古巣キック/エピローグ99S
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ガレージ付きの、それなりに見える一軒家。レンガ造りに見えるが中身は鉄筋コンクリートであり、弾丸は通さないくらいには強度ある作りのものだった。
切妻のポーチに降り立ち、ビッタはロックを開けてガレージを開き、荷物ごとポラリスを押し込んだのを見てから、暖かな木材で出来たフローリングの玄関に、足を踏み入れた。
ガラガラと厚めのメタルシャッターが閉じる音が響いてくる。同時に元から静かな方であるエンジン音が消え、響いてくるのは女性の力む声と荷物との衣擦れだけになった。鍵を閉めてビッタは手伝おうかと、ガレージに続く戸を開ける。
「どうだい?なかなかいいんじゃないかなーって思うんだけど」
すると荷物を抱えて苦しんでいるクリスは言葉をぶん投げる。
「最悪ね。ガレージ代だけは払ってあげるわ」
「じゃあガレージで寝てよ。シャワーとバス、トイレだけは許してあげるけどさ」
「気が変わったわ、半分だけ払うだから私に部屋を寄越しなさい」
「強欲なポリスは嫌いよ」
そう言ってビッタは自分のぶんの荷物を持つ。
「もうポリスじゃないからいいのよ。それよりあとで、あの銃寄越してくれる?」
「なんでさ。あれは私のなんだから売らないわよ」
「メンテしてやるっつってんの!」
ここで二人は廊下に置き、平屋建ての部屋二つにそれぞれ分かれて運び込み、下着と洗面用品、食器と食料を出して備え付けの冷蔵庫に突っ込む―――当然会話はつづけながら。
「銃なんて使いつぶすもんでしょ?メンテなんていらないって!」
「……ビッタ、アレいつ手に入れたの?」
「ざっと二年前だっけかな?」袋の音と硬い音。
「…………いつ手入れしたの?」道具一式が部屋に出る。
「してない!」そして響く、元気な返事。
「……………………二年も?」
「二年も!」
そして十数分の沈黙。
「……一晩は返せない。これは確定事項だからね?」
馬鹿じゃねえのといわんばかりに、荷を持ったクリスはドアを蹴り開けた。
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金属粉末と綿付きの棒、ウエスにグリース、ナイフ、タッグを持ったクリスは、後ろで暇をつぶしながら作業を見ているビッタに何も気を払わず、写真を丁寧に取りながらスライドを外し、バレルを引き抜き、マガジンのリブ接触部分を確かめ、遊底を押し回した。
「壊したら承知しないからねー!」
何を言われても聞くことなく、彼女はバラバラになった部分品全てに欠けが無いかを確かめ、どこがどう可動していたのかを軽く合わせながら見ると、原型と形が変わっているだろう場所に軽くナイフを当て、切り込めるのを確認して抉った。
ほぼ粘度を失い、微細粉末で表面が一見すると鋳造部品かと見まごうようになっていた、回転軸のグリス汚れを彼女は取り払う。そして深くなればなるほどえぐり取れなくなるそれに粉末をかけ、砂消しゴムめいてウエスで削り、ぬぐい取った。
「…ったく、まだマシに動いてたとはいえこれはひどいじゃないの……」
簡易ではありながら美しく組まれた反動抑制装置を、まるでパズルを解くかのように取り外してスプリング、おもり、メインフレームに分けて取る。どこかで見たような記憶のある、部分分割しやすくて性能の良い拳銃………。一つの答えが頭に浮かんだが、今はそんなことよりもと作業を続けた。
「にしてもさ、こんないいものどこで買ったのよ………間違いなく高かったでしょうに」
装置のグリスを塗りなおし、組み戻して数十回前後させて馴染ませる。次にロックをかけてトリガー解放状態を再現し、問題なく動くと確認してから、ほかの終わったすべての並ぶ、机に引いた布に置いた。
「それなりに値段は張ったわよ……でも性能は十分だったわ」
「ならそんなもんメンテせずに置くなっての」
バレル内にガンオイルを流し、ビッタにありえないだろうがブラシがあるかと問い、返事がないままに弾丸のサイズに合わせたものを突っ込んで磨く。どうせないのはわかっているから、ポーズでいいのよどうせ。
「聞いといて返事待たずに続けるなっての―!」
またも無視して続ける。幾らか中のメッキが削れたか気になったが、ウエスでぬぐうとそれは杞憂と理解できた。そして最後にくみ上げ、バランスチェックを軽くしてから、気づいたクリスはビッタに問うた。
「で、これどこで買ったのさ。初期型のショートなんて、あんたの収入程度じゃ買えないのはわかってるのよ?」
丁寧にビッタに手渡し、クリスは昔見ていた銃専門雑誌を思い出す。一丁数千万で売りたいと書かれていた広告が、次号にはSoldOutになっていたほどの名作が、どうしてこんな奴の手に。
「……バレちゃったか」
「それにこれ、盗んだんでもないでしょ?盗むならコイツの価値はわかってるはずだし」
「シリアルもそれっぽいけど、真っ赤な偽物だし」
「……本当どこで買ったのよこれ。無茶な注文だしたら買えちゃったとでも言うつもり?」
「………そこもバレちゃったかー………」
そこでたっぷりためて、ビッタは不敵に笑いながら続ける。
「なら、場所も多分わかるよね?」
本当にあるとは思っていなかったけど。クリスはその場所の名を答える。
「『セカンドレイヤー』?」
「大当たり!私が追われる原因はそれなのさ!」
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先に取り出したタグレースを、そこらの無線LANの回線を盗んで接続し、足がつかないように情報を入手してから、すぐに切断をする。そして残った情報をクリスに見せ、ビッタは雄弁に語りだした。
「セカンドレイヤーへのアクセス方法は一つ。専用のカードを使って、オッツダルヴァ駅で乗り込むの」
「そうすれば特急カプセルに案内されるんだけどね、それに乗れば途中から、別方向の地下へと潜り始めるのさ」
「そうすればあとは簡単、つくまでしばらく眠ってるだけよ」
彼女は秘匿回線からすっぱ抜いたデータを一つつまみだし、その内容物を読み上げて状況を答える。
「んでもってそうね、着いたら大体のことが金で出来るわ」
「例えば殺し。一人アシつかないように殺そうって頼むんなら、ピンキリだけど大体500万で片が付くわね」
「んで次にドラッグ。上で流れる同人の粗悪な水増しより、安く早く効くのが出てるね……アウアウな濃度も成分もできるし、扱われが多いから上の企業のより数段安全ってのもある」
「他にもコピー品に海賊版に偽物に贋作に試作品の横流しに売り切れたはずの大量の物資に…………。転売ヤーだのじゃ予想もつかないくらいには店売りされてるのと同じもんが捨て値で売られてるし、あら!人間まで変えちゃうっぽい!」
そんな非日常的で非現実的な事実の裏側に、クリスは天井の方を向き手を顔に当てて笑った。
「…………予想以上とか、そういうレベルじゃなかったわ…………腐りすぎよケルス」
「もうここまでくるとさ、何でこんな町守ろうとしてたんだろうね………ばっかみたい」
「あらそう。ポリスの言うことじゃないわねぇ……ところで」
悲しげな声で空虚に笑うクリスに向け、ビッタは何らかのカードらしきものを取り出し、そしてそこに記されている偽造のマークを彼女に突き付ける。
「これ、なんだと思う?」
それが何かがわからないクリスではない。当然これは、先のセカンドレイヤーのための専用パスと言ったところなのだろう。それをけだるげに引き抜き、ちらと見てから彼女は使った跡を見て、答えた。
「どうせゲストの偽造したんでしょ?んでまたなんでかそれがバレちゃったってとこ」
「だから代わりにホスト扱いで潜入できるの作ったとかそんなとこよね?」
「正解」
ビッタがそれをさらに引き抜き返し、タグレースで投影して続ける。
「もっと言うなら、あんたの奴に突っ込んであったバックドア経由でちょろまかしたのさ……ところでもう一枚だけコピーできるけど、どうする?」
「……寄越せ」
「と思って終わってるわよ。ほれ」
まるで手裏剣のごとく彼女は投げる。クリスが受け取ったそれは、完全に先のものと同一であった。
「侵入はいつ?」
「せめて一週間は欲しいかな。装備ヤミで漁りたいし、99ショートをどうにか戻したいしね」
「あらそう。ならこっちも相応の取り寄せるわ。何いる?」
そう言って彼女は、匿名の運び屋に連絡し、いくらか保存しておいた隠匿商売のサーバーとつなげる。それのカタログを軽く流し見て、これとこれととクリスが選んでいった。
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