10:Bランクの実力
「さて、アメジ。お前が何者なのか、無能の者がどうしてあそこまで戦えるのか、そんなことはどうでもいい。これは久しぶりに教官としてではなく、ヴァルドとして戦えそうだ。ワッハハハ・・・」
そんな子供みたいにワクワクしだした教官は、一際大きな木剣を担ぎだす。
「オレは大剣使いだ。いいだろ?アメジ」
「かまわないですけど、お手柔らかにお願いしますね」
「そりゃ無理だ。こんな楽しそうな相手に抑えられる訳がねぇ」
「それはルイーダさんから聞きたいセリフですね」
「違いねぇ!オメェ、ガキのくせに分かってんじゃねぇか」
「有り難うございます。えっと、多分ボクに気を使って休ませてくれているのですよね?もう大丈夫です。始めましょう」
「・・・ちっ、可愛くねぇな。だが、まぁ待て。先にお前の戦いを見せてもらったからな。これを見ろ」
そう言って、自分のステータスをこちらへと提示する。
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ヴァルド 34歳
LV: 56
職業:ギルド職員
ゴールドプレート・Bランク
流派:アシノミヤ王国騎士団流大剣術
称号:[百人隊長][救出者][教育者]
適性:身体強化 体力増大 剛力 剣術 格闘
感知 反応速度 状態異常耐性 土属性
他多数
スキル:?????
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「いいか?これがBランクの実力だ。主立った戦闘適性以外は端折ってはいるが、これで大体の戦闘スタイルは想像が付くだろう?ま、わりぃが、スキルは内緒だ」
「若っ!その顔で34歳!?」
「そこっ!?つか、うっせぇ!ガキ!!」
「いやぁ、スミマセン。威厳があるので、てっきり50代かと・・・」
「それフォローになってないよな?気にしてるのに・・・まぁいい。じゃあ、もう始めるぞ、バカヤロウ」
「はい、お願いします」
お互い木剣を構え合う。
訓練場のほぼ中央で、二人の距離は約5m。
会場全体は見学モードに入っており、野次馬の姿も見て取れる。
「・・・いきます」
一言声を掛けて、通常攻撃で仕掛ける。
袈裟斬り
大きな木剣でなんなくいなされる。
斬り上げ
半身となり、かわされる。
回転振り払い
逆に間近まで間合いを詰められ、振り払うオレの腕を掴んで強制的に攻撃を中断された。
「なっ!」
驚き、絶句するオレの腕を掴んだまま、なにやらいろいろと分析している様子だ。
「やはり、な。貴様の強さの秘密は[スキル]に近いんだろうな。最初から手を抜いてる様子は無い。素の感じだとEランクで間違いないだろう。しかし、この[連続技]に関しては、一流のキレと言っても過言ではない、、、だが[型]が決まっているのか?Bランク相手に、何度も見せてる連続技を使うのは感心しねぇ、なっ!」
掴んだ腕を軽々と振り、2、3mオレを投げ飛ばす。
「さぁ、次はしっかりと防御してみせろ!」
「くっ」
巨体に似合わないスピードで、間合いなど無かったかのように、大きな木剣を何度もオレに浴びせまくる。
すかさずオレも[通常ガード]で対応する。
「おっ!?おおぉ・・・これもお前の[力]という訳か。不思議なもんだな、足や脇腹を攻撃してもダメージが通らねぇ」
ガシッガシッと、目にも止まらぬスピードで、オレの全身を隈無く攻撃しながら分析している。
この教官、顔に似合わず、頭脳派なのかもしれない。
「じゃあよう、こんなのはどうだい?」
「っ!」
いきなり片手でオレの胸ぐらを掴み、強引に投げ飛ばされた。
「ぐはぁ」
数m投げ捨てられ、情け無く体を打ち付ける。
「攻撃しても鉄みたいにカッチカチだったくせに、掴んでみたら普通なのな。ホントに不思議なガキだぜ」
片手で大きな木剣を肩に担ぎ、ふぅーと息を吐き出しながら、倒れているオレを見つめてくるヴァルド。
(くそっ、流石だ)
開始早々、丸裸にされた。
オレの攻撃パターンはシンプル過ぎて読まれやすい。
しかし一度見られているとはいえ、ここまで完璧に全てを明らかにされるとは思ってもいなかった。
ふらふらと立ち上がり、ヴァルドへと向き直る。
「ふっ、それでこそだな。終わりじゃないんだろ?小僧」
「アナタは根っからの教官のようだ、、、まだまだヴァルドさん個人とは戦えてはいない・・・ゼッテェー引き出してやるっ」
「・・・生意気な。第二ラウンドだ」
再度、向かい合い構え直す。
もう声は掛けずにヴァルドへと間合いを詰める。
通常攻撃 初撃
踏み込みながらの袈裟斬り。
「ちっ、バカの一つ覚えか」
ウンザリしたような顔で、先程と同じようにオレの剣筋をそらす。
通常攻撃 二撃目
斬り上げ
またも半身となり、難なくかわされる。
それと同時に、剣を水平に構えてカウンターの体勢に入るヴァルド。
「まぁ、ガキにしてはよくやった方だ、だがこれで、っ!なにっ!?」
通常攻撃 三撃目
[振り下ろし]
「くっ!!」
===ガキンッ!===
オレの三撃目[回転振り払い]を、カウンターで打ち破る体勢だったにも関わらず、[振り下ろし]に対して強引に体勢を変えて、鍔迫り合いへと持ち込んで攻撃が防がれる。
流石の反応だ。
「小僧っ!貴様、他にも[型]があったのか!?」
至近距離で驚きつつも、どこか嬉しそうな顔で力を込めるヴァルド。
その剛力にオレは適うはずもないので、バックステップで距離を取り、再度素早く攻撃を仕掛ける。
通常攻撃 初撃
[振り払い]
「っ!」
もうヴァルドの表情に余裕は無く、ギリギリでその攻撃をかわす。
通常攻撃 二撃目
[振り下ろし]
流石、Bランク。
振り下ろしたオレの剣を大剣でそらし、その勢いのままに、オレの剣は地面へと当たる。
「はっ!やっと面白くなって来たじゃねぇか!だがな、勘違いするなよ小僧。これでやっと対等の打ち合いになっただけの話だぜ」
「では、こんなのはどうですか?」
通常攻撃 三撃目
[振り下ろし]
「なにっ!?」
切っ先が地面に着いていたはずのオレの剣が、一瞬で頭上へとワープして、振り下ろしでヴァルドの頭を襲う。
「くっ!!」
その反応速度により、急所こそかわされてしまったが、ヴァルドの肩に強く木刀を打ち入れた。
しかしヴァルドは倒れない。
攻撃を入れた余韻には浸らず、そのまま攻め立てる。
通常攻撃 四撃目
[袈裟斬り]
またも下段にあったはずのオレの剣が、一瞬で頭上に構えられ、袈裟斬りでヴァルドを打ち抜く。
「ぐはっ!・・・どうなってやがるんだ?」
木刀で強打したにも関わらず、その屈強な肉体は崩れることなく、オレを睨みつける。
(ふんっ。オレがやり込んだゲームは一つじゃないんだよ。まして操作可能なキャラクターは、主人公だけじゃない!)
ここカイナーンの街に着くまでの二ヶ月間、オレは今までやり込んだ、全てのキャラクターの通常攻撃コンボを習得していた。
そして、それはもうオレの[力]だ。
ゆえに、各コンボの順番こそ入れ変える事は出来ないが、1~4の攻撃の順番さえ合わせていれば、違うキャラクターの通常攻撃パターンと入れ替え、織り交ぜることは出来る。
つまり、オレの攻撃の[型]は、一つや二つなんかではなく、織り交ぜることで、何百パターンにもなるのだ!
さらにそこで、アクトアシストの[バグ]とも呼べる現象が発現する。
各キャラクター達の通常攻撃パターンを織り交ぜれば、当然動きが不自然なコンボとなるのは明らかだ。
しかしそれを、アクトアシストは[理]を曲げてでも実行したのだ。
それは図らずとも偶然に出来てしまった、回避不可能な[通常攻撃四連続技]。
つまり、オレにしか出来ない、オレだけの[剣術]なのだ。
「クソがぁぁぁ!!」
表情が引き締まり、本気となったヴァルドのラッシュがオレを襲う。
再度、ガードへと転じて難を逃れる。
だが、その威力は凄まじく、一撃ごとにオレの体は後方へと大きくズレる。
=「剛来波っ!」=
ヴァルドの[スキル]がオレを襲う。
それは剣気をまとわせた、豪快な振り払い。
しかし、そんな簡単な説明とは裏腹に、その威力は目の前で爆弾が爆発したかのような、炸裂と破壊力を持ってオレを吹き飛ばす。
「ぐはっ!」
ゴロゴロと転がり壁へと衝突する。
ガードをしていたにも関わらず、結構なダメージをもらってしまった。
(・・・くっ、負けてたまるかぁ)
スイッチを入れる。
オレもどこか出し惜しみをしながら、自分の力を研究していたところがあったので、本当の意味で戦闘モードへと入る。
「うらぁぁぁ!!」
咆哮をあげながらヴァルドへと走る。
「楽しくなってきたじゃねぇか!」
獰猛な笑みを浮かべながら、ヴァルドも駆け出す。
先に仕掛けたのはヴァルド。
=「竜巻斬りぃぃ!!」=
お互い駆け寄るなか、間合いの外よりコマのように自身が高速回転して、その名の通り竜巻と成ったヴァルドがオレを襲う。
「EXガードォ!!」
緑色の球体がオレを包む。
===ガッ!ガッ!ガッ!ッ!ッ!・・・===
何度も何度も凄まじいほどの質量がオレを削る。
だが、このEXガードは無敵だ。
如何なる攻撃も通さない、はずだ!
ごっそりとオレの中のモノが失われるのを感じる。
(こりゃ、絶対に長時間、連発出来ないな)
「がああぁぁ!!どうだぁ!?小僧っ!」
竜巻は突然急停止し、体勢を崩したヴァルドが叫び声と共に現れる、が、
「な、なんだとっ!?」
まさか、あの技を真っ正面から受け止めて、踏み留まっているとは想像していなかったようだ。
すぐ目の前にいるオレに、驚愕するヴァルド。
(チャンスっ!)
「千本桜ぁっ!」
高速の連続突きが、ヴァルドの体を何度も打ち抜く!
10ヒットさせたところで、フィニッシュの斬り上げ攻撃により、巨大なヴァルドの体が持ち上がる。
「まだだぁ!リアクター・ソード!!」
斬り下ろし、斬り上げを、高速で5回繰り返す連続技。
持ち上がったその巨体は、上に下へと地面に落ちることなく、オレの剣に斬りつけられて、最後の斬り下ろしにより、強く地面へと叩きつけられる。
「くっ!メテオ・ブラストっ!!!」
攻撃を緩めない!
呼吸が出来ないほどに、スタミナをごっそりと持って行かれたが、最後の力で止めの[アーツ]を絞り出す。
高く舞い上がったオレは、倒れているヴァルドの腹部に向かって、加速した渾身の跳び蹴りで強襲する。
===ズドォーンッ!===
「・・・ハッ、ハッ、ハァ、ハァ」
呼吸は苦しいほどに困難で、膝がガクガクと震えながらも、倒れるヴァルドの横にギリギリの状態で立ち尽くす。
場内は静まり返り、オレの息遣いだけがやけに響き渡っていた。
(・・・やっ、やったか!)
「っ!!」
フラグを立てた瞬間、倒れたままのヴァルドは、横に立つオレの足を掴みとる。
そして、そのまま起き上がると、オレを人形のように投げ捨てた。
「ぐはぁっ!!」
背中を打ち付け、起きあがることが出来ない。
「・・・・・」
そんなオレに、ヴァルドは無言でゆっくりと歩み寄り、その大きな木剣をオレの顔のすぐ横へと突き立てた。
「っ!・・・・ま、参りました」
「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
オレの敗北宣言に、場内は一気に熱気に包まれる。
口々に労いや賞賛の声をあげながら、駆け寄る訓練生や他の教官達を無視して、ヴァルドは表情を崩さずに、いまだオレから視線を外さない。
オレも呼吸を整えながらヨタヨタと上半身だけ起こし、ヴァルドの視線に答える。
「・・・・・ちっ、歪な成長しやがって、、、試合は小僧、いや、アメジ。お前の勝ちだ。だがな、お前の攻撃は軽すぎる!正直、あれだけのラッシュを受けて、オレはもう敗北を覚悟した。けどな、ダメージが派手さの割に全然入って無いんだよ!!つまりっ!全然テメェーの体は出来ていないんだっ!技に頼ってないで、もっと鍛えやがれ、チクショウが!!」
「・・・スミマセン。有り難うございます、教官」
「おぅ!みっちり鍛えてやっからな!!」
「ぐへっ、そりゃ勘弁です」
ハハハと笑い合いながら、無事ランクテストは終了した。
そして、見学していた冒険者や他の教官達からも認められて、なんとかオレの成り上がりの第一歩は成功する事が出来たようだ。
さぁ、まだまだ強くならなくっちゃっ!