まだ眠れる獅子の牙/Demoid
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デモ隊はついに武器を持ってなだれ込む。それを察知してアストラたちはバリケードを製作していたのだけれど、それも1時間持つのかどうか。何やら不自然な力を使う人種も見えて、やはり外からの何かが見える――――壊れそうなのを直しに急いで、アストラは外を駆けまわる。
けれど少しの穴を抜けた馬鹿者が出るたびに、彼はそれを先に放り捨ててからしか動けなくなるのだ。
「畜生!逃げるまでいくらかかるんだ!」
「護送抜きで1時間半!どのみち足りん!」
「でも、殺しちゃ駄目なんでしょ!?」
三人は走る。走っては捕まえ、放り投げては地面にたたきつける。殺してはいけない相手とはいえ、だからこそ怒りを込めて。
力を使えば使うほど、戦える時間は消えていく。物を生み出すのも、不可視の力で投げ飛ばすのも、結局はそれをするだけの体力を使っているのだから仕方ない。フルマラソンを1時間使えば終わらせられる力を持つとはいえ、2往復もすれば力が尽きるのだ――――人知を超えた力とは言え、限度だって。
それ以上の速度を出さねばならぬ今だから、手が欲しいとアストラは思った。人の手が多ければ。
少しずつ中に入る数が増えて、少しずつ怪我人が増えて。そのうち彼一人の手に負いきれなくなれば、やはり暴動は炎を持って加熱していく。
少しずつ燃え始める家々の火を消そうにも人の海で、どうしようとも間に合うはずはなかった。
「畜生!通りが!」
ジャンクヤードからバラックにつながる、何度となく行き来したあの道が崩れる。火炎瓶が投げ込まれたらしい――――どうも守り切れなかったようだ。さすがに人が足りないと見える。
「私が行く!火の一つ!」
ハルが叫んだ。確かに彼女なら火からは守れるだろうが、しかし。
「持たねえぞ!」
「持たなくていいの!生きてればいいんだから!」
彼女は人の中に急ぐ。まだ守りたい人はいる。絶対に壊してなるものか。そんな意思だったのだが、やはりそれを邪魔するものはあって、それは人間を超えた何か。ミュータントだ。
「!」
「悪いが、帰ってきてもらう――――被検体3番!」
「嫌よ。もうここが私らの家なんだから」
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「散れ!急いで散れ!」
炎の雨。
「家財は持てるだけでいい!」
どこから来たのか銃弾。
「急いで逃げろ!」
しかしそれをとどめるのは、武装した怒れる市民であった。
「逃がすと思ってんのかよ!」
「この不法占拠者が!」
「法の裁きを受けろってんだ!」
彼らは結局のところ、自分の辛さ苦しさを他者に正当化したかっただけなのだ。自分は正しいところから遠くで殴りこみたい。結局人類というものは戦いを求めていたのだ。
「やめろ!」
アストラは群衆に割り込み、ネットを張って進行を止める。しかしそれは銃弾を止めることはできないのだ――――どうして人民がアサルトライフルなんてものを担いでいるのか。疑問に思う人間はほとんどいないし、報道しない自由で隠されるんだろう。
弾丸の貫通しない壁を張ることは難しいと、逸らすだけの盾で守ってやれば、今度は触れればアウトの炸裂弾とロケット弾頭。どこが市民だ。
「畜生…………これが正義ってのかよ…………殺してまで、人の生き方を奪ってまでするのが正義なのかよ!」
ついにアストラは、耐え切れずに市民へHEATロケットを投げ返した。信管を作動させない精密な動きと、再加速させる早さ。化け物じみた行動にデモ隊という名の武装組織はひるまなかった。
「うるせぇ!さっさと退去しろ!」
人の列は止まらない。圧倒的に増えた人間の数のせいで、壁の修理にすらもう彼は入れなくなった。ほんのわずかな穴がダムを崩壊させるに至るようだ。
「畜生……畜生!」
アストラは急いで、人を逃がしにかかった。
「ワイヤー!?止まれ!」
さっきのネットより頑強のワイヤーを広げ、つかめないようにとげを出す。銃弾を攻めて通さないようにとガーゼめいて層にして穴を減らす。刺さったのが出ると波は一時的に止まり、彼らは指示を待とうと止まった。
「なんでこんなの……切れるもんないか!」
「切れ!切るぞ!」
だが彼は、切るなら増やすまでとして対抗する。その間に誰かが逃げられるのなら本望だ。遠くから飛んできた火炎びんをつかみ、既に壊れていた家の柱に塗り付けて燃やし、倒す。
「こっちは駄目だ!向こうに回れ!」
また波を分断して、彼はそれを殴って倒した。
3割がなんとか抜け出したとウィンが叫んだ。護送は1割が終わったとウェンがノーティスした。なんとか脱出ルートだけは最低限確保できたとハルが伝えた。あとはもう、遅滞戦闘だけだった。
ただの人間だけならもう、これ以上の戦力はいらない。ひとまずは解決した。そう見て取れたらば、すぐに邪魔が入った。それは人間からはかけ離れた姿――――四足歩行が二足歩行をして、武器となる四肢を強靭にした獣をしている。
それは背中に人間を背負って飛び回っていたが、アストラを見つけると背の人を外して飛び掛かる。
「!」
ウィンがそれに割り込み、水平回転で投げ飛ばして見下ろした。
「ウィンディ……悪いが、お前も一緒に来てもらおう…………もしくは死ぬかだ」
かなり前から知り合いなのか、ウィンディと呼ばれたウィンは苦虫を噛み潰したようにこたえる。
「両方嫌でな。帰ってもらおう」
「じゃあ殺す」
そうなれば仕方ないと、大儀そうに返ってくるのだった。
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