりました、ぜひお願いします」
ミッションが発生しない日々なんて冗談じゃない。
私は無償で与えられることに満足できない身体になっていた。
ミッションをこなして貰える報酬で最高の快楽を得られる。
その証拠にあまりにミッションが起こらない生活をしていたら、手が震えてきた。
これは確実にミッション不足による禁断症状だ。
「実はすでに魔王討伐に向かっている者がいます。長らく音沙汰がないのでおそらくはもう……」
「少し知ってます。魔王討伐制度ですね?」
「はい、お父様……前王が推し進めた政策です。魔王討伐に向かう者に勇者の称号を与えて旅立たせるのです」
「つくづく正気じゃないですね」
前の王様の時は魔王討伐制度とかいうのがあって、国民の中から選抜された人が討伐するものだったらしい。
この概要だけで頭のネジがないとしか思えないけど、あの王様だ。最初からネジなんかどこにもない。
勇者呼ばわりされて100ゴールドとブロンズソードを持たされた人は今頃、どこかでのんびり暮らしてそう。
優秀なスキル持ちを欲しがってるくせに旅立たせるスタイル。
「私からできる限りの支援をさせていただきます。旅の資金と人員、何なりと申しつけください」
「すごい、100ゴールドとブロンズソードじゃない」
お言葉に甘えて、旅の資金はたっぷりと貰った。
人員に関しては私とミリータちゃんだけでいい。
こうして私は魔王討伐という名のミッション漁りに出かけることになった。
* * *
魔王。
いつの頃からか、突如として姿を現したそうだ。
ファフニル王都の遥か北の地に居城を構えていて、今やその一帯は魔王領と呼ばれている。
国が討伐隊を送り込むも惨敗。冒険者達からも討伐対象にされるけど惨敗。
魔王どころか四天王にすら手も足も出ない状態で、ファフニル国側が抱える問題の一つだとシルキア女王が説明してくれた。
ていうかまた四天王とかいてくれるんだ。
魔王と合わせて報酬五つか、悪くない。
「だいぶ遠くにきただな。もうすぐ魔王領とか呼ばれている北部だ」
「この森もだいぶ深いね。抜けたら最後の町があるんだっけ?」
「んだな。それ以降は町どころか村一つ……マテリ!?」
「ミッションの匂いがする!」
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新たなミッションが発生!
・エンシェントワームを討伐する。報酬:全上昇の実×2
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走った先にいたのは目鼻がなく、牙だらけの口だけを主張したワームだ。
そのワームが飲み込もうとしているのは一人の女の子。
「ファイアァァァボオォォォル!」
「ギシャァァーーー!」
盛大に吹っ飛んだワームが大きい胴体だけを残した。
よし、これで――。
「ギシャァーーーー!」
「はぁ!? まだ動くの! あぁもうーーーファファファファファファファファファァァアァァーーーーー!」
残った胴体に火の玉を浴びせて、みるみると燃え散っていく。
なるほど、あんな生物だから頭を潰してもしぶとく生きてるのかな?
とにかくこれで今度こそ完了なはず。
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ミッション達成! 全上昇の実を手に入れた!
・効果:ステータスを+100される。
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「よしぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「さすが魔王領が近いだけあるだなぁ!」
喜び乱舞していると、襲われていた女の子が手でパンパンと埃を払ってから私達に頭を下げた。
よく見るとミリータちゃんと同じく耳が尖っている。
「あの、ありがとうございました。私も修行を積んだつもりですがダメでしたね……はぁ」
「あなたは?」
「ボクはフィム。魔王を討伐するために旅立ち、ここで修行していました」
「じゃあ、あなたが魔王討伐制度の……。あの、こんなこと言ったらなんだけどさ。別に魔王討伐なんか放っておいてもよくない?」
「王様のご命令ですし、何よりこれは私が生まれ持った使命です。ボクのスキルは全剣技、果たすべきは平和を取り戻すことです。皆さんの期待を背負っていますから……」
全剣技!?
それってかなりすごいスキルじゃない?
あの前の王様が抜擢するくらいだから、やっぱりそうだよね。
そっか、なまじすごいスキルだと周囲からの期待も大きい。
聖女をやっている私だからよくわかる。
ミッション報酬があるならともかく、他人に強制された使命なんてやってられない。
この子は偉いのか、それとも。
「お、おめぇちょっと待て。そのブロンズソードずっと使ってたのか? 年季が入ってるなんてもんじゃねぇぞ」
「はい、王様からいただいた由緒ある剣です。これで必ずや魔王を打ち倒します」
「それでこの辺の魔物と……。一体いつからだ?」
「えーと……十年目から数えてません」
目が点になるとはこのことだ。
魔王討伐制度ってそんなに昔から? じゃなくて。
「ボクはまだ未熟なので、この辺りでずっとレベルを上げてるんです。まだ99なのでもっと頑張らないと……」
そう言ってフィムが剣を振ると、大木がすっぱりと斬れる。
なるほど、なるほど。レベル上げをして十年以上、気がつけば99になっていたと。
クソ制度とこの愚直さが合わさって、とんでもない怪物が爆誕していた。
「それにしてもあなた、あのエンシェントワームをあんなにも簡単に……あの、お願いがあります」
「あ、無理です」
「ぼ、ボクを弟子にしてください! 未熟なボクをどうか鍛えてください!」
「無理なんですよね本当に」
無理なんですよね本当に。
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