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羽根と羽/邂逅

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ファリス・アウラは代わりになりそうなガラス板を探して、崩れた天蓋の空の下を歩き回っていた。このブロックにはほんの二十×二十センチを切り出すに足りるだけの一枚板はもう残っておらず、代わりに粉々になったスカイブルーの透明な砂が窓枠と床に残っているばかりだった。最後の一枚を確かめた彼は、やれやれと頭をかいて木の扉を羽のナイフで切り取った。


彼はしばらくの代用品を右手にお盆のごとくして持ち、ナイフを体に吸収させてから外へ飛び降りる。三十メートルほどの高度があったが、彼の地からすれば些細なものだ。ファリスは烏の脚力で自分のダメージを地面に押し付け、彼は歩いて(ネスト)へと向かった。


急ぐほどのこともないし、ゆっくりでいいか。彼は周囲に何もいないという自分の感覚を信じて歩く。だがそれが間違いであったと、目と鼻の距離となったところで、彼は気付いた。


「………明らかに俺が出したのと違う羽根が落ちてやがる………」


彼は体に力を込め壁に背を預けながら、ゆっくりと入り口の戸の脇に体を預けた。


中の音を読み取って敵を確認する………。中の音はほとんど聞こえない。それでも用心に越したことは無いと、彼はゆっくり戸を開ける。3度、6度、10度……。そして体が入るに十分な角度となったところで、彼は体を完全に変質させながら飛び込んだ。


前転の最中に飛ばした数枚の羽が床と壁に突き刺さる。彼はそれを立ち上がると同時に一枚引き抜き、右手に生成したバックラーと共に左手に構えて侵入者に相対した―――そして彼の目に、どこかからかっぱらってきたカーテンの塊が映る。それは全く動かず、青い顔をして胸を上下させるばかりであった。「……これはご挨拶だな」彼はつぶやく。


ファリスが見つけたのは、床で眠っている少年の姿だった。彼は死んだように眠るそれをつんと突いて、目を覚ましそうか、彼が自分を殺すに足る実力を持つものなのかを確かめた。だが空腹で意識を失っている少年は目を覚まさない。


おそらく疲れているか、それとも空腹で意識が無いか……どっちにしろ多分、半日は目覚めまい。彼は脅威でないと確信し、それでも警戒を解かずに部屋の戸を開けた。


「こいつ一体何があったんだ?」


彼は出来る限り目を離さないようにしながら変身を解かずに駆け、二秒で部屋から全部をまとめたブリーフケースを取ってくる。そしてファリスはゆっくりと少年の姿を観察した。


顔立ちは幼いが、それにしては少々しわが深い。肢体は細いが十分以上に筋肉がついていて、ファリスと同じように少しだけ、胴体に対して足が長かった。そして腕に、壊れた何かのロック機構が取りついている―――これらから見るに、こいつは元奴隷か。体には寒さを耐えるためだろう、ファリスのものより少しだけごわごわした羽根が生えていた。そしてぼろぼろになったカーテンをサリーのごとく着て、傷だらけの体を隠している。


ファリスは目を覚まさせるために、何か大きな音の一つでも出せないかと周りを見た。猫のごとき姿した持ち主から奪ったこの喫茶店だが、大分綺麗で使いやすいのだから、あまり壊すことはしたくない。だから護身用銃でもあれば……。


仕方ないので彼は、腕だけ変身を解いて、体が壊れないギリギリの力で手を叩いた。爆発かと聞き惑うような衝撃音が、そこまで大きくない喫茶店の一室に響き渡る。


「!」少年が目を覚まし、わずか数秒で進化した筋力で跳ね飛び、耳をふさいだ。


文字通り跳ね起きた少年は、自分と同じ烏の姿した亜人を見て、自分も変身して飛び下がった。


「お前は……?!お前は誰だ!」少年は目の前に現れた獣に問いかける。


「それは俺のセリフだ。お前こそ誰なんだよ」ファリスはまともに付き合う気がないのを察しろとばかりに、質問に質問で返した。


空腹でそれに気づかない少年は、解を探そうとする。「俺は………」憂いた目をして止まりかけの脳を回す。深夜テンションのごとき不思議な状態を維持しながら停止しているその姿にファリスは、彼が戦場に立って戦う人間で無いことを見て取った。


「もういい。消えろ」ファリスは少年に対応できない速度で床を蹴り、彼の首元の羽根をつかんで外へ投げ出す。そしておまけとばかりに期限がまずいチョコレートバーをすべて彼に向けて投げつけた。「二度と来るな」彼は理由なく切り捨てた。


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「マスター。プラントの空気からジャック・OのDNAデータが採取できました」


灰色をした亜人は低い落ち着いた声でそう告げる。「それで、次はどういたしますか」彼は長身を折り曲げてタッグを差し出し、受け取ってもらうとすぐに跪く。


目の前の男性は口元に手を当て、肘をソファについて空間をにらみつけながらそれを確認した。彼の足元に猫が飛び乗り、あくびをして体を丸める。わずか数秒で情報のすべてを見切った男は猫の背をなぜ、口を開いた。


「殺せ。それだけの能力者だ、きっとこっちには靡かんだろう」


その言葉にはナイフが刺さっている。彼の実力を知っているのならば、それを聞いたもの全員が震え上がるかとも思えるほどに、多量のナイフが刃を貫通させた状態で。


「御意」亜人は影となり、風となってその場から消え去る。男は猫の背をなで、彼女を持ち上げて立ち上がった。不快そうに猫は手を振りほどき、気に入りの柔らかなクッションに着地して丸まりなおした。男は書架から分厚い本を一冊取り出し、パラパラとページを捲る。『赤と青の交差による有限認識と無限性』と題されたその書物は、何十何百回は軽く手に取られたのだろうか、ページが皮脂で黄色く染まっていた。


男は目を通していく中で、一つの記述を発見する。『クオリアによる思考と赤は赤であるという思考』と記されたそのページを彼はおもむろに破り取り、いったいどうしてか残りのページも千切りばらまいた。


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