百薬の長
ミリータちゃんが回収したゴーレムをバトルキングを始めとしたドワーフ達が調べている。
使われている素材の成分分析、構造、回路。聞いているだけで眠気を誘うワードが次々と飛び出す。
あれこれと頭を悩ませていたけど結局、何がなんだかわからないという結果だった。
「こりゃ今の文明で作れるもんじゃねぇな」
「バトルキング、この装甲の重ね方もオラ達の着想とはまったく違うべ」
「見たところ、数百年前に作られたもんだな。これが魔道士が言ってた機神ってやつか?」
「むー……あっ!」
ミリータちゃんが何かを思いついた。私のところにやってきてかなり嫌な予感がする。
「マテリ、古代魔道士のタトゥーをくれ」
「ミリータちゃん、私に何をしろって?」
「ちょっと貸してくれるだけでいいんだ」
「えー……ちょっとだけだよ?」
ミリータちゃんがおかしくなった。こともあろうか、私に報酬で得たアイテムをよこせとか言うんだもの。
断腸の想いでバトルキング達に貸すことにしたけど、傷一つでもついていたらファイアボォの雨が降り注ぐことになる。
それからしばらく経ってから、バトルキングが魔道車にやってきた。
「おう、お前ら。ここ最近、本当にお手柄だな。どうだ? 付き合わねぇか? うぉっ!?」
「すみません、ちょうど運動の時間でした」
とんでもないことを口走ってきたバトルキングについ素振りをしてしまった。
髭がふわりと浮いて、さすがのバトルキングも驚いたみたいだ。
「な、何を勘違いしてやがる! 誰がおめぇみてぇな小便臭い小娘に手を出すか!」
「それはそれで運動再開したくなる」
「俺が言ったのは飲みに付き合えってことだ!」
「でも私、未成年なんでお酒を飲んだら色々と面倒なことになりますよ?」
「なんだ? 酒癖でも悪いのか?」
そうじゃなくて。いや、これ以上は言うまい。色々と危ないからね。
バトルキングが言うにはノンアルコールだけどしっかり酔うことができる飲み物があるらしい。
ドワーフではミリータちゃんの年齢ですでにお酒を飲むらしいけど、全員が飲めるわけじゃなかった。
「マテリ、たまにはいいんでねえか? まさかミッションがどうとか言わねぇよな?」
「私がそんなみっともないこと言うわけないじゃん。いいよ、おいしいものも出してくれるなら付き合う」
こうして私達はバトルキング主催の飲み会に参加することになった。
宴会場に用意された料理とお酒の数々、そしてお酒らしきもの。
ノンアルコールのそれはホワカンドリンクと言うらしい。飲んだらほわかーんってするからそう名付けられたんだって。
で、開始数分でバトルキングが出来上がっちゃって。
「グワッハッハッハッ! マテリ! 飲め飲めェ!」
「さっそくアルハラみたいなことが起こってる」
「なんだってぇ! おめぇ、ドグが言ってるようにホントに強いのかぁ!? なぁ!」
「どうしよう、今すぐミッション出てほしい」
ホワカンドリンクを飲む気になれないでいると、バトルキングがグビグビとお酒を飲む。
「いやぁ! こんなうまいものを飲まねぇなんて人生のすべてを損してるなぁ!」
「アル中で死にますよ。大体、私はそんなもの」
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ミッション発生!
・バトルキングと飲み比べをして勝つ。報酬:エンチャントカード・戦王
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お酒、それは百薬の長だ。古来から伝わる趣向品というもののありがたさを私達は知る必要がある。
ただし私は未成熟な身であり、嗜むには不適切だ。そこでドワーフという素晴らしい民が開発したホワカンドリンク。
私はこれを飲むことで、お酒に対する理解を深めたい。
「バトルキング、飲み比べ勝負しましょう」
「ガッハッハッ! いいだろう! おめぇが勝ったら好きなもんくれてやる!」
「私が負けたら戦ってあげますよ」
こうして飲み比べ勝負が始まった。ホワカンドリンク、お味はというとこれがまた。
体が熱くなってきて頭がぼーっとしてくる! きつくない! きつくない!
「かぁーーーっ! 何杯でも持ってこいやぁーーーーー!」
「こいつ、やるじゃねえか!」
熱い熱い熱いホワカン熱い! 喉越し一番!
このバトルキングとかいうおじさん、負けじと飲んでやがる!
この私から報酬を遠ざけようとするなんて!
「マ、マテリ! おめぇ、さすがに飲みすぎだ! アルコールが入ってねぇっていっても、意識が飛ぶぞ!」
「そうだ! ミッションといえばパーティプレイ! ミリータちゃんも飲めぇーーー!」
「何するだんぐふぅっ!?」
「フィムちゃんも飲ん……あれ?」
フィムちゃんが顔を赤くして抱き着いてきてる! 重い! よく見たらすでにビンが何本も転がっていた!
「師匠ォ、ボクゥ……師匠のことがぁ」
「フィムさん?」
「んふぅ……しゅきですぅ……」
「フィムさん?」
何もなかったことにして飲め飲め飲め! 流し込め! ほら、ミリータちゃんもすっかり赤い!
「マテリィ、おらぁ、おめぇの保護者じゃねぇんだぁ」
「ミリータさん?」
「おめぇってやつはぁ。料理の手伝いすらしねぇわ味見係とかほざいてさぼるわ、片付けもしねぇわ、脱ぎっぱなしだわ。風呂上りは床びしょびしょだわ、揚げ物に勝手にレモン汁かけるわ、鍋やっても食ってばっかで何もいれねぇわ、フィムちゃんがおめぇの皿にばっかり肉のせるわ、寝相悪くておめぇのかかとギロチンくらうわ、朝はあと五分を繰り返すこと一時間だわ」
「ミリータさん?」
何もなかったことにしてバトルキングはそろそろグデグデになってる! 飲めぇーーーーー!
「うぃ、もう、のめ、ねぇ……ぐがー、すぴー」
「あぁ!? 寝たら勝負つかないじゃん! おきろぉーーーー! 飲まんと報酬ァーーーー!」
「マテリ! やめるんだ!」
ドワーフ達が私を押さえ込もうとしてくる! バトルキングを起こさないといけなのに!
ミッションクリアでてねぁんだわぁ! ミッションを邪魔する奴ぁ!
「ふぁいあぼぉーーーーーあぁぁーーーーーー!」
「ぎゃああぁーーーーーー!」
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ミッション達成! エンチャントカード・戦王を手に入れた!
効果:相手のレベルが自分より高い場合、ダメージが上がる。
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「酒に飲まれて火に飲まれろぁーーーーーーー!」
勝った! 勝者はただ一人! 私だ! もうここに立っている人は一人もいない!
全員! 寝てる! ミッションクリアァァーーーーー!