表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/174

まだ眠れる獅子の牙/かつてのこと

----


コールド・タウンは炎に包まれて終わってしまった。ニュースで『ウィンと名乗る不法占拠者のリーダーの死亡が確認された』というのが流れてきて、アストラは、もうどこにもいられないのだなと一人泣いた。


ハルとウェルとの連絡ルートは、最後に連絡した後にタッグを落としたせいでなくなった。手紙を出そうにも、俺たちは住所なき人種。やっとできたのがそれだったのに、焼け出されてはしょうがない。


保険なんてものに入れるような人間もいないのだ――――だからまた、職不問の安月給に甘んじるしかない。現金はともかく、通帳だけはギリギリウエストポーチに残っていたので、資金だけはどうにかなれども。


買いなおしたタッグで見るニュースには、三日前の火災のことばかりだ。


『なぜ暴動は起きたのか』『なぜここまで燃えてしまったのか』『市民の被害』『ポリス、戦力の強化を』『政権交代は必要であろう。これがケルスに巣くう闇だった』


どれも悲劇にかこつけた自分の意見だ。だれも心から悼んでなどいない。当事者がどれだけの痛みを持っているかも分からずに、外からやれ雨はあの時やむんだから傘はいらなかっただの、なぜテロリストが来ると想定せずに銀行に行ったのだだのをしている。


「次のニュースです。先の不法居住者地域の火災についてですが、当局はこれを『ウィンディ』『HAL』『リベルタス』の3名によって先導されたものと見て、彼らの逮捕状を発行しました。しかし『ウィンディ』に関しては死亡が確認されており、残り二名も消息不明です。これについて…………」


外から見る者はいつもこうだ。だれも責任を取らず、誰も事実を知らず、誰も真実を語らない。触れないものくらいだ、正しく優しいのは。


結局アストラはまた、闇の街の中に暮らすこととなる。真っ当な仕事をすれば謎の人物に襲われるのだから、だったらもう非合法にしかできることはない。


煌びやかな街ほど、影は深くできるのだ――――この街は何度それで、俺を苦しめるのだ。


彼はもう動けないだろう。オキシゲンを失った精神は、埋められたままだろう。太陽灯が無慈悲に彼の肌を焼いた。日焼けもしないはずの皮膚が、目から一筋流れる線に沿って赤くなっていた。


----


行く場所のない人々は、それでも生きるべく、それぞれの土地で新しい生活を見つけていた。


一人は政府の貧民支援を、一人はバラックから仕事を、一人はサバイバルを、一人は拾った宝くじの2億クレジットをそれぞれ手にし、何とか生きていく。そのうちアーカがまた適当な土地を見つけて購入し、少しずつコールド・タウンは復活をし始めていた。


今度は不法占拠だのの言い分をつけないために、土地と上物の租借という形にしてやると彼は豪語していた。


生活設備斡旋をしていたウェルはもちろん、新生コールド・タウンの設備担当。町一つは入るあの土地を高値で売りつけたのだから、家付きの土地を買い入れるなど容易ではあったのだが、その管理が住民にできるとは到底思えない。だからこれからも手伝ってくれと言うからだった。


自分も案外、楽しかったんだ。無くなってから気づいた彼女は、それを否定する気はなかった。最初の最初は金でやっていたことだったが、それ以上に笑顔が好きだった。喜びが好きだった。


あれが壊れたから、もう二度とやらないとは、考えることもできなかった。


バラックからは2段階ほど良いアパート、ちょいと広めの一軒家。生活の上方修正ができたのも、燃えた後の再開発で莫大な利益が見込めると、上乗せが続いたからというのが皮肉ではあるけれど、それでも生きているのだから。


彼女はずっとつながらないアストラの連絡先に『コールド・タウンはまた、蘇った』と小さくノーティス。ずっとつながらないけれど、メメントというか、感傷というか。またいつかあったときに、少しそれで話でもしたい。


わずかに日が傾き始めたので、昼食を取ろうと彼女は近くの喫茶店に。


行きつけだったところにも、いつか話をしないとなぁ。葬式が終わるまでは、そこまでここを離れられないし。


ハルのためにも、自分のためにも。裁断しなおしたハンカチを、彼女はポケットに確かめた。


----


「ウィン・Dは始末しました。ハルはまだですが、ゲバだのに消産材を。あと半月もすれば消え去るでしょう………………ええ。彼女は灰に。ポリスの介入も想定通りで。」


「…………」


「はい。コールド・タウンは消滅しました。ワクチンを投入して、この話を終わらせるべきかと。……野良はいましたが、別段戦力になるほどでもありません。出所は気になりますが、敵対した以上、解析を待つべきと」


「…………?…………」


「そうするのですか……?確かに、アーカから足取りをつかめば、可能性はありますが…………しかし、手間に合いません。老獪にあの二人を隠しぬいたタヌキですから、我々から動くのは得策ではないでしょう。それよりも先に、ハルの始末を」


「……」


「はい」


「…………」


「はい」


「…………」


「わかりました。では、コードを。…………エメス・トリリス。了解しました。では次もよろしく…………我らがボス。リベルタスとオルレ・ミュータントの開発を、急いでください。ではまた」


----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ