8:ニャンニャンタウン
「・・・ここは、パラダイスか」
辺境伯爵が治める[カイナーン]の街に到着するのに、2ヶ月が経っていた。
到着が遅くなった訳は、単純に新たなアーツ習得の練習と戦闘訓練に没頭するのが、思いのほか楽しかったからだ。
「おっと少年、大丈夫かニャ?しっかり前見て歩かないと危ないニャ♪」
「はい・・・スミマセン、お姉さま」ポッ
ここ[カイナーン]の街は、海に面しているので漁業が盛んだ。
そして、魚が多いということは自然と猫族が集まり、別名[ニャンニャンタウン]とも呼ばれるようにもなったほどだ。
いま目の前に広がる光景は、ネコカフェよろしく、ネコをモチーフにした曲線と、パステルカラーで統一されたニャンコな街並み。
そこにニャ~ニャ~としゃべるネコ娘達が沢山いれば、これはもうパラダイスと呼ぶ他ないだろう。
(くっ、まだ見ぬ辺境伯爵様!なんと素晴らしぃランドスケープ!最上級の敬意をアナタにっ!!)
キョロキョロと同人イベント会場を歩くように、挙動不審で街を進む。
15歳という姿で許されてはいるが、もし実年齢の姿なら確実に職務質問の対象となっていたことだろう。
ほどなく、目的の冒険者ギルドへと到着する。
いまオレの背中には、パンパンに荷物の詰まったリュックと、同じくパンパンに張った簡易袋を両手にぶら下げている。
これはもちろん、この2ヶ月で狩り倒した魔物の戦利品。
まずは登録と売却をして、今後の方針を固める予定だ。
「・・・失礼~しま~す」
小心者のオレは、入り口の扉を小声で声を掛けながら開いて中の様子を見る。
そこは決して広くはないが、イメージ通りの冒険者ギルドであった。
一瞬、視線が集まってドキッとしたが、オレくらいのガキが来るのは珍しく無いようで、すぐに気にした様子もなくなって安堵する。
そそくさと受付へと進むと、優しく声を掛けられた。
「こんにちは。キミはえっと、お使いかな?」
飛び抜けて美人ではないが、優しそうなお姉さんだ。
ありである・・・
「こんにちはです。いえ、買い取りのお願いとギルドへの登録に来ました。あのぅ、年齢制限とかありますか?」
「う~ん、特に指定は無いから大丈夫だけど、ホントにいいの?キミのような少年も確かに珍しくは無いけど、あまりお勧めは出来ないわよ」
「有り難うございます。いえ、大丈夫です。自己責任の世界ですから」
自信満々にお姉さんへと言い返す。
「そうね、私が野暮だったわ。ごめんなさい、しっかりしてるのね♪では、先に登録した方が買い取り率が上がるから、そっちから行いましょうか。じゃあ、あっちのテーブルで説明するね」
それから登録手順とギルドシステムの説明を受けた
ルールについては特に予想外の内容は無かった。
しかし、システムについては少し自分が知るものと違っていた。
ギルドへの貢献度を示す[カラープレート]。
[プラチナ]ギルドにとって超有り難い存在。広告塔。
[ゴールド]かなりの上級者。後輩も育ててくれ。
[シルバー]一人前。殆どの人がこれ。
[ブロンズ]新人。まぁ頑張れや。
これは依頼の達成率や信頼・貢献度により変動する。
ようは、依頼をいっぱいこなしていけば上がるというものだ。
ブロンズは基本信用が薄いので、報酬の一部をピンハネされる。
上がれば上がるほど、名声や特典などが得られるということだ。
そして個人の戦闘力を示す[ランク]が存在する。
*支援・技術などを含む。
F級:ほぼ一般人。
E級:腕っぷしには自信があるぜ、みたいな基本素人。
D級:訓練した兵士の平均クラス。殆どの人がこれ。
C級:けっこう強いよ。小隊長クラス。
B級:熟練者。これでもかなりの稀少レベル。ギルド支部に数名とか。
A級:騎士団長レベル。国のトップクラスの戦闘員。あんまいない。
S級:もう、英雄?つか、測定不能ランク。
初回以外では手数料を払えば、いつでも[ランク]審査を受けることが出来るので、自分のタイミングで昇級を目指すことも可能だ。
そして、強さのランクが適していれば、高額の危険依頼を新人のブロンズでも受けることが出来るのだ。
ただし人数制限のカブりや、複数パーティーにおける問題では、全てにおいて[ランク]よりも[カラープレート]の格上が優先される。
そりゃ信用だよね。
まぁ、そうだとしても、オレがよく知るチマチマから始める必要は無いので、これは嬉しい誤算といえた。
「では、決まりですのでステータスの複写を行います。ゴメンね、見せてくれるかな」
「・・・分かりました」
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アメジ 15歳
LV:14
称号:[農耕の革命児]
適性: 農耕技術
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[アーツ]項目は、直接的な評価には繋がらないし、説明が困難だ。
そしてなにより、自身の弱点とも成りうるので、人には見せる気はない。
受付のお姉さんは、提示したステータスを鏡のような物に写し取る。
これでギルドの名簿に登録されるのだそうだ。
「へぇ15歳でレベル14か。頑張ったのね・・・適性が無いのは残念だけど、その頑張りがあれば、Dランクでもゴールドプレートは目指せるわよ。だから落ち込まないでね」
お姉さんに悪気が無いの分かっている。
無能がいくら頑張ってもDランク止まりだ。
そしてギルドには、日雇いの人材派遣のような、便利屋依頼も多く存在する。
オレみたいに戦闘適性の無い人間は、そういった街の仕事目当てと思われて当然なのだ。
「大丈夫ですよ、落ち込んだりはしていません。ですが、ランクテストは、ここの近接最高基準でお願いします」
「えっ!?ちょ、ちょっとそれは、、、テストといっても実戦よ。うちだとBランクが最高基準だけど、キミではケガじゃ済まないかもしれない。無謀よ!許可なんて出来ないわ」
正直、ウダウダ実力を隠す気は無い。
なにより自分が、対人戦でどれだけやれるのかを試してみたい。
「お姉さん。この買い取ってもらいたい荷物の中身は分かってる?」
「?、薬草とか鉱石でしょ」
「違うよ、魔石です」
そう言ってパンパンに張った袋の中身をテーブルへとばらまける。
「っ!?・・・そ、そんな?この大きさだとD級レベルの魔石もあるじゃない!」
魔物には必ず体内に魔石が存在する。
その大きさや色の深さなどは、その魔物の強さに比例している。
そして魔物のD級とは、人間でいうD級達のパーティーを基準としているのだ。
つまり、ソロでD級の魔物を狩れるというのは、最低でもC級のハンターということになる。
「・・・分かったわ。けど、どうなっても知らないわよ」
「生意気言ってスミマセン。でも宜しくお願いします」