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冷泉さんと異世界

「ぷは~」

酒瓶を逆さにあおり、呑んだくれるタケルの元にルナが戻ってきた。

「お待たせ色々話してくれたよ」

「どんな話術を使ったらそんな風に喋らせることが出来るんだ?」

「喋らせるだとか話術だとか考えているうちはどうやっても人は離れていくだけよ、ただ親身になって話をするだけでいいんだから」

「苦手だなそういうの正面切ってぶん殴り合った方が手っ取り早い」

「ソレをしちゃいけない子もいる事考えてあげなよ」

「うんそうだな、それで何が分かった?」

「まずはあの子の能力、"世界と世界の境界に穴を開ける"能力から説明するわ

「簡単に頼む」

「分かった、今私達がいる世界とは違う別の世界があって、その世界と私達のいる世界の間に壁のような仕切りがあると思って、その壁に穴を開けて行き来できるようにするのがあの子の能力、そしてその別の世界に今かなしぃさんはいる」

「なるほど簡単だな、その壁にもう一度穴を開けてかなしぃを連れ戻してくれば良い訳だな?」

「そうだと良かったんだけど、そう簡単じゃないみたい」

否定が入る。

「聞いた話によるとね、境界の壁ってすごく複雑に絡まっているみたいで…」

「絡まっている?壁が?」

「つまり、毎回同じ世界に繋がる訳じゃないみたい…」

沈黙。

「あの子…その絡まりに対処が出来ないらしくて、劣等感に拍車がかかってくる」

「なるほど…それは確かに使えねぇ」

「本人の前では言わないであげて」

「分かってる」

「それで何処の世界にかなしぃさんがいるかも分からないから…ほぼ虱潰しに探すことになる…」

「…こりゃ…時間が掛かりそうだな…すぐにでも出発できるか?」

「頼めばやってくれると思うから準備しといて~」

「おっけぇ~」





「はぁはぁ…!一体何なの??!」

冷泉カナは息を切らし全力ダッシュしながら謎の何かから逃げていた。

到底生物とは思えない何かがいる。

振り返ればよく分からない肉塊のようなモノがのたうち回り鈍い音を立てながら私目掛けて突起した植物のようなモノを振り回していた。

「こわいこわいこわい…?!」

荒れ狂った動きで瓦礫にぶつかると喧しい音と共に破壊の波が広がる。

凄まじい怪力。

走り続けながら息が上がりひりつくのを感じていた。

---そろそろ体力がやばい…

普段から運動する習慣の無かったカナ。

このままではいずれ追いつかれ、一体どうなるのか分からない。

唯一自分にある利、才弄という名の銃について考えていた。

正確には弾丸に刻まれていた文字について考えていた。

"必殺"とおどろおどろしい文字で書かれた紫色の弾丸。

意図せず変わってしまった弾丸の文字。もしかせずとも能力だって変わっているだろう。

考えていたのはその効果だ。

---必殺とはなに?必ず殺すこと?意味わかんない!

苦しい。

息が続かない。

考えている暇すらなさそうだ。

迷いを捨てて銃を喉元に突き付ける。

---なるようにしか成らない!

バァン!

銃声と共にいつもの衝撃が頭部を襲う。

瞬間

宙に浮く体に電撃が走った。

心拍数が急激に落ち、揚がっていたはずの息が静寂に変わる。

---嘘、死んだ?必殺ってそういう…?

まさか死んではいない、だがそう錯覚する程昂ぶっていた興奮は醒めきっていた。

3m後方からこちらに向かっている。1m程の大きさ。段々近づいてきている。近場には瓦礫の山が並ぶだけ。

聞こえてくる音や見える景色が明確かつ鮮明になる。銃による衝撃で宙に浮いていた僅かな間で不思議なほど冷静に今の状況を把握していた。

1秒。

体が着地する。

今、自分に何が出来て、何をすべきか分かる。

渾身の踏み込みで向かった瓦礫の山に手を突っ込む。

予想していた通り鋭利で尖った長物があった。

振り回すにはちょうど良い長さと重さ。

どうして今、こんな物に気付いたのだろう。

そんな疑問は頭の端。

既に化物を視界の中央に置いていた。

その化物の中に何かを感じていた。

激しく振動を続ける何か。

なぜそんなものが感じ取れるか知らない。

ただ漠然とそこにある"命"を感じていて、そして

---あ、殺すんだ

漠然と"殺し"を意識していた。

0.5秒の躊躇。

---ごめんね

化物はそれだけの時間では何もできなかった。

思ったより簡単に凶器は化物の中に入っていった。手に伝わる感触は意外にもなんてことは無かった。

「-----っ!!」

化物は甲高い金切り声を上げて地面をのたうちまわった。

私のことなんかほっぽりだして、白い蒸気が噴き出す傷口を必死にうねらせた。

苦しそうに痛そうに

私はそれを見て、"可哀想だな"と思った。

「ごめんね」

自然と出た言葉。

悲鳴と思しき金切り声はだんだんと小さく途切れて

やがて途絶えた。

右手にある銃を懐に仕舞う、左手にある凶器には半透明な液体がこびりついていた。

それを見た瞬間。

それまでなんとも無かった心の奥に、心地の悪い感触が広がる。

10秒を過ぎたようだ。能力の恩恵を失った。

「あ…」

冷たくて、気色悪くて、凍えそうな感覚に包まれる。

「…ぅあ…」

---今、私は…確かに殺した

生き物を殺した。

別に初めてだった訳ではない。

今まで見かけた虫をひねり潰したことがある。一度や二度ではない。

ただ大きさや姿形が違うだけで何も変わらないはずだ。

同じ命のはずだ。

同じ

全然違う。

違うんだ。

虫を殺すなんてモノとは訳が違う。

大きいんだ。

姿形が違うんだ。

見ただけでも分かるだろう。

そう、何故なんとも思えなかったのだろうか。

鋭利な刃をあの生き物に突き刺した時。

あの生き物はあんなにも

生きていたのに

「…あ…」

私が終わらせた。

心が凍る。

後悔の苦みが口の中に広がる。

悔いを思わずにはいられない。

他に道は無かったのだろうか?

何故、私はあんなにも何も感じていなかったのだろう。

まるでなにも見えていなかった。憎くも無かった。ただ仕方なく。殺した。

なんて無神経なんだ。私はただの一人の無神経な人間だ。

私は悪人だ。

自分よがりな言い訳をしている。

本当に仕方なかったのだろうか?

仕方なくとも、あの生物の苦痛を和らげることは出来なかったのだろうか。

もっと、気遣えることは出来なかったのだろうか?

あの生き物が苦しみもがいている時、私は怠惰にも何もしなかった。

あの生き物が苦しむ様子が脳裏に焼き付いている。今もだ。

なんて奴なんだ。

自分のことだ。

私は酷い奴だ。


ゴゴゴゴ…


地鳴りのような音が聞こえた。

音の先には体中から蒸気を挙げる生物が見えた。

先ほど私が終わらせたはずの生物が蠢いていた。

蠢いて再生していた。

「生き…返ってる…?」

そして完全に再生した。

あの生物が再び生物とは思えない奇声を発した。

すぐに私目掛けて襲い掛かってくる。

荒れ狂い何かを振り回して、また私に襲い掛かってきた。

反射的に動く。

---そっか…私…

才弄の銃口を自身のこめかみに当てていた。

---自分勝手なんだ…

バァン!

自身への嫌悪は侵食する能力によって薄まり消えていった。



異世界への穴を開けた時、唐突にタケルが呟いた。

「はい、よーいスタート(棒)」

最速で異世界を駆け抜けるRTAはぁじまぁるよぉ。

「世界を隔てる壁の穴を抜けたと同時にタイマースタート、タイマー計測区間はかなしぃを見つけるまでです。すぐにダッシュ、連れの二人は脚が遅く文句を言いますが放置してさっさと行きます」

亜音速で走り抜ける。

「この世界での移動は一貫してこの√2走法を採用します、同一時間で走行距離が1.414倍になります」

1.14514倍?

「視界の端にケモ耳女の子を襲っている複数人の男共が見えます、ここはファンタジー世界のようです。救出イベント兼仲間フラグだと思われますがここではタイムロスにしかならないのでスルーします」

困っている人を一切の躊躇もなく見捨てる勇者の屑。

「しばらく走っているとファンタジーにありがちな西洋風の街が見えてきます、ここで情報収集をします。物事を訪ねる時は丁寧かつ礼儀正しく、武器を突き付けるとなお一層効果ありかと。あらゆる情報を吐かせましょう、これでフラグは成立します」

勇者はどの時代でも蛮族だからね、しょうがないね。

「この世界で一番大きい組織力は王都にあるようです、さっそく向かいます、イクゾーでっでっででででっ…カーン…ででででっ」

カーンが入っている+1919

「王都に着きました、王に謁見します、最初は意味分からん魔王を倒せだとか宣っていますが、QTEを全て成功させて王を守る全ての兵士を戦闘不能状態にすると会話内容が変わります、なんかごちゃごちゃ言ってますがつまり、人間側に付くか魔物側に付くかみたいな問答です、応える必要はありません、かなしぃを探すことを命じて行きます」

どっちか応えるパターンも見てみたいゾ

「魔王がいるらしいので会いに行きましょう、半人半魔の仲間がいると魔物から詳しい情報を聞き出せるらしいです、序盤で見掛けた子を助けていればスムーズにイベントが進んだのでしょうけど、いないので自力で探します」

まぁ誤差だよ誤差!

「魔物を尾行して魔王城に着きました、さっそく侵入して魔王に謁見します、守衛の魔物をにはしばらく寝てもらいましょう、そして王都と同じように…」

言 語 が 通 じ ま せ ん。

「は?」

魔王は深い悲しみに暮れています。仲間を殺されたと思っているようです。

「そうか、この世界では人と魔物は使う言語が違うようです、通訳として仲間が必須だったららしいです、でもご安心ください、今から最速で初めの地に戻ってケモ耳を拉致ってこの後全部ノーミスならお釣りが来ます、RTAにリカバリーは付き物ってそれいち」

魔王が襲い掛かってきた!(戦闘BGM)

「ヌゥン!ヘッ!ヘッ!

ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛

ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!

ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!

フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!

フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!(大迫真)!」

再走しろ。

「こんなんじゃRTAになんないよ~しかし今、RTA走者として成すべきことは再走ではなく、いち早く戦闘を終わらせること、リカバリーのリカバリーをするってこれもうわかんねぇな」

タケルの攻撃。魔王に54針縫う損傷を与えた。

「硬てぇ!魔王は物理攻撃にかなり耐性があります、これはかなり長丁場になりそうですね」

はい、再送。

「ここからはひたすら魔王を殴り続けるだけのつまらない展開になってしまうので…みなさまのためにぃ~こんな動画をご用意しました~」

ほのぼの神社。

「ずぞぞぞぞっ…ぷはー、今日もいい天気♪おやぁ?、あら霊夢、またサボり?休憩中よ、きっと今日は休憩の日なんだよ、じゃぁ明日は?神社閉店の日!くぉっら!キャッ(大外刈り)はぁ…あんたたち本当に仲良いわね」

もどして。

「っとそうこう言っている間に魔王が倒れました、意外と早く堕ちたなぁ、まま、ええわ、ではさっさと初めの地へ戻ってあのケモ耳を…」

魔王は真の力を解放した!魔王は第2形態へと進化した!

「は?ふざけんな!(声だけ迫真)あ"ぁ"ぁ"も"ぉ"や"ぁ"だ"ぁ"」

魔王に第2形態があるのは当たり前だよなぁ?!

「もう許さねぇからな?お前を芸術sん・・・てあげんだよ!お前を芸術s、品にしたんだよ!お前を芸術品にしてやんよ(妥協)」

ひたすら魔王を殴り続ける描写。

「あ、そうそう今日は霊夢の為にお土産を持ってきたのよ、あら、じゃぁお茶を用意するわね、霊夢ぅ特級茶葉で頼む!はいはい9番茶でいいわね」

 

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