7:タタリ神様
「・・・やっぱ、怖ぇな」
オレはいま、高さ5mほどの崖の上へと立っている。
そのすぐ下には、瀕死状態の大きなカエルが横たわっている。
夜が明けて、すぐ隣町には向かわずに、近くの小川で新たなアーツ習得へと励んでいた。
狙うアーツは、
少し後方へと飛び上がり、上空3mほどより加速した飛び蹴りで強襲する技だ。
「こ、怖ぇ・・・メ、メテオ・ブラストッ!」
意を決して崖からジャンプし、飛び降りるようにアーツの動きを再現する。
(よ、よしっ!きた!!)
===ズドォォン!===
アクトアシストが発動して、突き刺さるようにカエルを地面ごと破壊する。
どうやら実験は成功のようだ。
アーツ習得のためには、体の動きの他にも、高さやエフェクトの再現が必要で間違いなさそうだ。
「メテオ・ブラスト! おほっ!?」
体が引っ張られて、上空3mほどにまで飛び上がる。
そして、ゲームと同じように、急加速した跳び蹴りが地面へと突き刺さる。
「面白れぇぇ」
この世界では適性持ちや種族によっては、これくらいの動きをする者はいるだろう。
けど、自分が飛び上がるのと見るのでは、テンションの上がり方は全然違う。
「足が痛くないのが良いね♪」
普通に考えれば、こんな衝撃で地面に激突すれば、骨折してもおかしくはないのだが、そこはゲーム仕様のようだ。
「これはいよいよ、属性アーツ習得の兆しも見えてきたぞ」
昨日の昼からなにも食べずに、夢中で練習と実験を行っていたので、ここらで一度休息をとることにした。
捌いたカエルの肉をたき火で焼いて、かぶりつく。
少し筋がキツいけど、味は鶏肉のようでなかなか旨い。
(そういえば、ステータスチェックしてなかったな)
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アメジ 15歳
LV: 8
称号:[農耕の革命児]
適性: 農耕技術
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△
(おやぁ?なんも変わってないじゃないか!?)
意外だった。
必ず、なにかしらの称号や適性が生まれていると思ったのに。
(んっ?なんじゃ、これ?)
よく見ると、ステータスの下に[△]が表示されている。
ネットでよくある[詳しく]の表示のようだ。
なんとなく、確信めいたものを感じながら、そこをタッチしてみる。
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アメジ 15歳
LV: 8
称号:[農耕の革命児]
適性: 農耕技術
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▽
[ミラージュ・ストライク]
素早いサイドステップからの、押し込むような飛び蹴り。
攻撃判定:3回
[リアクター・ソード]
高速で斬り下ろし・斬り上げを交互に5回行う連続技。
コンボするごとに範囲・威力増大
[メテオ・ブラスト]
上空へと飛び上がり、加速して突き刺さるように強襲する蹴り。
単攻撃:威力激増
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「・・・なるほど」
つまり、この世界の適性や称号には該当しないと。
[剣術]の適性すらついてないし・・・
「まぁ、いっか」
だからといってアーツが使えない訳ではない。
強いていうのなら、IDとしての提示の際になめられるくらいだ。
食事を終え、今後の予定を整理する。
現在、隣町まではあと数時間も歩けば着く位置にいる。
勇者リュカエルの言葉を信じるのなら、この辺は和歌山県の白浜?あたり、つまり関西の下の方だ。
そして、ウェルチがいる[アシノミヤ王都]は神戸にあたると教えてもらった。
つまり地図を真っ直ぐに上がって、兵庫県を目指すのが最短距離なのだろうが、確かにこの世界でも、そのルートは険しい山脈と強い魔物が生息するので避けたいところだ。
ゆえに海沿いを逆S字型に、白浜→和歌山市内→関西空港→大阪堺市→大阪市内→兵庫県尼崎→そして[王都アシノミヤ]のある神戸へと向かうルートになるだろう。
これまで田舎生活だったので、あまりこの世界の状況を知らないのだが、日本の地理と大きな主要都市の名称を[平行世界]という意味を込めて推測すると、何となく場所の想像が付く。
領主の辺境伯がいる街[カイナーン]和歌山市内
鍛冶士の街[キシワッド]大阪堺市
自由貿易の街[ナニュワ]大阪市内
荒くれ者が多く、冒険者ギルド総本山のある[ジェイアマ]兵庫県尼崎
たぶん、これで間違い無いだろう。
それにしても改めて考えてみると、世界のネーミングセンスに手抜きを感じる。
他にも
宗教国家[ダイブトゥン]奈良かな?
封印魔境[ギュリオン]京都
死国[コンピュラ]四国だよね。
水上都市[ビララコ]たぶん、琵琶湖?
連合国家[レゴダミャ]名古屋っぽい。
最大帝国[アキバ]まんまかよっ!
これくらいは15年も生きていれば、田舎者でも聞いたことのある大都市や国の名前だ。
それにしても、平行世界って先入観が無ければ、気付かないものだね(汗
まぁ話は脱線したが、取り敢えず大きな街として、領主のいる[カイナーン]を目指すのに間違いはない。
タラタラ向かっても、二週間くらいで到着出来るだろう。
それと同時にレベリングと、他の[アーツ]なんかも習得して、オレ自身が[戦闘民族]として戦いに慣れなければならない。
そして[カイナーン]で冒険者ギルドに登録をして、金稼ぎと装備の一新は必須だろう。
あと、もしかしたら、、、
宿屋の娘と仲良くなっちゃったりとか?
ギルドの受付嬢に気に入られたり・・・ムフッ
カワイコチャンとパーティーを組むなんてことに・・・うふふ
まさか、ケモミミ奴隷を買い取っちゃったりなんかして・・・グヘっ♪
ぉぉぉおお、、、
なんと夢の広がるテンプテーション。
我が覇道が見えてきたではないかぁ!
えっ?
ウェルチ?
そこは、ほら?
・・・別腹?
もちろん最終目標には定めちゃってるけど、実際は捨てられてる訳だし。
そこにグイグイいけるほど、自分に自信ないし。
なんつーの
メインヒロインルートたどってたら、他のルートが見えだして、それが魅力的ならモーマンタイ。
みたいな?
努力目標的な?
・・・いや、違う。
言い訳はよそう。
ここは、はっきりと言うべきだ!
そう、オレはね、
勇者が羨ましいの!
ハーレムしたいの!
鈍感系主人公とか演じてみたいの!
好かれたいの!
愛されたいの!
チヤホヤされたいの!
ムキムキ先生したいの!!
うわぁぁぁぁぁぁぁん
・・・・・・・
・・・・・
・・・
フッ、
フハハハハハハ
戻ってきた・・・
転生後、押さえ込んでいたタタリ神様が戻ってきた。
ウェルチよ、
君が知る、変に落ち着いた幼なじみはもう死んだのだ。
もう存在しないのだ。
我が名はアメジ!
いまここにいるのは、前世より深い業を受け継ぐ大魔導・・・
その邪な妄想力を、はち切れんばかりに封印した邪悪な存在。
危ないよぉ~
危険だよぉ~
もうすぐ触手が生えてきそうなくらいパンパンだよぉ~
うしゃしゃしゃ・・・
ダメだよおねぇさん、ボクまだどうしていいのか分からないよ。
えっ!?そんなとこ、きっ汚いよ、ダッダメ、ラメェなのに、ぁぁああ。
うしゃしゃしゃ・・・
けしからんっ!
全く持ってけしからんっ!!
うしゃしゃしゃしゃしゃ・・・・・
「オメェー、大丈夫か?」
「えっ!?」
膝を抱えて、妄想バーストしながらゴロンゴロンしてたら、突然猟師のオジサンに声を掛けられた。
「ま、まぁ、そんくらいの年だと、いろいろ若いアレを持て余すんだろうが、、、程々にな」
「・・・・・ア、アザース」