乱反射の理想郷
静かに澄んだ沢の流れる渓谷の底に大きな大きな水晶の柱がいびつに削れて立っていた。大きなその水晶は山と谷の隙間から差し込む光をその身に受けて隠微な光を影の上にチラチラと形を変えながらも落としていた。野生の動物もその光には触れることも無く、ともなれば水晶に近づくことも無かった。
水晶の中には縦長に伸びる都市が映し出されてはいたが、その中に納まるほどの大きさとは思えないほど壮大で、『映っているが中にはない』というまるでテレビのように見えていた。
静かに映る不思議な都市。そこに住民が映ることは無く、ただ穏やかな温かい光と幸せが水晶の反射光には含まれていた。