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ただ一つ残せるとしたならば、私は何を選ぶのだろう。人生という長い喜劇の中の一場面を切り取るとするのならば、それは悲劇だとどこかで聞いた。確かにそれは疑いようもない――――たった一度の初恋だって、終わりを見れば常に悲劇で、叶うことなどほとんどない。誰かを好くことすら知らぬ水晶のような幼さにあったとしても、成熟しつつある中に気づきを見出したとしても、そして終わりの中で無感情を解体したことにやっと気づいたとしても。


結末がわかっているから全ては悲劇なのだ。ずっと一緒だと指を切った恋人だって、同時に死ぬことは無いし心中だって躊躇う。けれどもその中に、ほんの少しだけの何もないことがあるのだろう。


そしてそれは、きっと幸せと呼ぶものだ。


だから価値が増えた今こそ、幸せは減ってしまって。だから何もない今が、とてつもなく満たされたことに近しいとわかったのだろうか。


予告ない風は銃弾のようにどこまでも貫いて、雫のごとく小さく跳ね返って、顧みることなくゆるやかに見えた。だらけるようにいつかから長引いていくままにそれは、新しく大きくして、最後に溶ける。それは今の感覚だと、つまりは無常だと引っ張っていた。


自分でも何を言っているかはわからないのだけれど、ただそんな感覚でしか言い表せない。予告ない風だとしか言葉にできないのだが、そんな見えない感情のようなものに引きずられているのだろうかと、ただ問うてみるだけ。ただ意識という狭い鳥かごの中でしか、今できることは無いのだろう。


だったら残っている記憶を、ほんの少しかき集めてみようか。まだ青き自分の残りでも、これからのための自分の力でも。


ただそれはきっとフラッシュバック程度しか残りえないことはわかる――――二属性魔道が何だ、三属性魔道が何だ。人間関係がどうだったかなんてどうせ消えてしまう。自分がどう生きたかなんて、きっとあっちでは使えない。だったら何を残すべきだろうか?それはわからない。


けれどわからないままにしてはいけない、ということだけはわかるのだけれど、それに気づくまでが遅すぎたと思う。


消え始めた時点で気づけたのならば、それまでの覚悟はできただろう。覚悟があったならばどんな道すらも歩めただろう。けれどその一歩を踏み出す勇気そのものがなかったのだ、どうしようもない。


だから次の自分には、せめて力の扱いくらいは体の感覚で残してあげねばと思う。誰が好きで誰が嫌いかは自分が決めることだからとして、自分が自分でなくなっていくことを残さねばと確信する。そしてお前には、最後まで追ってきてくれるだけのやさしさを持つ人間?がそこにあると答えてやらねばと決断する。


だから私の為に、こう語ろう。


あきらめてもいい。折れてもくじけてもいいのだ――――お前は私で、そしてこれからがあるのだから。


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