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また異世界召喚

「陛下、準備が整いました」


 数人の宮廷魔道士が慌ただしく動き、ようやく異世界召喚の準備を終えた。

 必要な魔道具や触媒など、この異世界召喚はとにかく金がかかる。

 それだけにあの異世界の少女を召喚した時は期待したというのに。

 この私を前にしてクソスキルとは。


「よし、では今度こそ成功させるぞ」

「では……」


 魔道士が呪文を唱えると床に描いた魔法陣が光る。

 杖を振り、空中に描いた一列の文字が動き出して回転を始めた。

 それがいくつも重なり、室内を強い光が満たす。


「く、来るぞ!」


 光の柱が魔法陣から放たれた後、そこに何者かが立っていた。

 二対の黒々とした角、紫の体毛と人の肌が入り混じる人型の何か。

 すらりとした体形に悪魔と形容できる容姿が合わさり、私は総毛立つ。

 全身が凍り付くような感覚さえ覚えた。


「な、な、何者だ……」

「……私を呼んだのは貴様か」

「そ、そうだ。私はファフニル国の王、そなたに……う……うおぉぉ……アァァァッ!」


 片手の手首から先がなくなっていることに気づいた。

 膝をついて遅れてやってきた激痛に耐え切れず、力の限り叫んでしまう。


「余計な発言を許可した覚えはない。私を呼び出したのは貴様かと聞いている」

「そ、そう、です……」

「何用だ」


 喉が渇ききって声が出ない。

 いや、出せぬのだ。

 それは次の発言で命が飛ぶことを私の本能が理解している。

 こやつは、こやつはまさか。


「答えぬか」

「う……!」


 眼前に迫られた時に私は完全に圧倒された。

 ダメだ。こやつは危険すぎる。

 ここで仕留めなければならん!


「フラムブレイクッ!」


 最高位の炎属性魔法を片手から放った。

 極限まで高まった熱を凝縮して対象に打ち込んで一気に爆発させる魔法だ。

 理論上、これに耐えられる生物はいない。

 非常に小規模ではあるが、いかなる物質とて塵すら残らない。

 私のスキル、全属性魔法はこのような魔法をいくつも放つことができるのだ。


「今のが答えか?」

「うぅ……!?」


 何事もなかったかのようにそいつは立っていた。

 埃でも払うかのように、手で体を叩いている。


「……そうか。人間という生物は己の力量を見誤る傾向にあると聞く。ならば名を明かして驚愕させる必要がある。私はアズゼル、魔界の王だ」

「ア、ズゼ、ル……」


 文献で読んだことがある。

 魔界は魔族と呼ばれる種族が支配しており、かつては私達の世界にも存在していた。

 その力は絶大で、人間が魔力と理論を行使して魔法を使うのに対して魔族は呼吸のごとく扱える。

 あらゆる点で人間の上をいく彼らはかつてこの世界を支配していたと言われていた。

 いつ、どのようにして魔族が地上から姿を消したかはわからない。

 魔族の中でも魔界を支配する五大魔王の一人がアズゼルだったはずだ。

 現在、我々を脅かしている魔王との関係性は不明だがこのアズゼルのほうが遥か上をいくだろう。

 何せ魔王を遥かに凌ぐ魔王を呼び出して、ぶつけようと考えていた時期もあったのだからな。


「ようやく力量の差を理解したと見える。その上で貴様は私に何を望む?」

「こ、この、世界にも、魔王と呼ばれる奴がいて、そいつを、こ、殺してほしい……」

「つまり望むのは安寧か。話に聞いていた人間らしい……。争いや不幸から目を背けてただひたすら平和を欲する……。それは人間が脆弱だからだ」


 アズゼルが喋るたびに体の力が抜けていく感覚に陥った。

 すべてを諦めて楽になりたいと思えてくるのだ。


「弱いから平和を望む。愚かで嘆かわしい。私は混沌を司る王アズゼル、貴様に授けられるものは一つしかない」

「それは、一体……」

「私は貴様に混沌を授ける。平和とは程遠いものだ」

「そ、そ、それだけはぁ! ぐぁッ!」


 今度は足を貫かれた。

 立つことすらできず、悶えるしかない。


「貴様が支配していた国は私が支配する。人間には自らの生がいかに儚いものか、私が理解させる」

「うう、うぐぐ……」

「いでよ……我が眷属よ」


 アズゼルが手をかざすと、四匹の魔物が出現した。

 神聖なる王の間にたやすく魔物が。

 クソッ、こうなったのは誰のせいだ。

 それもこれもあの異世界の少女を召喚してからケチがついた。


「アズゼル様ァ! お呼びでございますかぁ!」

「ゲーゲゲゲッ! なんだぁ? こいつらまさか人間かぁ! 初めて見るぜぇ!」

「浅ましいぞ、ゲルゲリゲラン」

「そうだヨ。アズゼル様の御前なのだゾ」


 異形としか形容できない魔物達が楽しそうにはしゃいでいる。

 分析(サーチ)を使ったと思われる魔道士が愕然として、座り込んで失禁していた。


「ア、アズゼルの、このステータス、は……あぁ……。ゲ、ゲルゲリゲラン……こ、攻撃が、700を超えて、いる……」


 なんということだ。

 こやつらのうち一匹の時点ですでに私の手に負えん。

 私は、私の国は終わったのか?

 これではあまりに呆気なさすぎる。

 もう誰でもいい。誰か私を救ってくれ。


                * * *


「あそこが王都かー。長旅だったなぁ」

「やっと着いただな。でもなんか様子がおかしくねえか?」


 遠目に見える王都だけど、どこかどんよりした雰囲気があるような?

 まぁいいか。ミッションさえあればいいからね。

おかげ様で総合ランキング入り、異世界転生転移ランキング4位です!


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― 新着の感想 ―
[一言] 短い謳歌になりそう…
[一言] 魔王に対するお願いは、一つだけ・・・ワンパンにだけは、倒されんといてくださいよ? それだけは、勘弁ですわ・・。ワンパンにだけは、倒されんといてくださいよ?
[一言] ゲルゲリゲラン…なんかお腹壊してそうな名前ですね。 王都はたくさんミッションがありそうで良かったねマテリちゃん! (もう何が貰えるのかにしか関心が向かない)
2022/07/25 20:20 退会済み
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