11:キンキンに冷えてやがるぜ
「アメジ、お前ぶっちゃけ、剣を握って日が浅いだろ?」
赤い顔で、少し座った目をしたヴァルド教官が問いかける。
「・・・バレました?」
誤魔化しても仕方がないので正直に答える。
ドンッ!
「バレバレだ!体重移動も構えもポジション取りも、全部素人のそれだ!連続技や、え~と、[アーツ]って言ったか?まぁ、そのスキルみたいなのは一流のキレだが、それすら使いこなせていねぇじゃねぇか!・・・おぅい、ねぇちゃん、こっちにビール1つなっ」
「いや、2つでお願いします!・・・それで、使いこなせていないとは、どういうことですか?」
オレ達は、街の居酒屋にて差しで飲んでいる。
あの後、一通りの手続きを終えたあと、ヴァルドに誘われてメシへと流れた。
そこでオレは、どうせならビールが飲みたい気分だったので、逆に居酒屋へと誘ったということだ。
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ここは異世界です。
年齢制限に対する法律などありません。
あと、精神的には50歳を越えています。
ついでに、若い冒険者が酒を飲むのは褒められこそしないが、そんなに珍しくもないよ。
ここは異世界です。
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そしてオレはヴァルドに全てを話していた。
前世の記憶が有ること、それを基に剣術を練習し[基本技]や[アーツ]を習得したこと。
よくラノベなどで、そのことを内緒にする件はよくあるが、オレが15年間生きてきた感覚でいえば、このファンタジー世界では、そんなに騒がれる話じゃないと判断したからだ。
もちろん、親やウェルチ、村のみんなには進んで言う気になれなかったが、行きずりの知り合いくらいなら問題ない。
事実、ヴァルドも「へぇ~、珍しいこともあるもんだ」くらいである。
その上で、無知なオレは教官からアドバイスを受けようと考えたのだ。
「お前はな、例えるなら名馬にまたがって、お荷物になっているだけなんだよ。実際、連続技やスキルみたいなのを使う時には[引っ張られてる]、そうだろ?」
「はぁ~、そんなことまで分かるんですね」
「まぁな、ある程度実力が有る者が戦えば誰でも分かるさ。足運び、視線、表情、なにより体重移動が技を阻害している。あと、うまく言えねぇが剣にお前の意志が乗ってないんだよ」
「なるほど・・・でも適性の無いオレではやっぱりこれ以上は厳しいですか?」
核心に触れる。
「おっ、来た来た。プハァ~、キンキンに冷えてやがるぜ!・・・お、スマンスマン。いや、そうでも無いんじゃねぇか?そうだなぁ、まずポイントは3つだ。
一つ、お前の持つ名馬の邪魔にならないくらいのフィジカル。
二つ、剣術の基本。体運びや駆け引き、体の使い方だ。
三つ、場数だ。まだまだ剣を向け合った時の緊張感が拭えていねぇ。慣れろ。戦闘の勘を養え。
まっ、こんなとこだろう。
具体的には、ほれっ?最初に戦ったガントを覚えてるか?
素の状態でDランク、あれくらい剣が使えるだけで、お前の[力]は格段に跳ね上がる。名馬にお荷物として運ばれるんじゃなくて、操縦してみせろ」
「おぉぉ、さすが教官。めちゃくちゃ分かりやすくて有り難いっす」
本当にこの厳ついオッサンは人が良い。
そして的確に欲しいところを分かりやすく示してくれる。
「なぁに、良いってことよ♪
・・・・・・・グビッ
・・・そんなことより、さっきの契約だけどよ・・・そ、そのぅ・・・」
今までにないくらい真剣な顔になるヴァルド。
「プハァ~・・・ええ、分かってますよ。アナタはオレを戦士として育てる。そしてオレは如何にヴァルド教官が素晴らしく、優しく、男らしいかを、受付のルイーダさんにアピールする。あっ、もしセッッティング出来そうならデートとかも組んじゃいますね」
「バッ、バカ!そそそそんなの、いきなりむむ無理に決まってんだろっ!」
「乙女かぁ!なに照れてんすか!いい歳したオッサンが!つか、えっ!?もしかして、童貞?教官も大剣持ちの魔法使い??」
「・・・初めては、好きな女と決めてるんだよ」
「乙女かぁ!ハゲなのに!!あっ、おねぇさぁ~ん!ビール2つ!あと、イカとハマチの刺身ちょうだい」
「なぁ、アメジよ・・・そ、率直にだけどよ、そのう、オレみたいな、そのぅ~剣しか能のねぇオッサンが、あんな若くてキレイで、優しくて、気が利いて、明るくて、スタイル良くて、可愛くて、あと、、」
「乙女かぁ!もう、しっかりして下さいよっ!教官!!・・・・・そうですね、それじゃあ、もしルイーダさんが変な野郎にナンパされてたら、どうしますか?」
「あっ!?ボコボコにして守るに決まってんだろ!」
「では、Aランクの魔物に襲われていたら?」
「ぐ、命張ってでも彼女だけは助けてみせるっ!」
「トラブルに巻き込まれて、多額の借金を迫られてたら?」
「そんなもん、オレの全てを使ってでも肩代わりするに決まってんじゃねぇか!」
「おっ、調子出てきましたねぇ。では、若いイケメン冒険者が受付でルイーダさんと仲良く話しているのを見かけたら?」
「・・・あとで、そいつを訓練場でシバく。」ボソッ
「思春期かぁ!どうして、そこはガツンッと行かないんですか!」
「・・・だってよ、その方がオレなんかより幸せになれるかもしんねぇしよ」
「そこっ!そういうとこっ!!乙女かぁ!何度目?・・・もうね、優しいの通り越して、ただの引っ込み思案!ねっ!?おねぇさんもそう思うよね?」
丁度、ビールを持って来た店員のおねぇさんもそのへんの話を聞いていた。
「少年の言う通りニャ。煮え切らない愛は無いのと一緒ニャ。それは優しさじゃなくて、自分を守って逃げてるだけニャ」
「アザァ~ス!おねぇさん良いこと言う!そう、それっ!!その通り!そんなおねぇさんに乾杯っ!」
「あら、ありがとニャ。生意気で可愛い少年ニャ♪」
「あぅ~ん♪ボ、ボク、おねぇさんに恋しそうです!フンガフンガ」
「イヤァ~ン嬉しいニャ。けど少年、カウンターでウチの主人が睨んでるから気を付けるニャ♪」
「・・・さぁーせん」
そして、おねぇさんはそそくさと行ってしまった。
ドンッ!
教官がビールを一気飲みしてジョッキをテーブルに叩きつける。
「ヒックぅ・・・オオレ、オレだってよぉ・・・・う、うっ・・・うわぁぁぁぁぁあああああああああんんっ!!」
泣き出してしまった。
(ヤッベェ・・・言い過ぎた・・・・・)
厳つい筋肉ダルマが、テーブルに伏せて大号泣である。
そんなタイミングで、、、
「あら?アメジくんじゃない」
ギクッ 青ざめるオレ
ピクッ 泣き止み、テーブルに顔を伏せたままの教官。
面倒臭そうに慰めてたら、最悪のタイミングでルイーダさんが現れた。
「ほらっ!もういい時間よ。まだキミは子供なんだからハシャぎ過ぎ、、、えっ!?ヴァルド教官?」
「・・・・・・・・・・」コクリッ
うつ伏せのまま、頷く教官。
乙女かぁ!
「いつも紳士的なヴァルド教官にも、こんなカワイイ一面があるのですね♪クスッ。では、私たちはこれで」
そう言うと、同じ女性職員たちと店の奥へと行ってしまった。
「・・・・・あのぅ・・・教官?」
(くっ、どっちだ!?恥と怒っているのか?それともテレてやがるのか!?)
ゆっくりと顔を上げる教官。
「・・・・カワイイ、だってよ」
「乙女かぁ!恥じらってやがった!!」