古巣キック/ビッタ
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「ねえビッタ。私はちゃんと鍵をかけたし、誰もいないのは確認したはずなのよ……どこから入った?」
照準正しく合わせられた愛銃のポインターで、クリスは彼女の額を狙う。万が一ということもあるのだから、終わらせられるうちに終わらせるしかない――――あまりしたくはないのだが。
彼女はセフティーも外れていると確認し、答えを待つ。十数秒の空白時間の後、ビッタは落ち着いて答えた。
「ゼロゼロ物件の電子ロックなんてないも同じよ」
「アンタ逃げてきてるのに、そんな事さえ知らなかったの?」
そして握っている小さなチップを示し、こんなもの数百もしないで買えるのよと笑う。
落ち着いてクリスは銃を下ろしセーフティーを入れてから、それが何なのかと渡してもらった。
「……ガキでも使えそうね」
わかりやすく端子の形の示されたパッケージングの、ロック解除装置の感想を述べるクリス。ちゃっちい材質のカバーとお安いジャンク基盤が元になっているのから、ある程度雑にしても十分耐えるだろうというのがうかがい知れた。
「実際そうさね。なんせガキでも使えるように作ったんだから」
それと同じものをいくらか取り出し、ビッタは笑う。
「ま、それで私も追われの身になってるんだけどさ……」
そして少しだけ壁の方を向き、乾いた笑いと共に言った。
「何やらかしたの?」
クリスの質問に対し、彼女は少しだけためらってから、大き目のパッドを取り出して画面を写し、ミュータントの画像数枚をスライドさせ、つづけた。
「その前に、あんた『ストレイド』って知ってる?」
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名は知らないものの、起きていることの全てを理解したクリスは、映っている人外が自分を追っているものと同類であるとすぐに受け入れ、事実を答える。
「名前は知らない……でもやってることなら知ってる」
「なら早い」
ビッタが手をたたく。
「私ねー、あれに手―だしてねー、バレたの」
「んで追われる身になった、ってーわけなのさー………」
数年前にチャラにしてくれない?と持ち掛けた通りの応答に感じ、クリスはあえてあの通りにこたえてみる。するとビッタはあの時と同じように、どっちがどっちをするかの話を続けるのだった。
「取引よ。あんたがフィジカル、私がネットワーク。それでどう?」
「尻尾きりしないとは?」
「アンタ私がそんなタマって?するならしてる」
「これが最後よ。考えられるのは一時間。じゃないと掴まれてるから共倒れってね」
そしてタグレースで空間投影し、一時間後にここの襲撃を行うと書かれたストレイドの計画書が映す。
「サングレ・オ・リベルタ。死か解放か、って映画のまんま」
「三十分だけあげる。その間に掃除でも終わらせることね」
そして内ロックを開けて外から閉め、彼女は隣の自室へと消えた。
一つしかない答えを十秒だけ数え、ごみの全てを焼却炉に投げ込む準備を終えた彼女は、そのまま部屋を出て、応じる。
そして予備のメットを投げ、ガレージで待っていろと言うのだった。
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サブシートを出したポラリスに二人でまたがり、物件の賃貸情報を消し去った彼女らは走り出す。
行く先は偽名に偽IDで借りた通常の物件。ガレージ付きで出来るだけお安く、かつ身分が確保されていると受け入れられない限りは借りにくい場所。裏に落ちた二人がいるはずがないと思えるような、あえて表にあるような場所だ。
「信用してくれる、でいいの?」
短距離通信でビッタは呼びかける。
「どうせアシあるのは私だけ。それに市民を守るのはポリスの仕事なのよ?」
「辞めてきたくせに何を」
あえて大きく左右に愛車を揺らすクリス。
「都合退職っていう名の強制解雇!」
「だから私のせいじゃないし!」
「ああもうわかったわかった!から揺らすのやめー!」
少しだけ操りにくくなった相棒を抑え、周りと同じ速度で車体を流す。そして音声入力で内臓タグレースを起動させ、クリスは持っている情報をビッタのHUDに映し出してやった。
「……ああもう。で、こいつは?」
視線入力で右に左にとデータを流し、大方を理解した彼女は言う。
「ぬすんできたデータ。あんたならちょいとはわかるでしょ?」
「どっから持ってきたのさ?」
それにわかっている質問を、ビッタはした。クリスが少しうつむいた状態のような声で囁く。
「……ポリス」
「ポリ公が犯罪を率先して犯すんじゃねえの!」
割れんばかりの声量に拡大された声が、メットに響いた。
「っさい!手段はこれしかないからいいのよ!それに入れる方が悪い!」
「ならあたしが開けれたのもアンタが悪いことになるわ!」
「ポリスは例外!緊急避難!」
「お前やめてきたっつってんだろうが―!」
つかの間の談笑が、このまま十二分続いた。
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