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古巣キック/侵入されるとは

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タイヤがシルクリートをこするたびに、グリップは加速度的に増していく。する意味がないからと投げ捨てられた冗談の塊のような技術の塊たるクリスの二輪オートが、元来持っていた性能を少しずつ取り戻していく。


フレームの基礎を幾重にも折り重ねられたカーボンナノチューブのシートで構成され、それに酸素の入る隙間無きほどに密着させ成型された無垢のアモルファス高張力金属が、摩擦の解消と部材保護、そして単体でも機能できうるほどに練りこまれた最低限の機能を与え、そこに部分品を取り付けることによって能力を拡張する。


後の世代に使われることを考えての構造ではあるが、製造当時には拡張性に見合うだけの技術が無かったために見向きもされなかった、ロストテクノロジーの一種。再突入用の有人カプセルや、真空管で飛んだ音速戦闘機の一つに見られるような運命をたどった、早すぎた物体。


それがポラリスだった。


途方もなく昔に一部分だけ建造され、あまりのコストと有機物の不足によってあきらめられた、地球の直径の10倍ほどの長さを持っている素晴らしく有意義な昇降装置。それに使われているものとほどんど強度的にそん色なく、曲げや切断にはその10倍強く、そしてコストが1000倍かかる。


そんなものをポラリスは有機的な形状のフレームに採用し、搭載容積的に見てもかなりの無理がきくようにできていた―――50㏄から1200㏄までのほぼすべてのエンジンを駆動軸を合わせる事さえできれば搭載できるようにとの頭の狂った発想を元に、製造した社のものならすべて互換するように完成している上、操作用の内部機構は別でフレーム内部に収めていることからも、その異常さがわかるだろうか。


付け加えるなら、このバイクには公称スペックを達成するうえでエンジンが必要ないというのも特筆するべき点である―――蒸着とコールドハンマーによってモーターを構成する部品は全てリムに収められており、リチウム炭素バッテリーを別途で搭載すればそれだけで動くのだ。


まさしく万能な完全の機体―――だが当然ながらコストはそれに釣り合わなかった。


だからプロジェクトはどこかへ蹴っ飛ばされ、販売も短期で終了したのだが、それでもマニアだのに残っているものがある―――そしてそれが、クリスの駆る愛車であった。


静かなモーター音と情熱の炎灯るエンジン音が相互に響きあい、マフラー内で無数に反響しては反発して砕けあう。


「少しばかり重いわね……軽さがとりえだったのに、これはちょっときつい」


ほんの少し左右に振って彼女は、新しくなった相棒のバランスを理解し、交通事故製造機とまで言われるそれをノンブレーキにアウトインアウトでガードレールギリギリを曲がり切って見せた。その隣を通り過ぎる、わからいように装甲された高級リムジンが一台。


見逃しはしなかったが、それに手を出して焼かれるバカではクリスはない。


そのまま彼女はフルスピードで走り去り、前にチェイスした時の経験からわかる安全圏へと逃れ切った。


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「ちょーっと追及厳しくなってきたかなー……」


借りたアパートをすぐに引き払えるように、ポラリスのホイルスペースに乗せられるだけの荷物をクリスはまとめ始める。


こっちに来る時に大体置いてきたとはいえ、睡眠用具に万能ナイフ。簡易整備用の工具にタッグとタグレース用の充電装備。さすがにファストトラベルなしでは移動に少し面倒になる量のものではあるのだから、最低限を残して動ける状態になっておくに越したことは無い。


彼女はホイルスペースにしまっておいたバッグを取り出し、エンジンを切って三重のハードロックをかける。そして併設のガレージに相棒をしまい、そこから自室へ入って粘着テープを取り出した。


ポリス時代の都合上ショートではあるが、それでも落ちた髪がなんぞすれば最悪人間が割れる。広めれば祭り騒ぎ好きな人民が、どうエンジョイするのかは想像に難くないのだから――――――。


彼女は手に一周巻きつけてフローリングをペタペタと延々繰り返し、床に落ちた物体の一つ一つをくっつけては回収していく。次に埃を限界まで取り払い、美しい状態のニス塗り木材へと変えていく。そして最後に、料理場のゴミ袋の中身を流せる分だけ流しで処理し、大まかにほぼすべての情報を消し去った。


新品同様とはいかないものの、十分に整えられたワンルームが目の前に広がる。


「……別に掃除するのはいいけどさ、音がうるさいのなんとかしてくんない?」


そしてクリスは腐るほど聞いた声に向け、愛銃RP-22を向けるのであった。


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