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冷泉さんと先代


「おじさんこれ貰うよ!」

「あ?」

酒樽を肩に抱えて玄関に立ったおじさんとすれ違いざまにチラリと銃を見せて走り抜けるカナ。

「おー、それにしたかぁ」

おじさんは思い出したようにひとこと、そして扉を出ていくカナを見失う直前

「何処に行くんだー?」

「試してみたいのー!」

打って変わって元気な声音におじさんは何処か満足げだ。

「いってらっしゃい」

聞こえていないだろう声を送り

酒樽を抱えたまま扉を閉め、トントンとノックをする。

瞬間扉の窓を照らしていた光が消え、薄暗くなった。

扉を開けると先程までそこにあった冷泉家の玄関口は跡形もなく消え、代わりに木漏れ日が差し込む森の情景が映し出されていた。

人気のない森の開けた場所。僅かな風が枝葉を梳る。

その中心には古びれた石。

墓石のような物があった。

名は刻んではいないが、生前その者が好んでいたのだろう酒饅頭と玉露が添えられていた。

その墓石の前で酒樽を下ろし、柄杓で蓋を割り放り投げる。

今にも溢れそうな酒が波打っていた。

どかっ

とあぐらをかいて墓石の目前。

酒を柄杓で掬って墓石に垂らす、そして同じ分口に含む。

「ぷはぁ〜…」

心地よさげに息を吐いて。

うつむきながらつらつらと言葉を連ねる。

「先代…カナがなぁ…紫苑の曾孫のカナがなぁ…ハタチを迎えたんだぜ…」


「時間ってのは本当に一瞬だな…」


「そのクセに思い返せば色んなことがあった…本当に色々あった…」


「おかげで俺ァ今も生きてやがる…そっちに行くのはまだ先になりそうだ」


「………」


一人ごちる妖怪

墓石は何も語らぬ。


「…カナはまさにアンタの生き写しだよ…年喰うたびに似てきやがる…性格は呑気屋さんで全然似ないんだがね」


弱々しく笑う。


「…でも…お前がもし"普通"の女の子で"普通"に生きてたら…カナみたいな子になってたのかな…?」


「最近そんなことばかり思ってるんだ」


「"普通"に生きてたら、お前も当たり前に学校に行ったりしてさ、友達なんか作ってさ、必要もないことに頭悩ませたりしてさ…」


「…良いよなァ"普通"…お前もそう思わねぇか?」


「…なんで俺達ァ…普通に出来なかったんだろうな?」


涙が一滴。


「…普通にしようとしなかったからかな…?しようと思えば出来たのかな…?」


「…普通にしとけば…お前…17で逝くことなんて…!」

『コラ』


背後から声を投げかけられる。

嘯が怪訝な顔で現れた。

『一人で勝手におっ始めるんじゃない』

シグサの持つ柄杓を取り上げた。反射的に喰ってかかる。

「別に良いだろ、俺ァ先代と飲みたいんだッ」

「料理が来てからでも良いじゃない」

すぐ後に続く声。冷泉紫苑が現れた。義手と義足に加えて老齢、なのにそれを感じさせない飄々とした所作で墓石に歩み寄る。しゃがみこんで

「お姉ちゃん、今年も平和だったよ、ヤンチャしてる子もいるけど家族みんな怪我もせず生きてる、大丈夫だよ」

しばらく黙り込んで思い出すように

「いや…ギックリ腰が一人いたかな…?」

軽く笑って立ち上がり。シグサに

「カエルのおじさんは少し遅れるって」

「そっかそっか」

『おいシグサ、鬼どもと連絡がつかない、奴らはケータイを携帯しないのか?』

「どっかで喧嘩でもしてんだろ、多分持ってくるぞ、猪か熊、捌きも出来ねぇクセに誇らしげにな」

『突然持ってこられても困るから連絡したいんだよ、誰か繋がるやつ知らないか?』

「…あー…確かあの詩人がよくつるんでたな」

『詩人?誰だ?』

「あ、都さんとこのお坊ちゃん?"おじさん"連絡先知ってるでしょ」

先程までの空気が一変して慌ただしい雰囲気に包まれる。悲しんでいる暇はなさそうだ。

「別に連絡なんてしなくたっていいだろう、みんな勝手に来て呑んで食っては勝手に帰るだけなんだから」

「そういう訳にもいかないでしょ?皆さんには良くしてもらってるんだから」

「そうなのか?」

「そうだよ、"おじさん"が知らないだけで!」

シグサは紫苑にとっても"おじさん"だった。

「分かった分かった、連絡取ってみるよ」

面倒くさそうにケータイを取り出す。

冷泉家と妖怪。

これから人妖乱れる宴会が始まろうとしていた。

その繋がりの"切っ掛け"になった今は亡き人間を中心に

「騒がしくてスマンな先代、また後でな」

古びれた墓石にそう言伝え、連絡業務に従事するもう一人の"切っ掛け"。

「料理が出来ました~って、まだなんの準備もしてないじゃないですか!お客様を地べたに座らせる気ですか?!」

「ちわ~、思ったとおり準備してなかったね、早めに来ておいて良かった」

「あら~お世話になりますぅ~いつもいつもすみませんねぇほんと」

「紫苑さん相変わらず達者なようで………また若返りました?」

「まっお上手ですこと!寄る年並ですよぉ、御宅は調子どうですか?」

一人二人と集まり始める人妖に冷泉紫苑が応対する。

気が付くと初めにこそあった寂しげな雰囲気も次第に大きく肥大する喧騒に呑み込まれていく。

「喧しくなってきたなぁ…年々騒がしくなってる気がするぞ…」

怪訝な顔でボヤく。また一人、二人増えた。

『良いんじゃないか?私は嬉しい』

「何が?」

『分からないか?』

永い年月が過ぎて、ずっと昔から一緒だった三人は未だ変わらず一緒にいる。四人になり五人になり。

そして今

人妖乱れる宴の場。

「分からないね」

墓石も気持ち明るく見えるような。

「…ん?…」

気のせいかもしれない。




冷泉紫苑

冷泉家の始祖。

冷泉カナにとって曾祖母。

御年80にはとても見えない麗人。人間から仙人に成りかけ、年々若返っている。

触れた物を分解させる能力を持つ。

左脚以外が無い三欠。それぞれの義手義足には膨大な量の武具が仕込まれているが、体術を使うことが多い技術派。蹴り技がカッコいい。

稀代の博徒。天性の博才。凄まじい強運の持ち主。いざという時は身内も騙す大嘘吐き。

今まで賭けてきた命は数知れない、死を目の前に出来ないと熱くなれない程に脳が焼けたギャンブルジャンキー。

夢は「世界平和」と「世界征服」。欲しいモノは「刺激に満ちた毎日」と「ゆったりとした日々」。

言うこと全て冗談なのか本気なのかそう思わせたいだけなのか、そういう意味でとことん分からない人。




先代

???

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