ドンチャッカに迫る危機
「ようやく準備が整いつつあるな」
魔道士協会の若手の中では上位と言われているウェイカーは何事も効率を優先する。
魔道士とは単に魔法を行使するだけではない。それだけならば、ブレスを吐き散らすドラゴンと何ら変わらない。
人の身で神に選ばれたのならば、頭を使うべきだ。その点を考えて、ウェイカーはカイソウジのやり方にはついていけなかった。
カイソウジの魔力と固有魔法は間違いなく六神徒に抜擢されるに相応しい。
しかし肝心のやり方が真面目すぎると不満を持っている。
「モグラ退治をするのにわざわざ穴に入る必要などあるまい」
ウェイカーはカイソウジと別れた後、地上に出ていた。彼が立っている地面の下にドンチャッカ国がある。
地面に魔法陣を描き、魔法に必要な触媒をセットしていく。魔法とは魔力と詠唱だけで繰り出せるものばかりではない。
大きな魔法を行使する際にはこうした準備を必要とする。
大きな力であるほどリスクも大きい。失敗すればものによっては自身に大きなペナルティが課せられてしまう。
ウェイカーはそれを承知だったが、必ず成功させられる自信があった。
幼少の頃より彼は苦労というものをしたことがない。裕福な家庭に生まれたウェイカーはほしいと思ったものはすべて与えられる。
友人が付き合っている女性がほしいと思えば、次の日には自分と並んで歩いていた。
彼の父親が女性に大金を積んでしまえば、人だろうとそれだけでウェイカーのものになる。
ウェイカーが本格的に効率がすべてと認識するようになったのは十八歳になった時だ。
恵まれた環境があれば努力の必要などない。そんな状態でがむしゃらに働いて家や財産を得るのは非効率だからだ。
恵まれた財力があればすべてが手に入る。人の努力の源泉は金だ。生きる上で必要となる金を得るために努力する。
人が争う原因も金だ。金は人の心さえも奪う。生まれた時から金を持っていれば、何を努力する必要があるか。
そういう意味でウェイカーは自分が効率のいい人生をおくっていると自覚している。
ウェイカーはすべてを持っていた。金も魔力も素質も、その上で魔道士協会に所属したのは観光するためだ。
魔道士協会の話は昔から聞いていたが、いかに魔力があろうとも彼らとて金を得るために働いている。そう思っていたからこそ、所属を決めた。
「六神徒と呼ばれる方々も、私より金を持っていない。だから有り余る魔力をもって金を得ようとする」
特に今回、ウェイカーを見出したカイソウジは贅沢というものをほとんどしない。
煩悩は己の魂を汚す愚行として、今回の任務も部下達に遊びを禁じていた。
遊び好きの彼にとっては最悪な状況だ。これだから貧乏人は、と悪態をつきながらウェイカーはカイソウジに従っていた。
そしてドンチャッカ国へと踏み入れる直前、カイソウジはウェイカー達に命じた。
――いいか、吾輩達は凡人以上の存在である。だからといって礼儀を欠いてはいかん。
任務のためといえど、卑劣なやり方は吾輩が許さん。
吾輩の指示に従ってもらうぞ。いいな?
「呆れてものも言えん。だからあの男はハゲるのだ」
凡人と見下す相手に無駄な配慮をして気を使う。だから頭髪の一本も残っていない。
彼の頭は彼があえてそうした形であるが、ウェイカーはハゲ呼ばわりしている。
カイソウジの指示にグレイも呆れて、ウェイカーと同じように別行動の道を選んだ。
ウェイカーが以前、カイソウジから出生について聞いている。カイソウジは貧乏な村で産声をあげて、ひもじい幼少期を過ごした。
贅沢とは無縁の生活を送る中、両親からもこれが人として高みにいくための試練だと教えられてきている。
両親は世界的に広がっているアスバル教の信者だった。独自の教えを信じてカイソウジを育てており、カイソウジもまたそれを信じている。
司教であるトゥルクーとは友人のような付き合いをしているが、カイソウジはトゥルクーを誰よりも尊敬していた。
そんなカイソウジのことを思い出して、ウェイカーは鼻で笑う。
「結局、劣悪な環境で生きた現実から目を背けたいだけだ。痛みすら涙を流して感謝する。あのカイソウジが恵まれたのは魔力だけだ」
魔道士協会もまたウェイカーにとって滑稽と思うようなものだった。
自分は財力だけでなく、魔力にも恵まれている。対して魔道士協会の魔道士達の大半が魔力しか持たない。
だから神に選ばれし者として、もっとも自分が優れていると思っている。
財力や魔力、二つを兼ねそろえた自分がなぜ六神徒に抜擢されないのか。
なぜカイソウジなどの下で働いているのか。
なぜ上からものを言うように、カイソウジに評価されているのか。
魔導士協会に入った当初はすぐに上にいけるものだとウェイカーは信じていた。ところが蓋を開けてみればいつまでも支部長すら任されない。
ウェイカーは怒りを思い起こして、最後の魔法の仕上げに取りかかった。
「エクセイシアのバストゥール支部長も結局は支部を壊滅させられている。そんな無能をどうして評価するのか理解できん。結局、魔道士協会もその程度ということか」
ウェイカーは詠唱を始めた。これは大規模破壊、ウェイカーが得意とする地属性の魔法だ。
一帯がズゴゴと揺れ始めて、いよいよ魔法が発動する。
「大魔法アースクェイク! モグラ退治など、これ一つでいい! 結果を求めるのに効率を考えないでどうする! 穴に入ってモグラ退治などアホのやることだ!」
アースクェイク。ウェイカーはこれでドンチャッカ国を滅ぼそうとしていた。
この案をカイソウジに話せば激しく激昂する。それがわかっていたからこそ、ウェイカーは単独行動をした。
「大いなる力の前にひれ伏せ! アースクェイクッ!」
「ファイアボアァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「グアハァァーーッ!」
ウェイカーの足元が爆発した。更に地面を突き破って出てきた巨大な炎の塊にのみ込まれる。
空中に巻き上げられたウェイカーはほとんど意識がなかった。
「うりゃああぁーーーーー!」
「ごっふぅッ!」
更に追撃でウェイカーの腹に杖が叩き込まれた。彼が見たのは跳んできた少女の姿だ。
ただしその姿が彼にとって少女とは思えず、逆光に照らされたシルエットで何か大きな存在を連想してしまう。
「ま、さか、地底に、眠る、これ、が、邪神……」
「らぁぁーーーー!」
「がはッ……」
杖で叩き落されたウェイカーの意識はもうなかった。
自分は魔法でとんでもないものを呼び起こしてしまったのだという後悔。それが邪神だという確信。
意識を失う寸前に彼はそう理解した。最後に聞いたのはホウシュウという意味深な単語だ。
「ゲットットォォーーー!」
「さっそく見せるべ!」
「さすが師匠ーーーー!」
倒れているウェイカーの傍らではしゃぐ三人の少女達がいた。
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