Short Shot Shoot/Written
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見えねぇ!何も見えねぇ!
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アストラの見た実世界は、光に満ちていた。彼はフラッシュバンによって、住民の視界を奪い、狙いを付けることを不可とした。当然カメラなどもほとんど死んでいるので、誰も今彼を見る者はいない――――店主も同じだった。クリーンヒットしたため、ミュータントの目はしばらく動けないだろう。
アストラは立ち上がった。そして一気に体勢を入れ替えて、お返しとばかりに店主の顔面に、能力で作ったメリケンサック付きの拳を叩き込んだ。
彼の頭蓋骨が割れ、脳に大きなダメージが入る。ナノマシン交じりの完全なる白が、路面地にしたシルクリートの上にほんの少し漏れ出た。見えてはいけない人間性が、言葉と液体とであらわになる。
「うおおおおおおお!俺の……俺のがあああああ!」
同時に我らの視界も、バカにするような簡単さから逃れる。復帰した視界の中、シルクリートの外壁の壊れた中、私たちが受け入れたのは、店主がぼこぼこにされているということだけだった。
白い建造物の並ぶ、庭の広い住宅街。明らかに火の燃えるそれらはどうしてか、まるで反省するかのようにしおれ歪んでいく。その中でアストラの拳が店主の右手で逸らされるが、その手すら破壊して彼は店主の体を暴力的に床の染みにする。
苦しんだままに左腕でガードするけれども、それは悲しいことに折れてちぎれ飛ぶ。完全に一方的な殴り方だった。
「俺は……俺は!」
店主は信じられないと言った様子で、自分にまたがるアストラを見た。
「俺は最強のはずだ!この能力があれば……かなうやつはいないって!」
彼は遠くを見て、ちぎれた左腕を伸ばす。助けてくれ、そんな様子だ。
その先には今しがた扇動していた、彼曰くのバカモノどもがあった。けれど今はもう違い、ただ自分を罠にはめて全部を盗んでいった詐欺師であり、アストラがそれから自分たちを救ってくれた、としてしか見られていないようだった。
「……力に飲まれた時点で、お前は俺の獲物だ…………自分を怨め」
彼は機械交じりのその体に、怒りをたたきつけて痛む。
「……そんな!」
それが信じられないと見え、店主はただオイルと人工血液を流して死にゆくのだ。
「恥を知れ、獣」
アストラは腰に、致命的な一撃を加えた。上半身がちぎれ飛んで、二つを繋いでいた最重要の骨格から、電脳質の髄があふれ出る。内臓からは汚物があふれ出し、酸とスカドール、インドールなどが混ざり合った。
「苦しんで死ぬがいい」
さらさらしたざらざらの平面が、それを吸い取って広げていく。命の象徴はもはや機能を停止し止まりかけていたが、それでも許せないと彼は、店主の胸に手を突っ込み、心臓にほんの小さな穴をあけ、ついでにと肺と横隔膜に穴をあけた。
気密が無くなって呼吸もできず、血液はほんの少しずつ消えていく。骨髄につながる部分も死んでいるので、生きていくことはできない――――けれども、窒息か失血かで、苦しみは長く続くだろう。
機械能力で体を強化したツケが、ここで来ているとでもすればいい。なんせそうするための資金は全部、だまして殺してぬすんできたものなのだろうから。
店主は目を大きく開き、そして怨嗟の声を上げ、壊れた右腕を自分の頭蓋の穴に突っ込んだ。
「鬼畜外道が……」
そして彼は、自らの機械知能を掻きだし、終わりを迎える。
「お前のセリフでは、ないだろうに」
それをアストラは、間違いなく確かめた。最後に彼がつぶやく、『一体俺は、何をして』といった言葉を聞き逃さずに。
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「終わった、か」
アストラは小さく息を吐く。このような事件が何度も起きる、異常な都市。だけれどもそれが表に出されず、どこまでも苦しみと悲しみが続くのだろう――――倒さねばならない、この都市の裏は。
彼はタッグを持ち、ビッタから来ていた通信を見る。最初は事件について、次は犯人について。そして最後は――――この情景のところどころにある、本来あり得ないはずの『私』や『俺』について。
「じゃあ、この視点は誰のものだ?」
彼は来ていた映像を開き、そうつぶやくとと同時に、私の視界にノイズが走り何も見えなくなる。
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アストラたちを見ていたのはステルス迷彩に隠れたドローン――――神経直結した特殊機体であり、何も見えなくなったのは、それを操る人物が斃れたから――――つまりアストラの協力者、ビッタ・べリスがハッキングを完了させたからであった。
主犯たるオールワ・ミリは簡単に脳を焼き切られ、死んでしまっているのである――――人間をやめたミュータントとはいえ、能力の根源自体は人間と変わらない。コンピュータのDDOS攻撃を完全に受けきることは不可能なのだ。
加速した血流で補おうとしたけれど、それも不可能だったようで、不可逆のパルスが脳髄を走っている。それに応えようとする身体は、びくんびくんと蠢くだけだった。
「アストラ。大体の結果わかったわ――――今回は、ストレイドの絡みでも何でもない」
「ただの偶発よ」
「どういうことだ?管理人がクローンウォリアーの試験体まで出してるんだから……」
ドローンの持ち主は知らないようだったが、住民たちは皆、測ったかのようにアストラが昔見た人物と顔立ちが同じだった。身長も同じで、銃の構え方も。そしてカメラ越しでは気づけないが、特殊な塗装で額にコードが示されていることも。
「あれは盗まれたもののようなの。正確にいえば、アイツの能力で脳機能を墜とされた挙句、洗脳まがいをされて上書きされてる。だから所属がストレイドの意識のまま、アイツに従っていたのよ」
「それでか――――あの店主、普通の犯罪者がミュータント化したにしては、無駄に機能が高かったからな」
最後に聞こえた言葉は、つまりはどこかから脳機能を乗っ取られたということなのだろう。そうして無理くりに遠隔操作をされ、手先になった挙句に集団で動かす、と。
「泥棒の演劇なんだけど、知らない奴を乗っけるにはいいのよねぇ。私としては癪だけど、アイツの能力は恐ろしかったから」
「劇場型の泥棒、ねぇ……ともあれ、今回は助かった」
「俺もいくらか飲まれかけてたからな」
実際アストラは幾分知能が落ちていた。通常ならさっさと殺しているはずなのだが、クローン相手にも生きているという意思が働いてしまっている。潰せるなら潰しておかないと、面倒なだけだったのに。
「お互い様よ。まあともかく、活動を続けましょうか。次のポイントなんだけど…………」
そうして一夜の気狂いは終わった。だけれども、この偶発は誰にも記録されないのだろう。ネットの世界に流されたこの映像は、どうしてか見たものにまで効力を持っている。だからそれを消し去らねば、間違ったままの情報が世界にあふれることになる――――それは起こしてはいけない。アンダーシティ浄化の為に。
アンダーシティ・ケルスの夜は長い。
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