表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

4:出発します






 家の畑や田んぼは、もう完成している。


 オレの知識だって、その都度父ちゃんや二つ下の弟に伝えてある。

 村全体でも、だんだんと父ちゃんを中心に農業改革が広まっていた。


 つまり、オレが居なくとも畑はまわるのだ。



 家に帰り、父ちゃん母ちゃんに村を出ることを告げた。


 「そだな。お前も男を見せるようになったか!しっかりと取り戻してこい」

 「女の子はね、強引にでも連れ去られたいものなの。きっとウェルチちゃんも、それを望んでいるはずよ」


 意外にも二人は反対するわけでもなく、快く旅立ちを了承してくれた。


 どうやらウェルチを取り戻しに行くと勘違いをしているようだが、大きな意味では間違ってはいないので、特に訂正はしなかった。




 そして次の日の早朝、最低限の荷物だけを持って、オレは村を出た。




 [アシノミヤ王国]


 それがオレのいる国の名前だ。

 以前、勇者リュカエルが迷宮より帰還して、再び村へと戻って来た時に、いろいろと話を聞いていた。


 「アメッチなら[平行世界]って言ったら意味分かるよね?」


 どうやらこの大陸は、日本の形とよく似ているらしい。

 こんな田舎に大きな地図など有るはずもなく、近隣の村や町にしか行ったことの無いオレには気付くはずも無かった。


 アシノミヤ王都は、兵庫県の神戸に位置する場所にあり、この村は和歌山県の下の方に位置するのだそうだ。


 ウェルチは王国専用の飛空挺で向かったはずだから、もう王都アシノミヤには着いている頃だろう。


 飛空挺は超貴重らしい。

 それこそ国に数台しかなくて、基本馬車や船が一般的な世界で間違いはない。

 それだけで[信託の聖女候補]が、どれだけ重要人物かということが分かる。


 オレの漠然とした大きな目標としては、王都の上級学校に入学して、ウェルチを驚かしてやるぜ、としか考えていないが、ただの村民に入学出来る訳もない。


 ついでに言えば、金も力も知識も無い。


 いまオレに有るのは、


・ボロい鉄の剣

・村人の服

・最低限のサバイバル道具一式

・4万イェン *物価の感覚は現代と一緒


 コツコツと貯めていた自分のお金から最低限だけを抜き出し、後はテーブルの上に置いてきた。

 剣は畑に現れる獣の撃退用として、納屋に入れっぱなしのボロボロの剣だ。

 普段は最近購入した新しい物があるので、持ち出して困るものではない。


 オレはこれから家を出るに当たり、出来る限り家族に迷惑を掛けないよう最低限の状態で出発をした。


 正直、不安が無いのかと言えば嘘になる。

 ステータスを開いてみる。



========

アメジ 15歳

LV: 8

称号:[農耕の革命児]

適性: 農耕技術

========



 2年前とほぼ変わらない、しょっぱい内容である。


 この世界のステータスは、IDとしての価値しかない。

 能力の数値化は無く、スキルとしての縛りも無い。

 有るのは漠然とした経験や強さを示す[レベル]と、才能を示す[適性]のみである。


 しかし逆に言うと、スキルの縛りが無いのだから、努力次第では力を手に入れることも可能なのだ。


 魔法で例えると、

 適性表示の無いオレでも生活魔法は使えるし、必死に努力を続ければ、初級攻撃魔法も習得出来たのかもしれない。

 さらに数年、必死に打ち込めば中級にも手が届く可能性もある。


 しかし、中級以上の壁を越えることは絶対に出来ない。

 そこには適性という[加速装置]が無ければ、絶対にたどり着けない境地なのだ。


 つまり[地球の仕様]とあまり変わらない。

 適性が明確に表示されているだけでも、イージーモードといえるくらいだ。


 だが、ここに落とし穴も存在する。


 ステータスに[適性]は表示されるが[適性無し]とは表示されない。

 残念ながら適性の無いものに関しては、いくら頑張っても習得不可能と言わざる得ない。


 まだラノベ無双に憧れてた頃は、散々初級魔法などの鍛錬に励んでいたが、人並みに達することはなかった。


 感覚的に例えると、高所恐怖症の人は目眩がするほどに高所に適性が無い。

 反面、高層ビルの不安定な足場でも、初めから平気な人達もいる。

 また、高所恐怖症の人でも鍛えれば克服して、平気になる人、どうしても克服出来ない人は必ず出てくるはずだ。


 そんな白か黒の単純な話では無いが[適性表示が無い]中でも、その程度が存在するということだ。


 そして、オレには適性が無い。

 表示が無いだけではなく、魔法などの戦闘適性が壊滅的に無かったのだ。


 だが、そんなオレでも[農耕技術]の適性があり、畑の上ではなかなかのもんだ。

 けど、生まれつき[農耕技術]適性を持っていたのかというと、そうでもない。


 [称号]である。


 10歳の時に、初めて自分の畑を作ってみた。

 現代の知識を思い出し、素人ながらも土作りから始めて、試行錯誤を重ねているうちに、気が付けば称号[農耕の革命児]と共に[農耕技術]の適性が生まれていた。


 つまり、適性は後天的にも作り出すことが可能なのだ。



 「さて、なにから始めるかな」


 急ぐ旅でもない。

 いまのオレでは、精々15歳にしては少し逞しい子供に過ぎない。


 「開き直ってみれば、いろいろ試してみたいことがあるんだよね」


 不安より期待が勝っていた。

 現代知識が通用して、この世界の戦闘適性が無いのだとしたら・・・



 「元ゲーマーを、なめんじゃねぇぞ」



 歩いて丸1日の隣町までの道を、これからのプランを考えながら歩いていた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ