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まだ眠れる獅子の牙/暗夜行路

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もうここに誰もいない。調べに調べたアストラは、走って民の護衛に向かう。ついに制圧のためにポリスまでもが動員され始め、遠くでは専用のウィーヴスまでもがトレーラーから体を立たせていた。


「治安維持がどっちの味方だ…………!」


武力をもって殲滅を始めるそれは、逆関節のゲパルト砲塔。対人制圧用の12ミリ機関銃を2門と火炎放射器、マイクロウェーブ制圧装置で、どう見ても目的は殺傷だ。


かつて対峙したものは完全に機械だったが、こいつはカーボンの人工筋肉で動いていて、俊敏さも旧型以上。この体なら何とかできるが、しかし前のだったなら。アストラはワイヤーを足元にかけつつ飛び上がり、上半身に乗り込んでコクピットハッチらしきパーツをねじ切って飛ばした。


中の人間をそのまま彼は引きずり出し、動かせるか?と確認する。もちろんそれは不可能なので、せめて動かせないようにとコンソールをぶち壊して飛び降りる。どうやら自爆装置まで搭載されているらしく、そのまま機体が爆散して炎を広げるのだった。


「ハルもウィンも手ごわい相手といる…………俺が守るしかない」


ウィーヴスから一人一人とパイロットを引きずり出していくたびに増えていく炎の中、アストラはそれでもと苦しむ。


明らかにそれらはこちらの住居か人間を完全に焼き尽くすために配備されているらしく、一つ一つが的確に通路をふさいでいるのだ。視界の端で焼け死ぬ人間が見えるたび、でもやらねばもっと痛みがと悩む。まだ戦いは終わらない。


いつまで続くんだ…………そんな彼のタッグに、ウェンからのノーティス。半分は終わったが、残りとは連絡が取れないらしい。まだネットワーク接続から生きているかもしれないのがいくらかあるからと、彼女は救出を望んだ。


さんざっぱら破壊したウィーヴスのせいで、あたりには特殊燃料の炎が広がっていた。炎色反応でみどりに輝くそれは、まるで幻想の中の地獄かと思える。そんなここに、誰かいるのか?


あと3世帯だけ確認が取れていない。それだけ取れたなら、送るか見殺すかを決めてくれ。そのノーティスは、何度入力しては取り消すの末に来ていた。その間にも飛んでくる銃弾を対処しながら、まだなのかと彼は遠くを見る。


ワイヤー遅延もこっちに手いっぱいで増やせない。切られただろうしもう終わっている。牛のようにいななくウィーヴスを蹴り飛ばし、彼は悩む。


けれどそれを許す状況ではないのだ。彼はまだ、戦いを続けていた。


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「お前にはここは眩すぎるんだよ、ウィンディ。生きる意味というものを探すことも、死ぬ理由に殉じる意味もないんだ。俺たちは誰かを啜って生きるしかできない。わかっているだろう。苦しんできただろう――――食人衝動に」


拳を重ね、脚を砕きあい、ウィンたちは戦っていた。


「今はもうウィンだ…………コードなど、知らん。もう食うこともない…………絶対に」


フラッシュバンめいた破裂音に、こすれる服の高熱。常に輝くのはウィンの側で、それは彼の力から来るものだった。


「せねば崩れるのは承知の上だ……!だからこそ、こうして装束を白に決める」


いつもアストラたちといるときに使っていたのは、戦闘用でない低レベルのもの。ハルのプロトタイプたる彼は、離反時の為に霊長を能力のエネルギー源として開発されていた――――そして通常の食事で使えるものを、サバイバル用程度に抑えられ、彼は自我の前にテストを繰り返された。


「そうして、斃れるさ」


意識が芽生えてからは、理性つきの殺しをさせられた。誰を殺していけなくて、誰かを殺す。まるでロボット製作で、ハードディスクを入れ替える様に記憶の封印をされ、バッテリー液をつぎ足すようにナノマシンを投入して体力を回復させられていた。


そしてハルが作られた。それとほとんど同時に、体質の干渉によって彼は記憶を取り戻した。。


それから逃れるまではすぐだった――――体ばかり成人の彼女は無垢で、このままだったら全てを善だと吸い込んでしまいそうだったからだ。


彼は自分の身体を喰い、力として戦う。


「あきらめろ。スプリングもいるんだろう、今戻るならどうにでもできるぞ」


汚れた自分の最期の仕事だ。


「……もう、戻れん。俺の居場所はここだからだ」


「Memeを吸ったか…………」


ミュータントは折れそうに細い体を、まるでトゥールビヨンのごとく正確に空中で一回転させた。軸のぶれぬ動きは微小時間で動いていないように思え、ウィンの反応を遅らせる。満月めいた回し蹴りが彼の右腕に入り、右足を地面に埋め込んで抜けた。


反撃に光の粒子が飛ぶ。壁に当たると球状に穴が生まれるが、それを男は回避して電撃。


ゼロ電位に向けて人間が灰になるほどのが飛ぶが、それを鈍色の風で曲げつつ足を抜き、ウィンは足元を赤熱させて液にした。


「吸ったのはSceneだ。もう誰も泣かせる気はない」


「それで泣くのは自分だけか!都合のいい!」


「都合が良くても、そうするのが罪人の使命だ!」


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炎はついに街のすべてを呑み込み、絵具をこぼしたようなオレンジをしている。黒煙を上げて死に向かう土地の中に、これ以上の人間はないだろう。助けられないのだ。そう思うしかないのだ。


ウェルはこれ以上逃れられないと状況を見て、切り捨てることを決断した。


結局、助かったのは4割ほど。他はデモ隊もどきにつかまったり、瓦礫の中に倒れたり、兵器の爆発に巻き込まれたりした。銃殺されて、肉をいいように使われた子供まで見えた――――一体私たちが何をしたというのだ。そうつぶやくしかできないのが、ひどく心の奥に刺さっていた。


彼女は苦しみながら、最後のノーティスをする。きっと炎の中、誰かは見つけてくれるだろう。アストラはさっきまで、ハルは後ろのバスに、そしてウィンはどこかに。彼らが生きていることを祈りながら、彼女はエレカに乗り込んだ。


これで、私の生活も終わりか。


不思議に悲劇の主人公になったことには、何の感覚もなく、ただ壊れてしまったのだな、としか思えなかった。遠ざかっていく景色を見ながら、最後の最後に別れを言えなかったな、というのが気になるだけだった。


失職から、精神病から、様々で流れた人のよりどころ。


自分だって、そんな人種を助けたいと思って来た者だったのだが、いつしか日常のある生命に虜になり、自分もそれになった。


きっと自分はそれを、また繰り返すのだろう。彼女はずっと前に一つだけ確保していた、激安の仮宿へを身を送った。


『まだ、生きている』


アストラからのノーティスが来てから、彼の端末との接続は切れた。


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