冷泉さんの能力入門
少女は悪の側の人間になる道を選んだ。
悪魔と人間の違い
「ある者が復讐を誓ったとする。
理由はどうだっていい
肉親を殺されただとか、酷い目に合わされたとか、肩がぶつかっただとか、気に入らなかっただとかな
復讐を抱いたその瞬間からの人生。
仮に文句なく薔薇色。
申し分ない幸福と至高に包まれていたとしよう。
その人生を経て復讐のチャンス到来だ。
目の前には憎き仇、完全に無力化され、生殺与奪は自分にある。
活かすも殺すも痛ぶるも自由だ。
そこで僅かでも躊躇が入るのが人間だ。
悪魔は何の躊躇いもなく引き金を引く。そして何食わぬ顔で元の幸せな毎日に戻るだろう。それが悪魔だ。
それは逆も然りだ。
凄まじい苦痛と不幸に見舞われ、何もかもを失い、自分が無みたいなもんになっちまって、その復讐の後には何も残らない。
いや、それどころか今まで以上の痛みと報復が待ち構えているとしても、引き金を引く指に躊躇が全く無い。それが悪魔だ。
覚えておけ。
冷泉家にはそんな悪魔がゴロゴロいやがる。
仕事が続けられないと判断したらすぐに自分を始末しろ。その方が一番楽だぞ」
初めて任された汚れ仕事の前。
少女は自身に放たれた言葉を思い出していた。
だから
「…な…に…?」
少女は目の前の状況を飲み込めずにいた。
目の前の机から零れ落ちんばかりの料理がてんこ盛りに盛られていた。
茶店特有の華やかさに溢れていた料理。
"美味しそう"というより"高そう"と言いたげな表情が何より少女の日常を物語っていた。
「奢るから食べて?」
蒼髪の少女が優し気に促す。
「…」
少女は動けなかった。予想していた…覚悟していたどれでもない状況に思考すら働いていなかった。
「…」
一番恐ろしく見えたタケルという少年は荒れ狂う訳でも怒鳴り散らす訳でもなく、ただ不機嫌そうに虚空を睨みつけているだけだ。
「タケル君のことは気にしないでいいよ、ちょっと虫の居所が悪いだけなの、お腹空いてるでしょ?食べて食べて~」
蒼髪の少女ルナが優しい言葉を掛けてくれる。
少女は初めて受ける優しい扱いようにに少し目元が潤みかけた。
「きっと、何か必要があってやってるんだろうね~まだ小さいのに」
目の前の料理にありつけない少女に優し気に語り掛ける。
「タケル君を目の前に逃げも隠れもしないのは本当にスゴイと思うよ!尊敬する!」
「でもなんていうか決意の表れというより…諦めの境地にも見えたんだよね」
「あなた、このまま放っておいたらそのうち壊れてしまいそうな気がしたの」
「そうなるくらいなら、やめちゃえばいいのに」
「それは…できない…」
「どうして?」
「…」
間の長い沈黙。ルナは答えを待っていた。
「…」
しかし、結局応えることは無かった。
沈黙に耐えかねたルナが
「あなたの能力について聞きたいんだけど…」
その言葉に少女が身構える。
"これが聞きたかった為にこの態度なのだ"と理解する。その問いに応えたら最後、自分はどうなるか知れたものではない。
「…」
「あなたの能力…周りの人からなんて言われた?」
「え…?」
少し予想から外れた。
「能力が発現したとき…その全貌が知られた時、あなたの周囲の反応…きっと良くなかったんじゃないかな?」
気を遣い伺う。
少女は図星。言葉に詰まる。
「思うんだよね、こういう筋者の道を選択肢に入れられてそれを選んで生きるってどういう能力に目覚めた人なんだろうって…」
「分からない、恵まれた能力を持つ人はそんな道を選びたがらないと思うの」
「この選択肢ってなんていうか…全てがどうでもよくなったような…自棄になったような…他を見出せなかった人が選ぶ道だと思うの」
「たぶん、あなたの能力…」
「…使えない…」
少女が口を開いた。
「…役に…立たない…って」
「うん」
「…ハズレ能力…って…」
「うん」
「…私…ぃ…いらない子…だっで…」
「うん」
「…言われた…」
「うんうん」
「言われたぁ…!」
「うんうん、辛かったね」
ルナが少女の手を握る。抑えていた感情の堰が決壊し
「うわ…っぶ!」
タケルが今にも泣きそうな少女の口の中に料理をぶち込んだ。
「さっさと喰え、冷めるだろうが」
その表情は鋭くなる一方だ。苛立ちを吐き出すように続ける。
「典型的、少年兵と一緒だ、使い捨ての鉄砲玉、恐怖せず、逃出さず、仕事をやらせる為に自分は価値が低いモノだと思い込ませて、自暴自棄にさせて…とにかく"こういう教育"をやるんだ」
「…ホントにこんな子を…」
「逃げ方…身の隠し方…能力の正しい使い方…命の尊さ…本当に重要なことは教えないんだ…ふざけてるだろ」
「……」
「こういう奴が昔何人も俺のトコに来たよ、なまじ能力なんてモンがあるからこういうことになる」
ルナの眼がギラリと鋭くなる。
そしてタケルに耳打ちする。
「かなしぃさん、大丈夫かな?」
「なに…ここ…」
冷泉カナは呆然とするしか無かった。
やけに薄暗い光が照らす周囲は何もかもが荒れ果て、何かよく分からない瓦礫の山が視界を遮っている。
空を見上げれば太陽…なんてモノではなく。灰色の深淵が妖しく光りこの世界を照らしていた。
焼かれ焦げたような地面は時折生きているかのように蠢いて靴裏を舐める。
目を凝らし遠くを見れば、自分が今いる世界は球体を形作っていてその内側にあるものだと理解できる。球体の外側には何があるのか、出るとどうなるのか、そんな好奇心を抱くことすら憚られる恐ろしさがあった。
もう理解するしかない。
ここは自分がいた世界にあった物など一つとして無い、正真正銘の異世界だ。
ゴゴゴ……
背後で地鳴りのようなものが聞こえた。
咄嗟に振り向くと
それは生物なのか?
疑問が浮かんでくるような植物のような肉の塊のようなナニカが蠢いていた。
「gyagigiigagyagym!!」
ルナ・ゼライト・ポーカー
ポーカー一族の令嬢。10歳。青髪セミロング。
魔法を操る能力を持つ。能力が発現したのは5つの頃。魔法を扱うことに関しては正真正銘の天才。