表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/174

Short Shot Shoot/Written

----


見えねぇ!何も見えねぇ!


----


アストラの見た実世界は、光に満ちていた。彼はフラッシュバンによって、住民の視界を奪い、狙いを付けることを不可とした。当然カメラなどもほとんど死んでいるので、誰も今彼を見る者はいない――――店主も同じだった。クリーンヒットしたため、ミュータントの目はしばらく動けないだろう。


アストラは立ち上がった。そして一気に体勢を入れ替えて、お返しとばかりに店主の顔面に、能力で作ったメリケンサック付きの拳を叩き込んだ。


彼の頭蓋骨が割れ、脳に大きなダメージが入る。ナノマシン交じりの完全なる白が、路面地にしたシルクリートの上にほんの少し漏れ出た。見えてはいけない人間性が、言葉と液体とであらわになる。


「うおおおおおおお!俺の……俺のがあああああ!」


同時に我らの視界も、バカにするような簡単さから逃れる。復帰した視界の中、シルクリートの外壁の壊れた中、私たちが受け入れたのは、店主がぼこぼこにされているということだけだった。


白い建造物の並ぶ、庭の広い住宅街。明らかに火の燃えるそれらはどうしてか、まるで反省するかのようにしおれ歪んでいく。その中でアストラの拳が店主の右手で逸らされるが、その手すら破壊して彼は店主の体を暴力的に床の染みにする。


苦しんだままに左腕でガードするけれども、それは悲しいことに折れてちぎれ飛ぶ。完全に一方的な殴り方だった。


「俺は……俺は!」


店主は信じられないと言った様子で、自分にまたがるアストラを見た。


「俺は最強のはずだ!この能力があれば……かなうやつはいないって!」


彼は遠くを見て、ちぎれた左腕を伸ばす。助けてくれ、そんな様子だ。


その先には今しがた扇動していた、彼曰くのバカモノどもがあった。けれど今はもう違い、ただ自分を罠にはめて全部を盗んでいった詐欺師であり、アストラがそれから自分たちを救ってくれた、としてしか見られていないようだった。


「……力に飲まれた時点で、お前は俺の獲物だ…………自分を怨め」


彼は機械交じりのその体に、怒りをたたきつけて痛む。


「……そんな!」


それが信じられないと見え、店主はただオイルと人工血液を流して死にゆくのだ。


「恥を知れ、獣」


アストラは腰に、致命的な一撃を加えた。上半身がちぎれ飛んで、二つを繋いでいた最重要の骨格から、電脳質の髄があふれ出る。内臓からは汚物があふれ出し、酸とスカドール、インドールなどが混ざり合った。


「苦しんで死ぬがいい」


さらさらしたざらざらの平面が、それを吸い取って広げていく。命の象徴はもはや機能を停止し止まりかけていたが、それでも許せないと彼は、店主の胸に手を突っ込み、心臓にほんの小さな穴をあけ、ついでにと肺と横隔膜に穴をあけた。


気密が無くなって呼吸もできず、血液はほんの少しずつ消えていく。骨髄につながる部分も死んでいるので、生きていくことはできない――――けれども、窒息か失血かで、苦しみは長く続くだろう。


機械能力で体を強化したツケが、ここで来ているとでもすればいい。なんせそうするための資金は全部、だまして殺してぬすんできたものなのだろうから。


店主は目を大きく開き、そして怨嗟の声を上げ、壊れた右腕を自分の頭蓋の穴に突っ込んだ。


「鬼畜外道が……」


そして彼は、自らの機械知能を掻きだし、終わりを迎える。


「お前のセリフでは、ないだろうに」


それをアストラは、間違いなく確かめた。最後に彼がつぶやく、『一体俺は、何をして』といった言葉を聞き逃さずに。


----


「終わった、か」


アストラは小さく息を吐く。このような事件が何度も起きる、異常な都市。だけれどもそれが表に出されず、どこまでも苦しみと悲しみが続くのだろう――――倒さねばならない、この都市の裏は。


彼はタッグを持ち、ビッタから来ていた通信を見る。最初は事件について、次は犯人について。そして最後は――――この情景のところどころにある、本来あり得ないはずの『私』や『俺』について。


「じゃあ、この視点は誰のものだ?」


彼は来ていた映像を開き、そうつぶやくとと同時に、私の視界にノイズが走り何も見えなくなる。


----


アストラたちを見ていたのはステルス迷彩に隠れたドローン――――神経直結した特殊機体であり、何も見えなくなったのは、それを操る人物が斃れたから――――つまりアストラの協力者、ビッタ・べリスがハッキングを完了させたからであった。


主犯たるオールワ・ミリは簡単に脳を焼き切られ、死んでしまっているのである――――人間をやめたミュータントとはいえ、能力の根源自体は人間と変わらない。コンピュータのDDOS攻撃を完全に受けきることは不可能なのだ。


加速した血流で補おうとしたけれど、それも不可能だったようで、不可逆のパルスが脳髄を走っている。それに応えようとする身体は、びくんびくんと蠢くだけだった。


「アストラ。大体の結果わかったわ――――今回は、ストレイドの絡みでも何でもない」

「ただの偶発よ」


「どういうことだ?管理人がクローンウォリアーの試験体まで出してるんだから……」


ドローンの持ち主は知らないようだったが、住民たちは皆、測ったかのようにアストラが昔見た人物と顔立ちが同じだった。身長も同じで、銃の構え方も。そしてカメラ越しでは気づけないが、特殊な塗装で額にコードが示されていることも。


「あれは盗まれたもののようなの。正確にいえば、アイツの能力で脳機能を墜とされた挙句、洗脳まがいをされて上書きされてる。だから所属がストレイドの意識のまま、アイツに従っていたのよ」


「それでか――――あの店主、普通の犯罪者がミュータント化したにしては、無駄に機能が高かったからな」


最後に聞こえた言葉は、つまりはどこかから脳機能を乗っ取られたということなのだろう。そうして無理くりに遠隔操作をされ、手先になった挙句に集団で動かす、と。


「泥棒の演劇なんだけど、知らない奴を乗っけるにはいいのよねぇ。私としては癪だけど、アイツの能力は恐ろしかったから」


「劇場型の泥棒、ねぇ……ともあれ、今回は助かった」

「俺もいくらか飲まれかけてたからな」


実際アストラは幾分知能が落ちていた。通常ならさっさと殺しているはずなのだが、クローン相手にも生きているという意思が働いてしまっている。潰せるなら潰しておかないと、面倒なだけだったのに。


「お互い様よ。まあともかく、活動を続けましょうか。次のポイントなんだけど…………」


そうして一夜の気狂いは終わった。だけれども、この偶発は誰にも記録されないのだろう。ネットの世界に流されたこの映像は、どうしてか見たものにまで効力を持っている。だからそれを消し去らねば、間違ったままの情報が世界にあふれることになる――――それは起こしてはいけない。アンダーシティ浄化の為に。


アンダーシティ・ケルスの夜は長い。


----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ