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1:田んぼに石を投げないで







 「もうアーくんっ、草抜きなんて後で良いから早く勇者様を見に行こうよ!」


 田んぼの土手より、幼なじみのウェルチがイライラしながら大声を張り上げる。

 それもそのはず、こんな辺境の田舎に勇者パーティーが立ち寄ったというのだから。


 「あと少しで終わるから・・・よし、お待たせ、って、なに?その格好」


 うぅーっと、腰を伸ばしながらウェルチへと振り向くと、田んぼには似つかわしくないフリっフリのスカートで、目一杯オシャレをした13歳の幼なじみが立っていた。


 「ふっふぅ、どう?惚れ直した♪」


 「・・・いや、すっごい田舎者っぽいよ」


 「ええぇ!なんでよ?10歳の誕生日に叔父さんから貰った王都の服よ!オシャレじゃん!可愛いじゃん、どこが田舎者なのよ!」


 ジタンダを踏みながら激怒するウェルチ。

 3年前の服が着れるのも、どうかと思うけど、、、特に胸のあたりが。

 いや、田んぼに石は投げないで。


 「ウェルチはそのままで可愛いんだよ。変に背伸びしても、王都から来た勇者様には滑稽に見えちゃうよ」


 「っ~~~・・・、また、サラッとそんなこと言う。アー君って、ホントに同じ歳?変に落ち着いてるし、なんか叔父さんと喋ってるみたい」


 (正解。プラス41歳です・・・)


 異世界転生


 若くして死に、ベタな転生をしたにも関わらずチートは無しで、貧乏田舎の長男として13年間過ごしてきた。

 生前は紳士の嗜みとして、この業界にハマッておりました。

 ゆえに知識には自信があったので、様々な可能性や試みをするも、特に目立った無双を行うことは出来なかった。

 むしろ元異世界人ということが邪魔をしているのか、剣と魔法の世界にも関わらず、適性は皆無で、無能の烙印を押されてしまった。

 強いて自分の強みを言うのなら、少しだけあった農作知識を活かしての改革くらいである。


 だからオレは、この13年間で達観していた。


 収穫量増加のおかげで生活は少々安定していたし、もう村人としてのスローライフを満喫したっていいじゃないか、と。


 さらにオレには、こんなにも可愛い幼なじみだっているんだから。


 「ほらっ、バカなこと言ってないで勇者様を魅了しに行くんだろ?早くしないと、ベルねぇちゃんが先に勇者様を犯っちまうぞ」


 「全然妬いてくれない・・・もうバカッ!絶対勇者様に見初められてやるんだから!早く行くわよ」






 狭い村での唯一の宿屋。

 勇者パーティーは、宿屋の入り口付近で村長と話し込んでいる。

 その様子を村人全員が遠巻きに眺めていた。


 あっ、ベルねぇちゃんマジで犯る気マンマンだ(汗

 殆ど全裸のベルねぇちゃんを避けて、オレ達もその輪に加わり、勇者一行を芸能人のように観察する。


 そこで、オレは驚愕する。


 「はぁ~、やっぱり勇者様は噂以上にキラッキラの美少年ね。ねっ?アー君もそう思うでしょ?」


 「・・・・・・」


 「・・・アー君?あれ、妬いちゃった?」


 ウェルチの声が滑り落ちるほどに、勇者がしている仕草を注目する。


 拝み手


 キラキラの高級装備に、幼さの残る顔立ち。

 穏和で優しそうな雰囲気があり、多分謙虚な人なのだろうと推測する。


 そんな彼が、村長の前を横切る際に、日本人特有の昭和オジサンがするような拝み手で歩いていった。


 (まさか、勇者もオレと同じ転生者!?)


 話を終えた勇者一行は、オレ達ギャラリーへと近付いて律儀に挨拶をする。

 そんな勇者に、村娘たちは黄色い歓声をあげて興奮するが、それに答えるとすぐ背中を向けて宿の方へと歩いて行った。


 「・・・ま、マヨネーズっ!」


 歓声に紛れて、日本人なら誰でも知っていそうな言葉を叫んでみた。


 「っ!」


 歩みを止めて、振り返る勇者。

 声の主であるオレをジッと見つめ、こちらへと近付いてくる。


 「えっ?アー君、こ、こっち見てるよ!って、こっち来ちゃった?え、アタシ!?」


 一人勘違いしているウェルチを余所に、視線を外さず真っ直ぐに勇者と見つめ合う。

 オレの前で立ち止まる勇者。

 見つめ合うオレ達に、周りの村人は静まりかえる。


 [・・・こんにちわ] ボソッ

 勇者が小声で日本語を話す。


 [はじめまして] ボソッ

 オレも同じく小声で返事をすると、勇者は破顔して抱きついてきた。


 「やっと会えた!ずっと探してたんだよ!!まさか、こんなところで日本人と出会えっんっ!モガモガモガ」


 「バカッ!落ち着け!!」


 抱きついて、大声で余計なことを言う勇者の口を手で塞ぎ、連れ去るように村の外れへと走っていく。


 「「「え?・・・ええぇぇ(そっちなの)!!」」」


 ウェルチや村人の驚きの声が響く。

 ベルねぇちゃんの勘違いの声も聞こえてきたが、オレ達はそのまま村の外へと走り去っていった。






 「改めまして、勇者リュカエルこと、新井信二43歳、元会社員です。いや~嬉しいな。久しぶりの日本語だ」


 「ご丁寧に、村人のアメジこと、田中久志41歳、システムエンジニアをしていました。いや、ホントに。拝み手を見てまさかと思いましたが、本当に日本人だったとは驚きです。あっ、宜しくお願いします」


 「なるほど。それで気付かれたのですね。いや、こちらこそ宜しく」


 村外れのあぜ道。

 サラリーマン的なやり取りをしながら、握手を交わし信頼を深める。


 間近で見る彼は本当にキラキラと輝く美少年で、まさか中身が同年代のオッサンとはとても信じられない。


 まぁ、オレも人のことは言えないんだが・・・


 オレはといえば、良くも悪くも普通である。

 それでも生前が酷かったので、それに比べれば百倍いいし、若返っただけでも有り難いと思っていたが、流石にこれは羨まし過ぎる。


 「それにしてもチート転生ですか?羨ましいです」


 「いや~お恥ずかしい限り。そう言うアメジさんは、えっと、もしかして能力が」


 「ええ。なにもありませんでした・・・6歳くらいまではラノベ展開を夢見て絶望もしましたが、今では開き直ってます。若返ったことだし、スローライフでも楽しもうと。だから、どうぞお気になさらないで下さい」


 土手に腰掛けながら、お互いの身の上について話し合う。


 13歳の少年と高校生くらいの美少年が恐縮し合いながら話している姿は、傍目には滑稽に見えることだろう。

 それでもお互いの本当を話し合える初めての相手に、会話も弾んでだんだんと砕けた口調へと変わっていく。




 「えっ?リュカさんも魔法使い!?つか、40歳越えの大魔導なの?」


 「ハハ、共に魔導を究めんとした同志であったか。うん、もうね、自分のことリッチかと思ったもん。まっ、二次元の嫁はいっぱいいたけどね。てか、怖くね?ハードディスク処分した?」


 「それな!死後、田舎の妹夫妻がオレの部屋を片付けに来てること想像しただけで・・・あああぁぁぁ!殺してくれぇぇ」


 「ぁあ、分かる!分かるわぁ~。前世の未練がそこっても泣けちゃうんだけどね」


 「けど今は勇者じゃん!勝ち組じゃん!チートで主人公じゃん!モテモテじゃん!」


 「ふっ、オレのパーティー見た?あれ、全員オレの嫁な」


 「あぁぁ!テメェこの、マジで爆発しろ!!」


 「ええよ、女の子、、、マジええでぇ、良い匂いがするの。アメッチはその年齢じゃまだ経験無いと思うけど・・・ええよ、びっくりした」


 「このぉ腐れ勇者めぇ!ハァ、同じ転生でもなんでこうも違うかな」


 流石に嫉妬は隠せない。

 羨ましくて悶々としていると、勇者リュカエルが気が付いたように問いかけてきた。


 「ところでさ、アメッチは能力無かったって言ってたけど具体的にはどうなの?」


 「・・・ギリ生活魔法がやっとかな」


 「?、、、あれ?じゃあ、ギフトは?」


 「おいっ!その話し詳しく聞こうじゃないか」


 「マジで!ギフト知らねぇの?ちょっちステータス出しみ。もしかしたら転生先輩の勇者オレならいろいろ分かるかもしんないし」


 「マジでっ!?わ、分かった・・・んっ」



========

アメジ 13歳

LV: 4

称号:[農耕の革命児]

適性: 農耕技術

========



 いつ見てもしょっぱい。


 この世界、ステータスはあっても能力の数値化は無い。

 HPやMP、攻撃力などは前世と同じで感覚でしかないのだ。

 互いの強さを計るには、適性の質やレベルを目安とするのが一般的とされている。



 「あらヤダ、、、マジ無いね?つか、ギフトってオレだけのもんか。無理だわ、これ。ハハハ」



 「無いんかぁいっ!絶対シバく!期待させやがって!!ボケェ」







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