時雨傑作選
これまでの時雨を振り返ろう!
----
『とらわれた二人』より抜粋
ガラス状に光るシルクリートジャングルの中で、アストラは身を起こした。向かい合っていた相手は体の半分が消し炭に変わっていて、そこから機械の内臓がのぞく。
「俺は……負けたのか…………」
フィブリノはこれで満足だと、闘技場の中央で笑うのだ。
「お前に負けるなら、悔いはない。こうしてみれば、結構死ぬのも悪くねえじゃねえか」
彼はなんとか燃えずに残っていた服から、なんとか燃えずに残っていたたばこを取り出し、そこらの残り火から火をつけて口にやる。薄い琥珀色が広がって、そのままの姿勢で彼は眼を潰す。
「……これで、俺は何も見ない。もう何も覗かれることもない。もう誰も殺さない。走狗はこりぎりさ」
「いいのか……?だってそいつは、お前の恋人の……」
アストラのセリフはさえぎられた。
「いいんだよ。アイツが望んでるのは、きっとそういうことさ」
そんな死の前の反省は、アストラにとってはちくりと来る。彼だって恋人は死んでいるし、彼だって復讐の走狗として動いたのだから――――だからアストラは、フィブリノに対して、何も言わない。フィブリノは感謝しつつ、最後の感覚に身を浸す。
きっと彼の中では、走馬灯が優しかったころの記憶をなぞっているのだろう。何度となく死線をくぐるたびに蘇る美化された思い出は、どこまでも痛みを和らげ、どこまでも甘い。
「お前がそうなら、それでいい」
人工血液が床に円を描く。広がる色は残りの命。咲かせた花は散華の事実。アストラは何も言わず、その場を去った。
「アストラ。言い忘れたが…………」
フィブリノは届くことのない言葉を、彼のニューロンの中で繰り返す。
「―――――――――――――――――――」
それを聞くことは、ほかのだれにも出来ははしない。
----
『アフター・ワーク・プリズン』より抜粋
エドナ・プリズン脱獄はニュース記事の一面を飾っていて、手配書めいて彼らの嘘を広めていた。狂った囚人が刑務官を殺害したとか、超能力で壁を壊したとか、未来能力で別世界に帰ったとか。新聞はもはやゴシップで、テレビニュースはコミックアニメ。
「あなた、5000人殺しとかになってるわよ?」
ビッタ・ベリスが眠っているアストラに呆れる。何をどうやらかしたらここまでこじれたことになるのか。ちょっと刑務所に侵入して、ちょっとデータを持ってくるだけだと打ち合わせしたはずなのに。
アストラ・リベルタスは四散しそうな体を紙のようにひねり、壊れそうな胴体を谷折りして起き上がる。
「あながち、それも間違いでもないかもしれんがな…………悪くはないが、しかし」
「そこは否定でもしなさいっての。なに?逃げるとき、何やらかした?」
「結構な。こいつ見てみろ」
彼が示したのは、ゴトロド・ウィークリーだった。
「爆破は事実だし、超能力で壁だって壊した。刑務官にストレイドのミュータントがいたから、逃げるために深手まではやったんだからな…………ほら、『刑務官D氏が崩落などに巻き込まれ重体』だとさ」
「はは、お笑いお笑い」
ビッタ・ベリスはそのまま画面に向き直る。
「でも、やったことには責任取らないとな」
鋭い声色に呼応して、アストラは返した。
「元よりそのつもりだ。ストレイドを倒し、復讐を終える。これ以上痛みはいらん」
----
『北極星は夜走る』より抜粋
「まだいける!まだいける!」
ポラリスのラウンドフレームはひびが入っている。作られてから、前のメンテナンスから長いこと異常環境に身を置いてきたのだ、無理があっても不自然ではない。10、20のカーチェイスで交通事故めいた飛び乗りに飛び降りにバックフリップをさせれば当然とも言える。クリスはその愛馬に、あとワンコーナーだけ耐えてくれと祈った。
暴走するスーパードラッグカーからの射撃が火花を散らし、クリスのマグバッグのベルトを切った。
「次で仕掛けるよ……!」
背後から轟き叫ぶは、点火された固体燃料ロケットの噴煙。通常のドラッグレーサーなら絶対に曲がり切れない速度だが、ミュータントとマシン性能からすれば簡単だろう。赤と黒の稲妻が公道に現れる。殺人的速度に、偶然フロントウイングにひっかかったエレカは吹き飛んだ。
分析コンピュータ曰く、リムレスのホイールは4%にゆがみがあるらしい。ギッギギギギさっきから鳴り響いているのは、おそらくチェーンかベアリングか。背中にいるアストラが、99ショートのマガジンを入れ替える。
2回トリガーを引いて一回ジャムして、そちらもかなり限界そうだ。
「あとどれくらいだ!」
横倒しになって転倒する追っ手を見つつ、彼は叫んだ。
「もうすぐよ!」
クリスは同時に、ポラリスをセンターラインと直角にスライドさせた。
横っ腹にぶち当たるウイング。衝撃とブレーキでポラリスが宙に浮かびあがり、やった!という目をしたレーサーがクリスには見えた。高さは地面から15メートル。
人間であれば確実に死ぬ距離であり、ミュータントでもドラッグカーのガトリングを回避できない空中。
決まった!そう思える状況だが、そこにアストラはいないのだ。
彼女と相棒の元に飛んでくる、見慣れた銀色の線の元は、シルクリートジャングルにアンカーを撃ち抜いている。それは人外の力で引き戻し、空中で運転を変わって、反対向きの射線にまるで木の葉でも落とすかのように着地した。
ポラリスが最後の力を振り絞り、二輪で叫んで走り出す。
テールランプの血を残して、涙の光を街に描いて、二人はシティの中にいなくなっていった。
----
『デストロイ・ライト・ナックル・バスタード』より抜粋
「オラァ!」
ジャニーの右ストレートがアストラの胸に突き刺さる。
「ふんぬぁ!」
アストラの右ストレートがジャニーの腹に突き刺さる。
「オラァ!」
ジャニーの右ストレートがアストラの胸に突き刺さる。
「ふんぬぁ!」
アストラの右ストレートがジャニーの腹に突き刺さる。
「オラァ!」
ジャニーの右ストレートがアストラの胸に突き刺さる。
「ふんぬぁ!」
アストラの右ストレートがジャニーの腹に突き刺さる。
「オラァ!」
ジャニーの右ストレートがアストラの胸に突き刺さる。
「ふんぬぁ!」
アストラの右ストレートがジャニーの腹に突き刺さる。
「オラァ!」
ジャニーの右ストレートがアストラの胸に突き刺さる。
「ふんぬぁ!」
アストラの右ストレートがジャニーの腹に突き刺さる。
----




