9:ランクテスト
「うりゃ!声が出てねぇぞ!!そこっ!ヘバってねぇで、しっかりガードしろ!」
「「「はいっ!!」」」
ギルドの裏手にある訓練施設。
体育館2個分くらいの広さで、いまもギルド職員である戦闘教官が、新人達の訓練をしている。
オレはその迫力に圧倒されて、その様子をアホの子のようにボケーと眺めている。
みんな強そうだ・・・
するとルイーダさん(受付のお姉さんの名前)に声を掛けられた教官が、面倒くさそうにこちらへとやって来た。
「おいっ、坊主。確かにランクテストは、本人の希望クラスで行うもんだが、ふっかけ過ぎだ。なめてんのか?」
強面マッチョの、ザ・教官って感じの人だ。
「いえ、スミマセン。なめているつもりはありません。Bランクでお願いします」
真っ直ぐに教官の目を見て答える。
「ちっ、分かったよ。ちっとは痛い目みた方が今後の為ってもんだな・・・おいっ!ガント!!ちょっとこっち来いっ」
教官に呼ばれてやって来たのは、線は細いが鍛えられた肉体のヤンキーふうな若者だった。
「こいつは来週Dランクの昇格テストを受けるガントだ。おいっ、ガント。今からそこの坊主と模擬戦だ」
「えぇ、そりゃないっすよ教官。オレ弟いるんすよぉ~。こんなガキに剣なんて向けられないっすよ~」
「ガタガタ言ってねぇで、さっさと始めろ!それともオレがボコボコにしてやろうか?」
「そりゃかんべんっス!・・・しゃあねぇ~。少年、悪く思うなよ」
そう言って、いやいや木刀を構えるガント。
オレもいきなりB級と戦うより、対人戦の感じを掴みたかったので丁度良かった。
渡された木刀を手に、ガントへと向かい合う。
「取り敢えず事情は知らないが、先手は譲るぜ少年。かかって来いや」
「・・・宜しくお願いします」
挨拶をしてすぐに、お言葉に甘えて一気に間合いを詰める。
いきなり[アーツ]は使わずに、まずは自分の力だけで打ち込んでみる。
「おっ?少年。ガキにしてはまぁまぁじゃねぇーか。けど、それが本気か?まぁ良いとこE級ってとこかな。そうっすよね?教官」
軽くオレの攻撃をいなしながら、余裕で教官に話しかけるガント。
「・・・ほら、ジャレてねぇでお前も攻撃しろ!バカ」
「へ~い。んじゃ、こっちからも行くぜ、少年」
言い終わると同時に、振り抜いたオレの剣を最小限でかわし、カウンター気味の攻撃をオレの肩へと突き入れる。
「ぐはっ!」
油断はしていなかったが、一瞬なにをされたのか分からなかった。
2~3mほど吹き飛ばされ、情け無く倒れ込む。
「おい、坊主。テメーがどれだけのぼせ上がってんのか、これで分かったろ?まぁこのバカのいうように精々E級ってとこだな」
教官がため息をはきながら、これで終了とばかりに声を掛ける。
「・・・いえ、まだまだこれからです。ここからが本番です」
フラフラと立ち上がりながら、教官を睨みつける。
「ちっ!バカが・・・ガント!見ての通りだ。徹底的にボコボコしろっ!」
「はぁ~あんま気が乗らないんすけどね~。けど、確かに痛い目に合わせないと、こいつは死に急ぐタイプだな・・・おいっ、ちったぁ覚悟しろよ少年」
ガントの顔付きが変わる。
優しさゆえに本気で打ち倒す気になったようだ。
剣を振りかぶり、間合いを詰めてくる。
予想はしていたが、結構ショックなものだった。
あれだけ魔物を倒して、戦闘に自信が持てたのに、[力]に頼らなければ無能な自分の実力なんて精々こんなものなんだな・・・。
ぁあ、
よく分かったさ。
オレがこれからどう戦えばいいのか。
もう、未練は捨てた。
手にした[力]を存分に発揮してやる!
迫り来るガントに向かって、こちらも踏み込む。
先に振り下ろし始めたガントの剣に向かって、踏み込みながらの袈裟斬りで応戦する。
===ガキンッ!!===
「「なにっ!」」
ガントと教官の声がカブる。
ガントが振り下ろした剣の軌道を、圧倒的な振り抜きで強引にそらす。
そして、不自然なほどの動きで、振り下ろした剣をすぐに斬り上げて、ガントの腕ごと打ち上げる。
「なっ!」
驚き、されるがままのガントの目の前で、その勢いのままに高速で回転し、ガラ空きのガントの腹へと振り払いで一閃する。
「ぐふぅ」
そこで目が合った。
苦悶と驚愕の顔で、こちらを見ている。
しかしすでにオレは、腰を落とした牙突の構えで、次の攻撃の準備を終えていた。
伸びるように突き出した木剣を、ガントの中心へと打ち込み、その勢いのまま数m吹き飛ばす。
===通常攻撃4コンボ===
・袈裟斬り
・斬り上げ
・回転振り払い *範囲効果 小
・突き
==============
これが、アクトアシストの発動した通常攻撃の動きだ。
この二ヶ月の修行の中で、アーツ以外にも基本技は習得していた。
場内はいつの間にか静まっていた。
全員練習の手を止めて、こちらに注目している。
「はぁ、はぁ・・・」
興奮で息切れしながらも、振り向くように教官を見る。
「くっ、分かったよ・・・。ロディ、バーツ、クリフ!こっち来て、こいつの相手をしろ。Dランク三人だ。いけるか?」
「はいっ、いけます!」
向かって来る三人へと向き直る。
やる気のオレに、彼らも初めからトップギアで襲い掛かる様子だ。
「悪く思うなよ」
「いけぇ!」
「ざまぁだ」
正面扇形に広がり、三方向からの波状攻撃。
「・・・・・」
オレは木剣を斜めに傾け、腰を少し落として[ガード]する。
===ガスッ、ガスッ、ガスッ===
体重差により、攻撃を受ける度に、オレの体は少し後方へとズレる。
しかし、それだけだ。
オレは剣を動かさず、踏ん張っているだけなのに、体のギリギリで攻撃は遮られダメージはオレに通らない。
「「「なにっ!?」」」
===ガード===
・相手の通常攻撃を遮断。
・スキル攻撃などはダメージ軽減。
・ガードブレイク、属性攻撃は防げない。
=========
「お、おいっ!?どうなってやがるんだ、攻撃が利かな、グハッ!」
動揺しながら攻撃を続ける三人の隙をついて、中央の男へと通常攻撃を仕掛ける。
3コンボ。
回転振り払いで、前面の三人にダメージを与え、体勢を崩したことろに、
「ミラージュ・ストライクッ!」
高速のサイドステップで、彼等の側面へと跳ぶ。
そして、その隙だらけの端の男の脇腹へと、押し込むような跳び蹴りを叩き込む。
===ドスドスドス===
吹き飛ぶ勢いは、後ろの二人をも巻き込み、三人がもつれ合うようにして壁へと衝突した。
「はぁ、はぁ、ふぅ・・・」
呼吸を整え、見上げるように状態を起こす。
(いける!・・・オレも戦える!!)
手にした力を実感し、再度教官へと向き直ろうとした隙を相手につかれた。
「くそっ、ファイヤーボールっ!」
壁に衝突した三人のうちの一人が、倒れた状態のままで、初級攻撃魔法をこちらへと放ってきた。
(ち、このタイミングではかわせない!ならっ!!)
アクトアシストが作動し、一瞬でガードの体勢へと構えをとる。
さらに緑色の球体がオレを包み、着弾するファイヤーボールを無効化する。
====EXガード====
・全ての攻撃を無効化する。
・持続中はMPを消費する。
=============
構えを解くと共に、光の球体は消える。
攻撃をした男はその様子を見て驚愕し、戦意を喪失した様子だ。
「ふぅー・・・」
今度こそ決着がついたので、改めて教官へと向き直る。
「き、貴様いったい何者だ・・・いや、そんなことはどうでもいいな。資格は充分だ。オレがカイナーン支部教官長、Bランクのヴァルドだ。久しぶりに燃えてきたぜ、ヨロシクな、小僧」
肉食獣のような笑みを浮かべるヴァルド。
「そういえば名乗っていませんでしたね。アメジです。ヨロシクお願いします」